データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本の当面する内外の諸問題(福田内閣総理大臣)

[場所] 東京・ヒルトンホテル
[年月日] 1978年6月29日
[出典] 福田内閣総理大臣演説集,331−352頁.
[備考] 
[全文]

 <諸懸案つぎつぎと解決>

 どうも皆さんしばらくでございます。きょうはお招きにあずかりまして、大変ありがとうございます。長谷川さんがお亡くなりになってから、もう百日あまりになります。長谷川さん、私、大変個人的にもご懇意に願っておりましたが、とにかく本当に筋金の通った、言論界の本当に[[undef12]]雄[[undef12]]そういうような立場で大いに期待しておったのですが、まことに残念でたまりません。

 長谷川さんは、私が総理大臣になって、大変期待していただいた、最も強烈に期待していただいたと、こういうふうに思っておりますが、私の総理になりましてからちょうど一年半になるのです。私が総理大臣に就任のとき、一番心配というか、頭にありましたのは、さあ、初めて保革伯仲、衆議院は、これは過去に自由民主党ができましてから、少ないときでも七十二議席、多いときには百五十議席の、野党との間に開きを持っておったのです。それが一昨年の暮れの総選挙で、一転して保革伯仲、それも無所属で出た人を入れまして、やっとパーパーだ、こういうとうな状態に転落をいたしたわけであります。

 さて、そういう体制の中で、何といたしましても国会の乗り切り、こういうことが円滑にいくのだろうか、そのように案じておりましたが、しかし、結果は昨年の通常国会、ことしの通常国会、この二つの国会とも、そう大きな支障もなく推移し得たわけであります。ことしのごときは、政府が提案をいたしました議案が、とにかく成立率から言いますと九〇パーセントを超えるという状態でありまして、これは佐藤内閣が十三年前にできまして、その当初そういう記録がありましたが、それ以来のことです。しかも、予算関連法案というのは全部成立。これは前古未曽有のことでございます。

 そういう国会の場面では、そう大きなトラブルもなく推移し得ましたが、その間に懸案もかなり片付いて参りました。特に大きな問題は、成田の空港が開設になる、これは開設を決定いたしましてから十一年振りでございました。しかも大体施設が整いまして、もう最後の仕上げをすればいいという段階になりましてから五年もたっての話でございますが、三月末のあの不幸な事件はありましたけれども、とにかく十一年振りの懸案が解決される。

 また、日韓大陸だな協定も、六年振りの懸案でございましたが、これも批准に応ずるということになりました。それから日本の外交として厄介な問題というか、むずかしい問題でありましたのは、日中平和友好条約交渉という問題です。これは六年前の日中間の共同声明におきまして、平和友好条約の締結の交渉を開始する、このように決められておるわけでありますが、それがなかなか交渉らしい交渉を始め得られないままに、今日に至ったのですが、これもとにかく初めて本格的な交渉が始まる、こういう段階になりました。

 いろいろと円滑な国会運営を背景といたしまして、諸施策が進んでおるわけでありますが、一番大きな課題は、これは石油ショック後のわが国経済の前後処理の問題かと、このように思うわけであります。

 <容易に治らない石油ショックの爪跡>

 経済は、これは五年前のあの石油ショックにおきまして、世界中の経済が打ちのめされておるといいますか、それからの脱出、これが先進工業国でもなかなかいま順調に動いておらない。まだその爪跡というものが深く残っておる。まして発展途上国の状態というものは、これは惨たんたるものであります。これは私のこのつたない口では、説明できないような深刻な状態であります。そういう状態を放っておきますと、どういうふうになるか。これはまた大変な問題、つまりひとり経済の問題ではなくて、世界政治の大きな混乱につながっていくことは必至であります。これは昭和戦前といいますか、一九三〇年代、これを考えてみましてもそうなんでありまするが、あのときは経済混乱、それが各国の社会不安となり、そうして社会不安の中から、マルクスかファッショか、その選択を迫られるというような国が出てき、そうしてファッショの国、その行き方を選択した国々、そういう国々が幾つか出てくる。そういう背景の中で、第二次世界大戦、こういうことになっております。

