データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 東南アジア開発閣僚会議における田中内閣総理大臣スピーチ

[場所] 
[年月日] 1973年10月12日
[出典] 田中内閣総理大臣演説集,320−322頁.
[備考] 
[全文]

代表ならびに、ご列席の皆様

 第八回東南アジア開発閣僚会議が開会されるにあたり、日本国政府及び国民を代表し、心から歓迎の意を表しつつ、一言ご挨拶を申し述べます。

 まず、この会議が今回その発足の地において第八回目を迎え、しかも新たにビルマ並びに大洋州から豪州及びニュージーランドの両国の参加をも得て、更に発展を遂げようとしていることは、東南アジアの開発という共通の目的に対する認識と支持が一層深まり、かつ、強化されたことを示すものであり、私としても大きな喜びを感ずるのであります。

 この機会に、私は、わが国と東南アジアとの関係及びわが国の開発協力のあり方について、私の率直な所信を申し述べたいと思います。

 近年におけるわが国と東南アジア諸国との関係は、ますます増大する人的、経済的交流にも明らかなように密接の度を加えております。これは、両者が、単に地理的、歴史的に緊密に結びついているだけではなく、今日、双方の繁栄は、互いに切り離しては考えられないという特別の関係にまで発展しているからであります。

 しかしながら、このような関係は、他の先進国と一部開発途上国との場合のような特定の条約や機構といった確たる法的、形式的裏付けあるものでは決してありません。それだけに高度の相互依存、相互補完の関係という強固な実質的絆をもつ両者の結びつきを更に一層強じんなものとして維持して行けるか否かは、われわれの今後の意思と努力とにかかっていると言っても過言ではないのであります。

 今日、開発途上国に対する開発協力は、わが国の確立した基本政策であり、政府は、国民の強い支持の下にこれを推進しております。私は、開発協力の重要な目的は、開発途上国の国造りを助けることにあると信じます。私共は、開発途上国への援助が、自らの利益追及に傾きがちであった過去を反省し、本当に相手に役に立つ援助方式をきめこまかく誠実に実行することが必要であります。わが国は、開発途上国に対し、一九七二年において二十七億三千万ドルの経済協力を行ないましたが、うち政府開発援助は、六億一千万ドルでありました。

 このような開発協力は、これまですべての点で満足すべきものではなく、量的にも、質的にも、改善をしてゆかねばなりません。現在、多くの開発途上国が歩みつつある工業化と近代化の道は、明治以来百年間にわたって、わが国が踏破してきた道でありました。その意味で、わが国こそ、これらの国に対して、自らの体験に基づく血の通った援助を実施することができるのであります。とくにその質的側面、なかんずく援助条件の改善のためには、新たな努力をみのらせてまいります。またすでに約束した案件の実施については、わが国側の事由により、遅滞することのないよう、政府としても常時注意を払ってゆくつもりであります。このように開発協力を充実してゆくことは、永続的な世界平和の創造と新しい世界経済秩序の再建に進んで参画し、その責務を果たすことともなるのであります。

 最後に、私は、各国相互間の「間断なき対話」の重要性について改めて強調したいと思います。わが国とこの地域諸国間の関係は、最初に述べたように深い相互依存関係にあり、今日基本的にはきわめて満足すべきものと考えております。しかし、相互理解と信頼をより強固なものとするためには、この会議その他あらゆる機会をとらえ、官民あらゆるレベルにおいて不断の対話を持ち継続して行くことを提案したいのであります。このような対話こそ開発問題の解決のため、最も適切な方途であります。この対話の一環として、私は、出来るだけ早い時期にこの地域の幾つかの国を親善訪問することを考えております。

 私は、新たにビルマ・豪州・ニュージーランド諸国からの代表の参加をえたこの記念すべき機会にあたり、閣僚会議が、過去七カ年の経験と成果の上に、一層の発展をとげ、新しい連帯感に立ったすそ野の広い協力・協調関係を打ちたてられてゆくことを心から期待するものであります。

 ご静聴ありがとうございました。