データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第5回UNCTAD総会における大平正芳内閣総理大臣の一般演説

[場所] マニラ
[年月日] 1979年5月10日
[出典] 外交青書24号,354ー359頁.
[備考] 
[全文]

議長閣下,代表各位ならびに御列席の皆様

 私は,まず,閣下が第5回UNCTADの議長に満場一致で,選任されたことに心からの祝意を表します。閣下の国連における長い御経験に裏打ちされた卓越した外交手腕は会議参加者の等しく認めるところであり,私は閣下の主宰のもとにこの会議が実り多い成果を収めることを確信するものであります。私は,またこの会議のホストを務められるマルコス大統領閣下ならびにフィリピン政府及び国民に対し感謝の念を表します。私は,親しい友人であるマルコス大統領が,熱意をもつて南北対話の指導的地位に立つておられることを誇りとするものであります。

 また私はコレア事務局長の積極的イニシアティヴと献身的な努力に対して深甚なる敬意を表すものであります。

 わが国はアジア太平洋地域の一国として,第5回UNCTADがこのマニラの地で開催されることを極めて身近に感じております。アジアにおいては,より大きな安定を達成するために真摯な努力が続けられておりますが,ASEANの地域協力が一層発展を遂げていることを高く評価したいと思います。

 わが国としては,この地域における平和と発展のための各種の試みに対し,一層の貢献を行う覚悟であることをこの機会に改めて申し述べたいと思います。

議長

 UNCTADは,1964年の第1回総会以来15年を経過しました。過去の総会はそれぞれに南北対話の中心的な場としての役割を果して参りましたが,今次総会は特にわれわれにとつて重要な意味を持つていると考えます。それは,今次総会が第3次国連開発戦略の策定に方向づけを与えるとともに,80年代さらにひいては,21世紀をも展望しつつ南北問題の進路を探るという歴史的課題を担つているからであります。

 私が今次会合に参加したのも,ここで南北問題に対する開発途上国の皆様の考え方を私自身直接承り,6月東京で開催される先進国首脳会議に充分伝えたいと思つたことにも理由があります。

議長

 私は,一昨日正式に提出された77カ国グループの「アルーシャ宣言」がその冒頭部分において,開発途上国が自らの直面する社会的経済的諸問題についての実効ある解決を探究し,自助を促進し,自らの基本的構造改革を推進する責任を負うものであることを高らかに宣言していることに先ず大きな感銘を受けた次第であります。同宣言はさらに語を継ぎ「平和」とは単に「戦争のない状態」ではなく,それは政治的自由と開発途上国の開発と世界の秩序ある発展の促進を可能ならしめる条件を作り出すことと同義語であるとの認識を表明しております。わが国は平和国家として,かつ,また国民経済の発展に努力を傾注してきた国家として,かかる認識に深く同意するものであります。

議長

 今日の世界について言えることは,先進国,開発途上国の如何を問わず,各国経済が世界経済全体の枠内で相互依存関係にあるという事実であります。この相互依存の認識は,世界経済の調和ある発展と拡大なくしては一国の経済の発展と国民生活の向上はあり得ないこと,そして更に各国経済が世界経済の拡大と安定のため,それぞれ相応の役割と責任を果す必要があることの再確認につながるものであります。先進各国が,インフレ,景気停滞及び保護主義の脅威下にあつてそれぞれの実情に見合つた異なる措置から成る,インフレなき持続的成長を目指した,「協調的行動」をとつたのはその1つであります。また,先進国間で進められている積極的調整政策も,かかる認識に基づくものであります。このような努力を通じ,我々は先ず世界経済の前途に対する信頼感を高めることを急がねばなりません。世界経済の安定的成長の中でこそ,開発途上国の経済発展も促進されるものであります。

 相互依存の下の世界経済において,開発途上国は次第にその比重を増しております。UNCTAD事務局報告にも明らかなとおり,開発途上国輸出の世界の輸出総計に占める割合は,1970年の17%から1976年の24.6%へと拡大しております。同時にこのことは,開発途上国もその経済力を拡大するにつれ,自ずと世界経済の運営について相応の役割と責任を果しているものであり,我々の直面する南北問題の解決も,グループの立場の対立によつてではなく,相互依存の認識のもと協調によつて図られねばならないことを示しているものであります。

議長

 わが国が近代化を志したのは遠い昔のことではなく,公正かつ衡平な新しい国際経済秩序の樹立に向つての,開発途上国の願望と意欲には共感を覚えている次第であります。経済自立を達成したいという開発途上国の正当な期待に応えることは,国際社会の責務であり,そのためには,先進国からの資本・技術の移転,その他開発途上国の自助努力を促進する措置が必要なことは申すまでもありません。同時に必要なことは,開発途上国自体の開発への意欲とそれに向つての主体的な努力であります。現在,開発途上国間で検討されている集団的自立のための努力もかかる認識に基づくものと理解しております。

 発展段階の如何を問わずすべての国が各々その持てる人的,物的資源を動員し,長期的な経済社会開発の展望の上に立つて自らの開発能力を高めてゆくという積極的,自主的行動によつて裏付けされてこそ,相互依存のもとでの協調と協力の実効性が確保されるものであると信ずるものであります。