 このおろかな歴史を繰り返してはならん、こういうことでいま世界の指導者たちは、相談し合いながら、そういう悲劇的な道筋は回避しなければならん、こういうことで努力をいたしておるのですが、いかにも五年前の石油ショック、これの残した打撃というものが深刻であり、まだ思うような好ましい方向に世界が動いておるというふうには申し上げられない。先進国首脳会議というのが、ことしは四回目になるわけです。そうして最初の会議はパリのランブイエで開かれる。それから第二回目はプエルトリコで開かれる。第三回目は昨年でありましたがロンドンで開かれる。第四回目が今度西ドイツのボンにおいて開かれる。七月十六日、十七日の両日にわたって開かれるわけであります。

 昨年のロンドンサミットにおきましては、そういう深刻な世界情勢を、一体どういうふうに打開するか。打開するにはどうしても世界情勢にどういう問題点があるんだということを、分析する必要があるという、その分析の結論というのは、一つは失業、それに関連いたしまするところの各国の景気、またインフレ、つまりインフレの社会では失業問題が解決できない。また、景気がある程度よくなければ、失業問題というものは解決できないのです。インフレの社会、また経済が停滞をしておるという社会では、どうしても失業問題というものがつきまとうのです。しかも、失業問題でいま顕著な現象は、若年労働者の失業という、これが世界的に顕著な現象なんです。これをほっておくと、またいろんな社会不安をかもしだす。そこで失業問題、インフレ問題、景気問題、これにどういうふうに対処するか。

 第二の問題は、これはああいう非常にショッキングな石油クライシスでございますから、それぞれ国に大変な影響がある。その影響の度合いに応じまして、またそれを克服する施策の成功、不成功、その度合いによりまして、国際収支、これがまちまちである。その根底には、通商摩擦という問題が起きてきておる。この問題をほっておきますと、ひょっとするとひょっとして、保護貿易体制をとる国が出ないとも限らない。一つそういう国が出てきますと、これは一波万波を呼ぶわけです。あの国がわが国に対してこういう措置をとったから、その報復的にわが国はこういう措置をとる。こういうことになる。こういうことになりますと、これは世界が総沈みになるわけなんです。これは絶対に避けなければならん。つまり、通商摩擦をいかに解消して、保護貿易主義の台頭を押えるか。これが第二の問題であったわけであります。

 第三の問題は、先ほど申し上げました発展途上の国々、遅れた国々の救済というか、への先進工業国としての対処、これをいかにするか、こういう問題。

 第四は、エネルギーの問題なんです。私から申すまでもございませんけれども、石油、これは地下にあるわけです。これをいま掘って、たいて、そしてこれをエネルギー化しておりますが、この石油が何十年続きますか、いずれにいたしましても、二十一世紀の上期におきましてこれが使い果たされる、こういうことになる。そういうことが展望される今後の世界情勢の中では、あと十年たつ。そうしますと、おそらく石油を持っている国々が石油の生産を控える傾向に入っていくだろう。そのつなぎを一体どうするのか。

 いま核融合エネルギーとか、あるいは太陽熱エネルギー、この新しい石油にかわるエネルギー源の開発について研究が進められておるんです。アメリカ、日本、EC、この三国において、それぞれその研究がかなり進んでおるわけであります。私は、二十一世紀のそう遅くない時期に、それが実用化されるということになるであろう、こういうふうに信じますが、さて一体それまでのつなぎをどうするのか。石油はまだある、あるけれども、だんだん供給が減ってくる。そういう隙間を何で埋めるかと言いますと、原子力エネルギーという問題になるわけです。

 ところが、この原子力エネルギーというものは、使い方によっては大変恐ろしいもの。これはすぐ核兵器化する素材でありまするから。その核兵器化するおそれのある核エネルギーを、これをそういう恐ろしい目的に使用せしめない、その歯止めをしながら、核のエネルギー化を、平和利用を進める。いかにするか、これが第四の問題であったわけであります。

 <新たに加わった世界の通貨不安>

 ところが、それから一年たちまして、今日までずっと推移を見ておりますると、なかなかこの先進国首脳会議で希望しておったような動きに、世界情勢がなってこないのです。特に第一に掲げられた失業問題はどうか。それに関連するところの各国のインフレ、それから経済成長、これは一体どういう動き方をしておったかといいますと、あの先進国首脳会議の間では、昨年は大体おれの国はこういうふうにするんだということを示し合ったのです。数字として出し合った。アメリカは六パーセント成長を考えておる。ドイツは五パーセント成長だ、日本は六・七パーセント成長、こう言ったのです。

