データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ラザク・マレイシア首相主催晩餐会における田中角栄内閣総理大臣スピーチ

[場所] クアラルンプール
[年月日] 1974年1月12日
[出典] 外交青書18号,59ー60頁.
[備考] 
[全文]

 ラザク首相閣下並びに御列席の皆様。

 このたび,ラザク首相の御招待を受け,念願のマレイシアを訪れることができましたことは,私の深く喜びとするところであります。本夕,ここにかくも暖かい晩餐会を催していただきましたことに厚くお礼申し上げます。

 私はかねてより貴国が民族の統一と調和,貧困の撲滅による社会正義の実現を目標として,着実な社会,経済的発展の成果を挙げておられることに対し,深い敬意を払つておりましたが,昨年東京において貴首相およびフセイン・オン副首相におめにかかり,その抱負の一端に接する機会を得,感銘を深くした次第であります。貴首相が「新経済政策」の中で唱導しておられる経済発展の果実の公正な分配,環境と調和した形での工業化の推進および国民の自助努力と自己犠牲の要請等は,同じく政治に携わる者として,私の強く共鳴するところであります。現下のごとき激動する国際経済環境下にあつても,貴国が着実な経済発展を進めておられるのは,かかる賢明な指導によつて始めて可能であると考えます{前13字目ママ}。

 今日の世界は,あらゆる分野において深刻な変動,変革の時期にあり,アジアもその例外ではあり得ません。このような時に,貴首相が既に1970年に唱導された東南アジア中立化構想がASEANのクアラルンプール宣言として結実したことは,本地域における平和と安定を希求する洞察に富んだ試みとして,国際的に高い評価が与えられているのであります。

 今回私が貴首相の御招待により貴国を訪問しましたのも,平和と繁栄を分ち合う良き隣人としての貴国とわが国の関係を一層育成強化したいとのわが国民の熱望を貴国民にお伝えするとともに,昨年に引続き貴首相と広範な問題について腹蔵ない意見の交換を行うことを念願したからであります。

 御列席の皆様がよく御承知のように,日本とマレイシアとの関係は近年益々その緊密の度を加えつつあります。しかしながら関係の密接化に伴い新たに調整を要する問題が生じて来ることもまた事実であります。私どもこの席に集う者が今後とも本夕の如きなごやかな雰囲気の下にうちとけて胸襟を相開いていくならば,両国間の諸問題の調整ははかられ,両国関係は更に前進していくものと信じて疑いません。

 このような観点から,私は日・マ両国の如き友邦間には,あらゆる分野,あらゆるレベルでの交流がますます増進されるべきであると痛感しております。とくに,次の世代を担う青年の間に相互理解を深めることは,極めて望ましいのみならず,必要なことであると思います。わが国から同様の目的で度々「青年の船」が貴国を訪問しており,貴国民の暖かい歓迎を受けて参りました。私は,この計画を更に発展させ,今後毎年貴国はじめ東南アジアの青年をわが国に招待し,わが国の青年と親しく交歓することを目的とした「東南アジア青年の船」の計画をラザク首相に提案申し上げましたが,同首相の御賛同を得たことを喜ぶものであります。次の世代を担うこれ等諸国の青年が同じ船上で語り合い,また起居をともにしながら友情と相互理解を深めることにより,相互の信頼と協力の精神を養う機会を提供し,次の世代へのささやかな贈物にしたいと考えたのでありやす{前2字目ママ}。

 終りにあたつて,私は今回の訪問が貴首相との間の個人的接触を通じて,相互理解を深め,日・マ両国の現存する友好関係が一層堅固なものとなることを祈念いたします。

 ここで,私は御列席の皆様とともに杯を挙げ,ラザク首相閣下の御健康,マレイシアの繁楽{前1字ママ},日・マ両国の友好,そしてアジアと世界の平和のために乾杯したいと存じます。