[文書名] 国政に関する公聴会(札幌)における佐藤内閣総理大臣演説
私はこの機会に、わが国が当面いたしております国内事情の問題と、外交上の問題、この二つの柱につきまして私の所信を披瀝いたしまして、皆さまのご理解あるご声援、ご協力をお願いしたいと思います。
私は一昨年、政権を担当いたしまして以来、国民の信頼を得るということが、これは政治の要諦だと、かように考えてまいりました。国民とともに歩む清潔な政治を念願してまいりました。しかしながらお集まりの皆さまがたも、すでにご承知のように、新聞、ラジオ、テレビその他において言われておりますように、公党の一部におきまして道義の問題、さらにまた、綱紀の問題等につきまして、大変国民の不信と疑惑を招くような一連のできごとがありました。まことに遺憾にたえません。政局を担当する者といたしまして、責任を痛感しておる次第であります。この点、国民の皆さまに対してまことに申しわけなく思つております。しかし私は今後も引き続き政権を担当する決意であります。これは政界の積年の病弊を根絶し、全力をあげて政界刷新と取り組む、そして、政界刷新の実をあげる、政治に対する国民の信頼を回復する。このことが、国家、国民に対する私の責任である。同時に私がなさねばならない義務だ、かように考えるからであります。この点につきまして、私の決意のほどは、国会の予算委員会におきましても、この点を明確に申し上げたつもりであります。
私ども日本人は、さきの戦争に敗れ、そうして引き続き今日まで二十年間、民主政治発展に最善の努力をはらつてまいりました。しかしこの民主政治発展、この方向は確かでありますが、これが間違いなしに、また、行き過ぎなしに、今日までまいつているとは私、思いません。その間におきまして、幾多のあやまちや、また、行き過ぎもあつたということを率直に認めざるを得ないのであります。とくに最近になりましては、政治のあり方につきまして国民の批判が高まつております。これをもたらしました政治の面における民主主義の未熟さは率直に認めなければならないと思います。私はかような意味における政治の立ち遅れを克服し、そうして、立派な政治、また、国民生活と一体になつたような国内態勢を作ることが、私ども政治家に課せられた今日の最大の課題だと、かように思つております。したがいまして、現実を直視し、みずからの手で国民諸君の要望にこたえてまいる決意であります。これが内政における当面する基本的な態度であります。
第二の問題は国際的の問題でございますが、これは申し上げるまでもなく、中共がミサイルによる核爆発の実験をしたことであります。今回が四回目であります。われわれ日本国民の心からなる訴えにもかかわらず、お隣の中共がこの核爆発を継続してやつておるのであります。私はあえて、中共自身を非難しようと、かように申すわけではありませんが、過去三回、私どもの訴えに対しまして耳をかさない。私自身が憤りを感じておるものであります。中共は、この核爆発に対しまして、世界の平和、これを招来する手段として核を持つんだ、かように申しております。しかし、国際社会におきまして、各国が今考えておる方向は核の拡散防止でありますし、核軍縮の方向であります。これが、ただいま、国際世論でもあります。私は、今日とりました中共のこの態度は国際世論に反するものだ、国際世論と別の方向をとるものだと、かように言わざるを得ないのであります。
しかし、皆さん、私が申し上げたいことは、この中共の態度ではございません。かような国際情勢があるにかかわらず、そういう際に日本はいかに処して行こうとするのか、この問題であります。私は、声を大にして皆さまがたに申し上げます。今日まで、私どもがとつてまいりました日本の平和政策、平和方針、これには中共が核を持とうが核実験をしようが、何らの変更もないということであります。この点をぜひとも理解していただきたいのであります。いわゆる平和に徹するわが国の外交の基本方針、これはただいまの状況において何ら変わつておらない。また、今後も変わらない。したがいまして、中共が持とうがどうしようが、そういう点について惑わされることなく、心から平和を願い、平和を愛好しておる日本国民の今後の国際社会への働きかけ、これを皆さまの力によって、ぜひ推進していただきたいのであります。
私は国会におきまして、しばしば他国の内政に干渉しない、他国に脅威を与えるようなことは絶対にしないんだ、ということを申しまして、そうして、平和的にお互いがひとつ繁栄して行こうじやないか、お互いの生活を向上さす、充実さす、その結果が平和へつながる道だということを申してまいりました。
ことしの春は、東南アジア諸国との間に、経済閣僚会議を持ちました。そして、これは高く評価されております。日本の経済援助、技術的援助、これなども東南アジアの諸国も本当に喜んで迎え入れております。私は戦後の日本が本当に平和に徹しておるんだ、かつての膨張政策、これは放棄したんだ、お互いに仲よく、そして繁栄の道をたどろう、こういうことを理解された今日、東南アジア諸国との連携も一層、緊密さが加わつて来たように思うのであります。この点を皆さまがたにご披露いたしまして、国際的にわが国の行くべき方向がここにあるのだ、これをひとつ再確認していただきたいと思うのであります。
以上、二つだけ極めて簡単ながらご披露いたしまして、午前中のさきほど来の発言者に私から一、二お答えをいたしたいと思います。(後略)