 アメリカは六パーセントは実現できないで、四・九パーセントになっておる。ドイツはどうかといいますると、これが五パーセント成長と言ったのですが、これが半分にもならない二・四パーセント成長。わが日本はご承知のように六・七パーセント成長が実現できないで、これは五・四パーセント成長にとどまる。こういう結果になり、しかもそういうことになった背景というか、原因としたしましては、昨年の九月ごろからドルの不安定を中心といたしました世界の通貨不安という問題が起こってきておるのです。

 わが国を例にとってみますと、あの九月以来の円の棒高現象、これがもしなかりせば六・七パーセント成長は悠々達成されたと思います。それが五・四パーセントにとどまるということになった。その主たる原因は何であったかというと、これは通貨不安、つまり急激な円高現象であったと、こういうふうに言えるわけでありますが、ドイツはじめその他のヨーロッパの各国等につきまして、同じことが言えるんじゃあるまいか、そのように思うのであります。

 そういう新しい、昨年にはなかった通貨不安という問題を抱えながら、来月の首脳会談ということになるわけでありますが、結局私は、通貨不安、これが続きますと、企業家の先々の見通し、これが全然成り立たない。そういうようなことになりますので、これはとにかく、何に先がけても解決しなければならん問題であると思いますけれども、この通貨不安がなくなるためには、非常に基本的な問題が解決されなければならんわけであります。

 つまり、この通貨不安という問題はどこから起こってくるかというと、世界の通貨をはかる、価値をはかるところの物差しが変わってきておる、不安定な状態にある。物差しであるところの世界の基軸通貨といわれるアメリカのドルが不安定だ、円がべら棒に高くなった。これは円だけの問題じゃないのです。スイス・フランスも高くなる、あるいはドイツ・マルクも高くなる。つまり、相対的にドルの価値が安くなった、ということでございます。

 こういう状態を放置しておきますと、これは本当に世界の繁栄、こういう問題に大変な大きな支障になってくるだろう、こういうふうに思われるわけでありますが、さて、それじゃアメリカのドルの価値が下がるというか、ドルが動揺するという原因は、一体どこから起こっておるのかというと、これは通貨の価値というのは、対内価値と対外価値が二つあるわけでありますが、世界の中では、わりあいアメリカの景気が順調に回復しつつある。その反面に、アメリカで物価がインフレ現象が出てきておる。インフレということは、ドルの対内価値がそれだけ減少するという問題であります。最近、かなり高い調子でインフレが進んできておるわけですが、そういうドルの対内購買力が減るという問題と合わせまして、今度が対外価値、対外購買力、これがドルのアメリカの国際収支が大変な赤字なんです。それを背景といたしまして、だんだん下がっていく、こういう問題があるわけなんであります。

 <米国の大赤字は石油輸入が原因>

 一体、アメリカがそんな大赤字を出すのはどういうわけだろうかというと、いろいろ理由はあるのですけれども、一つ大きな問題は、アメリカの石油輸入、これがこの二、三年急速にふえてきておる。私はカーター大統領にも言ったのですが、とにかくアメリカは一人当たりエネルギー使用量から言うと、わが国の二倍半のものを使っておる。ちょっと工夫すれば、ずいぶんエネルギーの消費は減らし得るわけであります。そうなれば、それはすぐ石油の輸入減少ということになってあらわれてくるはずだ。カーター大統領もずいぶん努力しているんだけれども、国会がなかなかそれを許してくれないんで、ということをこぼしておりましたが、いまだにアメリカはこのエネルギーの消費について、なかなか有効な手を出しにくい状態になってきておるのであります。

 それからアメリカのインフレであります。インフレにつきましても、私は大統領に、何とかインフレについてもう少し関心を持ってもらいたいんだよ、ということを申し上げ、そうして大統領も何とか努力したい、ということを言っておったのでありますが、さてそれがどういうふうになってきておるかと、こう申しますと、私が五月の七日、アメリカから帰って参りましたその四日後の十一日には、アメリカでは公定歩合の引き上げを行う、それから三日たった土曜日の朝、私にカーター大統領からメッセージが参りました。

