データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 新しい政治を目指して(田中内閣総理大臣)

[場所] 
[年月日] 1972年6月21日
[出典] 田中内閣総理大臣演説集,1−3頁.
[備考] 参考資料
[全文]

 私たちはいま、内外二重の転換期に生きております。「第二の開国」ともいうべき試練に直面しております。

 この時にあたり、私は時代の要請をひしひしと感じ、国民のための新しい政治を実践するために、自由民主党総裁選挙に立候補することを決意いたしました。

 世界は新しい時代に入りました。力の均衡による平和の確保から、話し合いによる緊張の緩和へと、東西の関係はしだいに改善の方向へ進んでおります。また世界の新しい問題の一つに南北問題があります。「北」の国々が、人類の三分の二以上を占める「南」の開発途上国にたいする援助と協力を拡大することによって、南の国々の発展が生まれ、平和の維持もまた約束されるのであります。東西の問題にも、また南北の問題にたいしても、わが国の役割と責任は大きくなっております。

 戦後ニ十七年あまり、国内もまた、転換と変革の時を迎えております。

 私たちは戦後の荒廃から立ちあがるために、精一杯働いてきました。そして、短時日のうちに今日の繁栄を確保することができました。汗を流して築きあげた実績は、日本人みずからの努力の集積であり、誇りうるものであります。経済は量的にじゅうぶん拡大しましたが、質的な充実はこれからであります。

 また、成長の陰に公害、物価高、過密と過疎の問題、教育の混迷、世代間の断絶など、解決を必要とする問題が数多くあらわれてまいりました。

 内外の課題が山積するなかで、国民のあいだに、いらだち、悩み、前途にたいする不安がみられます。しかし、わが国の長い歴史をひもとくまでもなく、幾多の困難を乗り越えてきた私たち日本人に、これしきの問題が解決できないはずはありません。高い理想をかかげ、しかも、あくまで現実に立脚し、勇気をもって事の処理にあたれば、理想の実現は可能であります。

 わが国の民主政治は、敗戦という高価な代償のうえに育ちました。大事に育てて、後代の人びとに引き継ぎたいものであります。

 政治は国民全体のものであります。七〇年代のどの課題をとってみても、国民の参加と協力なくして解決できるものはありません。国民の生活感覚にもとづく大衆政治をよみがえらせてこそ、政治不信は解消できるのであります。また、政治は同氏の英知と活力を吸収できるのであります。

 七〇年代の政治には、強力なリーダーシップが求められています。新しい時代には新しい政治が必要であります。

 政治家は国民にテーマを示して、具体的な目標を明らかにし、日限を切って政策の実現に全力を傾けるべきであります。しかし、民主政治のもとでは、個々の政策がいかにすぐれていても、国民の理解と支持がなければ、政策効果をあげることはできません。私は国民の皆さんといっしょに考え、熟慮し、断行いたします。最善のために時間がかかれば、次善をとります。右顧左べんはいたしません。時にはにがいものであっても、それが真実であればありのままを皆さんに訴えます。結果についての責任は私が負うつもりであります。政治責任の明らかな「決断と実行」の政治こそ、私のめざすところであります。

 私は日本中の家庭に笑い声があふれ、老いも若きも明日に希望をつなぐことができる社会の建設に、全力を傾けてまいります。

 国民皆さんのご理解とご支援をお願いいたします。