データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] サンヤー・タイ首相主催晩餐会における田中角栄内閣総理大臣スピーチ

[場所] バンコク
[年月日] 1974年1月9日
[出典] 外交青書18号,52ー53頁.
[備考] 
[全文]

 サンヤー総理大臣閣下,令夫人,並びに御列席の皆様

 サンヤー総理大臣より暖かい歓迎のお言葉をいただき,心からお礼申し上げます。タイ国政府の御招待により,この度念願の貴国を訪れることができましたことは,私の深くよろこびとするところであります。また本日最高の栄誉である貴国の白象大綬章を拝受し,光栄これに優るものはありません。

 貴国とわが国はお互いに有史以来の数少ないアジアの独立国として,また,ともに国民に敬愛された皇室をいただく国として,三世紀半以上にもわたつて友好の絆を維持してまいりました。

 私は貴国が,英明な国王陛下のもとで,貴総理大臣の卓越した指導と貴国民各層の協力によつて,この変動しつつある国際情勢に賢明に対処されつつ,新しい体制のもとに国民福祉の向上と国家の繁栄を目指して力強く前進している姿に,深い感銘をおぼえるものであります。私は長い歴史と輝かしい自主独立の伝統を有する貴国が,この崇高な目的を実現されることを心から念願し,また,必ずや成功されるものと確信するものであります。

 20世紀の今日,地球は益々狭くなり,日・タイ両国は更に身近かな隣人となりました。現在アジアをとりまく国際環境は急速に変化しています。加えてわれわれが直面する問題は一層複雑化するとともに,政治,経済,文化すべての分野に亘る世界大の広がりとつながりを持つに到つております。

 このことは最近の石油危機の影響について申し上げるまでもなく,皆様よく御存知のとおりであります。また,私は日・タイ両国間の経済関係の緊密化に伴い,種々の摩擦が生じ,とくにわが国の経済的プレゼンスに対する危惧の念が存することも,よく承知しております。国家間の関係が緊密化の度合を深めるにつれて,友邦の間においても調整すべきいくつかの問題が生ずることは,ある意味ではやむを得ないでありましよう。

 本日貴国の次代を担う学生諸君の歓迎を受けましたが,直接彼等学生諸君の不満に接したことは私自からが問題の重大性を把握するうえで意味があると考えております。私は彼等の不満に対し何らの幻想を抱いておりません。問題を放置することも許されないのであります。重要なことは,これらを契機として,双方が相互理解と問題解決のための努力を重ねることであり,このような地道な努力を通じ,諺にありますように,雨降つて地固まることを念願するものであります。私はこの機会に,わが国政府と国民が日・タイ両国間の永遠の友好関係を築きあげていくために,あらゆる努力を惜しむものでないことを確信いたします。

 この様な観点から私は,古き友邦である日・タイ両国の間にあらゆる分野,あらゆるレベルでの交流がますます増進されることを強く希望いたしております。とくに,次の世代を担う学生,青年の間に相互理解を深めることは,極めて望ましく,かつ,必要なことであると考えます。わが国からこの様な目的で毎年「青年の船」が貴国を訪問しており,昨年10月には貴総理大臣にも親しくお会いいただく光栄を得ております。私は,この考えを更に発展させ,今後毎年貴国はじめ東南アジアの青年をわが国に招待し,わが国の青年と親しく交歓することを目的とした「東南アジア青年の船」の計画を新たに始める考えであることを申し上げます。私は,次の世代を担うアジアの青年が同じ船の上で語り合い,また起居をともにしながら友情と相互理解を深めることにより,相互の信頼と協力の精神を養う機会を提供し,次の世代へのささやかな贈物としたいと考えます。

 サンヤー総理大臣閣下

 今回の私の貴国訪問は甚だ短時間ではありますが,私は貴総理をはじめ貴国の皆様方との忌憚のない意見の交換を通じ,すでに日・タイ両国間に存在している緊密な友好関係をさらに深めることができるものと信じて疑いません。

 この御挨拶を終えるに当り,私は列席の皆様とともに杯を挙げ,サンヤー総理大臣および令夫人の御健康,貴国の御繁栄,そして日・タイ両国の友好のために乾杯したいと存じます。