 「私はかねてから膨大な所得税の減税計画を考えておったんだが、大幅にこれを縮減するということを決意しました。あなたが、私との話で、わが国のインフレについて大変関心を示された。それを思い起こしたのでお知らせ申し上げます」というような、ご丁寧なメッセージが届いたわけでありますが、アメリカはアメリカなりに努力をしておるのです。

 しかし、アメリカの努力というものが実を結ばないと、本当はこのドルの価値の安定というところになっていかないだろう。そういう中で、わが国もアメリカがドルの安定に努力するという、それに協力をする必要があると思うのです。私は、いま昨年度とにかくわが国が一年間で百四十二億ドルを超える経常収支の黒字を出す。こういうことになっておるわけでありますが、これは、私は何としても変えなければならん、このように考えておるのです。

 変える決め手は一体何だというと、一つの決め手はありません。ありませんけれども、まあ、何といっても現在の常道として考えられますことは、日本の国内の購買力を進めることである。そういう考え方のもとに、七パーセント成長という、国際社会では最も高い成長目標を立てたわけでございますが、これが、ここに土屋清さんなんかおりますが、評論家でありますとか、調査機関などでは、七パーセントと福田さん言っているけれども、とてもとてもなんていうような、そういう見方をしておったようでありますが、私はことしになってから、ずっと今日までの経済の歩みを見ておりまして、この七パーセントという成長、これはそうむずかしい問題じゃない。これは実現できるし、ぜひ実現したい、こういうふうに考えておるのですが、とにかく日本の国内の景気を上昇させて、海外からの自然な輸入を促進するという考え方、これが非常に大事なことであろうと思うのです。しかし、それでも百四十二億ドルの経常黒字、これはとても解決できません。

 <緊急備蓄輸入と輸出数量規制>

 そこで、緊急的に輸入ということを考えております。緊急輸入、それにはとにかく外貨のあるこの際、これからどうしても必要であるところの濃縮ウラン、これを買っておこう。いまアメリカとの間に交渉を進めておりますが、何とかしてそれを決着に持っていきたい、こういうふうに考えております。

 それからいずれにいたしましても、今後石油の値は上がることは、これはすぐに上がるとは申しませんけれども、いずれは上がる時期もきましょうし、そういうようなことを考えまするときに、ここで石油の備蓄をしておく、これは大事なことであろう、こういうふうに考えて、石油の緊急備蓄輸入、これを進めていきたい。ずっと数か月考えて参りましたが、やっと見当がつきまして、この夏ごろから備蓄が始まる。つまりタンカー備蓄、いまタンカーがだいぶん遊んでいるのでありまして、タンカーを活用いたしまして備蓄をする。あるいは陸上、あるいは海上に備蓄基地をつくる。これは手間ひまがかかるのですが、タンカー備蓄は手っとり早うございますから、そういう備蓄輸入、備蓄輸入は濃縮ウランやあるいは原油ばかりじゃなくて、非鉄筋属等にもこれを及ぼしたい。このように考えて、これでどのくらい黒字減らしができますか。

 しかし、決定的な要因は輸出なんです。一昨年の下半期におきまして、アメリカの景気が急によくなった。それにつれまして、わが国の対米輸出、これが急速にふえたわけでありまして、主要商品につきましてこれを見ますと、四〇パーセントふえました。物によりますると、五〇パーセントふえました、なんていうのがあります。その高い水準が去年一年ずっと続いたものですから、膨大な黒字の最大の原因になったわけでありますが、これをまた続けていくという、この傾向を続けていくということ、これは本当は輸出を押えるという考え方はとりたくないのです。ないんだけれども、百四十二億ドルという黒字、これをどういうふうに処置するか、ということを考えますと、やはり輸出の面、これを考えざるを得ない。

 そこで、業界の協力も得、通産省が中心になりまして、ことしは昨年の輸出数量以上の輸出はしない。全部商品を総平均いたしまして、物によってはふえるものもある、減るものもある。しかし総平均いたしまして、去年の輸出数量水準を超えることはしない。これが実現されれば、これはえいらいことになるのです。これは実現させますけれども、とにかく伸び続けてきた日本の輸出が、数量的にはピッタリふえるのがとまるわけですから、これはその一事だけでも、これは国際収支は様相を一変する。こういうことになるわけでありますが、実際にはそうはいかないのは、日本のせいじゃないです。

 つまり、自動車の輸出台数は、去年以上にはふやしませんとしましても、海外における値段というものが、去年の値段より高くなる。こういうことになりますれば、ドルに換算いたしまして、価格上の輸出額というものは、これはまたふえる。そういうことになってくるわけであります。私はこの間のカーター大統領との、また閣僚との話でも、そういう趣旨のことを申し上げたんです。ことしの日本の経済の目標、これを成長率、物価水準、それから雇用、それから国際収支、全部数字を入れてこれを目標にしているんだ、大体このとおりにするんだ、こういうことを申し上げたわけですが、国際収支のところだけ数字を書いていかないのです。

 日本は、数量的にはもう対米輸出、去年よりもふやすということはしない。それだけを申し上げる。あとはそういう前提に立って、この日本の経済計画のブランクになっておる国際収支、これにどういう数字を書き込むかということは、これは日本が決める問題でなくて、アメリカが書き込んでくれる問題である。つまり、アメリカのインフレが一体どうなるかということが、日本の輸出額が一体幾らになるかということを決定する。そういう問題だということを申し上げたわけでありますが、日本としては最大の努力をいたして、経常黒字をかなりの程度減らしたい。これを減らし得ないということになりますと、国際社会においても、相当大きな批判を受ける立場になる。そのための最善の努力はいたしますけれども、日本がそういうふうにやっておる。その努力が実るか、実らないか、これはアメリカをはじめ、諸国のインフレが一体どういうふうになっていくかということによって、大きく変動していくであろう、このように考えておるわけであります。

 <欠けている世界の未来像論議>

 とにかく七月の十六、七日に、西ドイツにおける先進国首脳会談、これがありますが、ここで何か奇跡的な結論が出る、こういうようなことは私には期待できないと思うのです。この会議に期待することは、これは問題がいろいろある。あるけれども、これをナショナリズムといいますか、一国の自国防衛主義的な考え方、そういうことで解決しようとしても、それはできないことなんだ。やはりそれぞれの国が置かれている立場、環境等があろうが、そういう立場、環境を踏まえて、そうして世界全体の経済状態がよくなるために、それぞれの国がそれぞれ最善を尽くす。そうしていやしくもお互いに悪口を言い合う、そういう中から決して前進は生まれない。やはり相協力し、相話し合って物事を解決し、そうして昭和戦前のような、ああいう悲劇を繰り返さないという決意を、お互いに披瀝し合うということが、私は大きな見どころではあるまいか、そのように考えておる次第でございます。

 まあしかし、私の世界に望む考え方、これから言いますと、これはやはり、いま石油ショック後の、この傷跡をどうしていやすか、ということに忙殺されまして、そうして先々の世界を一体どういうふうに展望し、どういうふうに持っていくかという、世界の未来像といいますか、二十一世紀をにらんでの、世界を一体どういうふうにするかというような問題についての話し合いというもの、これは欠けておるような感じがするのです。先ほどエネルギーの問題を申し上げましたけれども、やはり、もうそろそろ石油後のエネルギーを一体どうするんだ、核融合にするのか、太陽熱エネルギーにするのか、一つの目標をつくって、それを今日すでに追求する、こういう姿勢をとりませんと手遅れになる。また、その展望が速く具体化しませんと、十年後になりますか、十五年後にこの石油がだんだんと供給が減ってくる。その際に、非常に混乱を起こすおそれがあるんじゃあるまいか、そのように考える。

 私は、この間カーター大統領との会談の際も、日本は非常に黒字だ。黒字の縮減には努力するけれども、それでもなお黒字が残る。そういう際でありますので、日本は世界に向かって、いろいろ役に立つ仕事をしたいと思っている。その第一は、対外経済協力である。遅れた国々に対する協力を、いままでは五年に倍にするという姿勢で進んできたが、三年で倍にするという方針転換をいま考えておる。

 もう一つは、新エネルギー、石油後のエネルギー、これについて私はいま日本は大きく世界に貢献する用意がある。対外経済協力と並んで、私は世界に対する貴重な貢献になることじゃあるまいかと考える、という話をしたんですが、カーター大統領、そこまで考えておられますかというので、膝を乗り出しましたよ。そうして私から日米共同でひとつこの問題をやろうじゃないか、というのに対して、それは賛成です、やりましょう、こういうようなことで、さっそくアメリカの方では、私のそういう考え方を具体化するための委員会をつくる。そうしてわが日本に対しまして、いろいろな接触を進めてきておるわけであります。それらのことが具体化すれば、私は、平和ただ乗り論であるとか、いろいろな批判があるが、日本といたしまして、世界に胸を張り得る状態になるのではあるまいか、そのように考えておるわけであります。

 とにかく、わが日本は経済がここまできた。しかもいまの日本の経済状態を総合いたしますと、石油ショックからの脱出におきましては、わが日本がその先頭に立っておる。こう申し上げて差し支えないと思うのです。物価は、卸売物価、消費者物価、これを総合いたしまして、いま世界第一の安定でございます。それから経済成長はどうだ。これは構造不況業種というような問題がありますけれども、とにかく大観いたしまして、六、七パーセント成長を展望できるなんていう国はありません。わが日本は、それを展望できる日本である。

 第三の、経済の眼目である国際収支はどうかというと、これはほっておいたらどこまでふえていくかわからん、というくらいな状態であります。良過ぎて弱るというような状態であります。そういうわが日本といたしまして、私は世界の繁栄、発展に、また平和に、大いに貢献しなければならん。このように考えまするけれども、とにかくその中で、やはりわれわれの近隣であるアジア地域の安定に、わが国は大きな責任を感じなければならん。このように考えるわけであります。

 <アジア諸国との関係は大前進>

 私は、昨年の八月に、ASEANの国々や、ビルマ等を訪問いたしました。これは私はかねがねそう考えておったのですが、これらの国々と特別な関係にあるわが日本といたしまして、本当に一体感を持った関係まで、これらの国々との関係を定着させなければならん。これが世界の平和に対するわが国の大きな責任である。このように考えて参りましたけれども、私は去年のこれらの国々を一回りした結果というものは、私はそういう考え方が非常に画期的に前進した、というふうに思うのです。オーストラリア、ニュージーランドにつきましては、これは経済関係が非常に緊密になっておりまするから、これは言うまでもない。その他のアジア諸国、つまりASEAN、ビルマ、そういうような国々との関係、これは一大前進をした、こういうふうに考えておるのです。

 そういう段階の今日とすると、どうしても大陸方面の外交を進めなければならん。このようにいま考えておるわけでありますが、一番大陸で近いのは、何といっても韓国です。日韓ゆ着、ゆ着なんて言われますけれども、一番近い隣国であります韓国との間に、とにかく緊密な関係ができる。緊密なよい関係ができるということは、これは必要なことなんであります。その日韓関係に、喉の骨のように突き刺さっておったところの、大陸ダナ協定批准問題というのが、この間解決いたしましたので、両国関係も非常によくなりました。

 それからもう一つは、先ほども触れましたが日中関係です。これはなぜ六年の間、交渉が始まろうとして途切れる、また始まっては途切れる、という状態でありました。なぜかと申しますと、非常に表面的に言いますと、いわゆる中国側の覇権条項をどういうふうに処理するかという点にあったわけでありますが、私は日中間をそういう問題があるにせよ、これを条約ができないという状態で放置することは、これは日本の大陸外交を進める上におきまして大変支障がある。このように考えまして、交渉らしい交渉を六年振りで初めて始めることに決意したわけであります。これは七月早々始めたい、こういうことを中国側に申しておったのでありますが、この問題、最初から取っ組んできた中国側の韓念竜という外交部次官の人が、これが何か十二指腸潰瘍とか何とかで病気であるという状況で、いつ始めることになりますか、まだ決定されておりませんけれども、いずれ七月中には開始になるだろう、こういうふうに見ております。

 いずれにいたしましても、わが日本はとにかく軍備は持たない。そうしていずれの国とも平和友好の関係を保たなければならん、そういう国柄である。そういうことを踏まえまして交渉を進めたい、こういうふうに考えております。私はよく言ったんです。中国側は「福田さんの決心次第で一秒で決まる」なんてこういうことを言われますが、私は、日中双方が満足し得る条件、状態のもとにおいてこの条約を締結する、こういうことを申しておるので、両国が大局的立場に立ちまして、お互いの立場に立ちまして、お互いにお互いの立場、こういうものもよく理解し合うということになりますれば、私はこの条約は案外すらすらと締結まで持っていけるんじゃないかというように思います。

 <派閥を排除した立派な総裁選を>

 とにかく、大変な保革伯仲という中で、なかなかむずかしい環境ではありまするけれども、諸事いままでは円滑に進んできた、こういうふうに思うわけであります。自由民主党の総裁としては、私は先ほど申し上げましたように、一昨年の総選挙で大変な厳しい審判が下ったわけです。それなりの理由があるわけです。そういうことを考えて、わが自由民主党は、これは自由民主党の本当の建て直しをしなければならん。そのように考えまして、その眼目は何かというと、一つは派閥の解消です。

 第二の眼目が党員の拡大。つまり、自由民主党は一握りの政治プロの集団でいままであったわけでありますが、これを国民次元に持ってくる。開かれた自由民主党といいますか、党員を各界、各層に求める、開かれた自由民主党体制。

 第三は、党の財政が、何としても世間から批判を受けるような、企業偏重の体制である。これは否めないのです。これをとにかく改革しよう。こういうことで、党員のほかに党友、つまり党員までなるのはどうも踏ん切りがつかん、つかんが、自由社会を守るこういう政治運動には協力したい。こういう人が多数おります。その人々の参加を得まして、自由国民会議というものを結成する。そうしてその人たちからの拠出によって党費をまかなう。そういう体制を考えたわけでありますが、党の財務体質の改善。

 第四は、自由民主党の総裁が、各都道府県から代表されるところの一名の有権者、これによって決められるというのでは、どうも総裁の選挙のやり方として、少し閉鎖的ではないか、というような批判が従来あったのです。そういう批判にこたえまして、拡大されました党員、あるいは党友、これらの人を加えまして、いわゆる公選制度を実行しようということであります。

 第二の党員の拡大は従来四、五万ぐらいのところ、本当の党員は非常に少ない数でございました。四〜五万という、これは当てずっぽうでありますが、お許し願いまして、少ない数であったのですが、これが百五十一万まで拡大されたわけです。その拡大作業が終わりましたので、先ほど申しました党友の獲得、いまこの努力をいたしております。第二、第三の作業は順調であります。こういうふうに見ていいと思うのです。

 それから第四に掲げました党総裁公選の問題、これは準備を着々と進めておるわけであります。準備は順調に進んでおる、こういうふうに申し上げることができる。こういうふうにも思います……が。

 ただ、第一に私が申し上げました派閥の解消、この問題が多少引っからまりが出てくる、という傾向がなきにしもあらず。そういうことで、第一の党改革の眼目である派閥が、また総裁選挙、公選を契機として頭をもたげるということになれば、本当の党改革の精神が失われることになりますので、何とかしてそういうような弊害を防ぎながら、総裁選挙というものをやってのけたい。これは総裁選挙というものは、公選でやることは公選選挙法があるわけじゃありませんから、やるのは非常にむずかしい、むずかしいけれども、こういうことにいたしますから、今度は党員になって下さい、党費を納めて下さい、そういうようなことで、党員の拡大もできたというようなこともありますので、これをやらないというわけにはいきません。これはやってのけます。のけまするけれども、これが派閥がまた再び頭を持ち上げるというような傾向を排除しながらやるというのは、これはなかなかむずかしいことであります。しかし、何とかして、公党の総裁の選び方はかくあるべしというような、りっぱな総裁選挙をやってみたい、このように考えておるわけであります。

 当面の問題、雑談をしろ、こういうお話でありましたので、雑談ふうに申し上げたわけでございますが、この上とも日本国の進路を誤らしめないということに心しながら、全力を傾倒して参りたいと思うのであります。大変ご静聴ありがとうございました。