議長

 わが国は,世界の平和と発展の中にのみ生きる道が開かれると信じており,そのためには国際協調を通じて積極的に国際的役割を果すことを基本政策としております。特に,近年のわが国の経済力の拡大に伴ない,私はわが国が世界経済全体の調和ある発展のため,積極的な貢献をしなければならない時代が到来していることを強く感じております。近年,わが国が内需を中心に先進国の中で最も高い成長率を目指しているのも,世界経済の拡大と安定に貢献せんがためであります。同時に,わが国は国内産業の高度化,合理化政策の推進についても決意を新たにしております。わが国はかかる政策運営が開放貿易体制の一層の発展に寄与し,開発途上国の工業化とその輸出を促進するのに効果あることを期待しております。

 わが国は,1973年の東京宣言で開始された多角的貿易交渉において,熱帯産品をはじめとする開発途上国関心産品の関税等貿易障害の軽減に最善の努力を払つてまいりました。私は交渉の成果が,できるだけ多くの国の参加を得て実施に移され,開発途上国を含む世界経済全体の利益のために大きく貢献することを強く希望するものであります。わが国の一般特恵関税制度による輸入は年々増加しており1977年度は23億ドルに上りました。わが国は,同制度が国際競争力の弱い開発途上国も国際貿易から利益を引出し開発途上国の輸出振興の呼び水となるとの趣旨にかんがみ,今後も一般特恵関税制度の改善に努めてまいりますが,その一環として後発開発途上国に対する特別措置の導入を検討したいと思います。またわが国はその他各種の措置により開発途上国産品の輸入に努めておりますが,製品輸入の分野に限つて見ましても,1970年から77年の間に,輸入額は10億ドルから40億ドルへ4倍増,製品総輸入に占める開発途上国からの製品輸入の割合は18%から26%へと大きく拡大しているのは,かかる努力の成果を如実に示しております。

議長

 わが国は,「一次産品総合計画」の実施に積極的に取り組んで来ました。就中先般,その要たる一次産品共通基金の大枠が合意されたのは,南北対話が実りあるものであることを立証したものであります。交渉の過程で,わが国は交渉のとりまとめのため積極的に貢献できたことを喜ばしく思つております。共通基金がUNCTADの真に誇り得る成果となるためには,できるだけ多くの国の参加を得て早期に発足することが肝要と考えます。

 わが国としては,共通基金の主たる役割は緩衝在庫融資を目的とする第1の窓にあると考えておりますが,共通基金が各グループの諸国にとり満足のいく形で設立され,大多数の国々の参加が期待される場合には,第2の窓に対する任意拠出についても応分の協力を行う所存であります。

 更に天然ゴム協定の枠組が4月合意されたことは,一次産品総合計画のもう1つの成功例であります。私は特に,同交渉が終始生産国・消費国間の極めて友好的な対話によつて運ばれたことをうれしく思うものであります。

議長

 わが国は開発途上国の経済社会開発への自助努力を支援するため,政府開発援助の拡充に努めております。そのため,1977年に14億ドル強に達した政府開発援助実績を翌78年から3年間で倍増するという中期的な目標を実施中であります。この方針に従つて,わが国は78年には約22億ドルと前年比56%増の政府開発援助を供与するとともに,79年度予算においても厳しい財政状況下にかかわらず援助予算の拡充に格段の配慮を加えるとともに必要な法的措置もあわせ講じました。このようにわが国援助は,現在極めて順調に進行しており,わが国は,目標最終年である80年には,わが国の政府開発援助について倍増を確実に達成する所存であります。わが国は今後とも積極的姿勢を維持し,政府開発援助の量を拡大してGNP比の改善に一層努力するとともに,グランド・エレメントの向上,資金協力の一般アンタイド化方針の遂行等による質の改善にもたゆまず努力する方針であります。

 更に,政府開発援助の供与にあたつては,低所得開発途上国(low income developing countries)に対し特に配慮を払つております。即ちわが国は,1978年の二国間政府開発援助の64%を1人当りGNP400ドル以下の低所得開発途上国に振り向けました。貧困開発途上国(poorer developing countries)の債務問題につきましては,昨年3月のUNCTAD貿易開発理事会閣僚レベル会合の決議に留意して,後発開発途上国(LLDC)及び石油危機で最も影響を受けた国(MSAC)に対し新規に無償資金協力を供与する措置を実施中であります。また,1977年の国際経済協力会議(CIEC)における低所得開発途上国に対するわが国の追加的援助約束は,即に昨年度内にほとんど贈与の形で実施済みであります。今後ともわが国は,低所得開発途上国特に後発開発途上国向け政府開発援助の一層の拡充に努めてまいりたいと思います。

 わが国は,国際機関を通じた援助を重視しております。現在交渉が進められている世銀の一般増資及び国際開発協会の第6次増資に対して前向きに取り組んでいるところであります。わが国はその他地域開発金融機関にも積極的に貢献しており,アジア開発銀行において最大の出資国となつているのを始めとして,アフリカ開発基金に対する最大の出資国,米州開発銀行に対しても域外最大の出資国となつております。

 国際収支支援の分野におきましても,わが国は,近年IMFの場において開発途上国の要請に応えつつ,各種融資制度の創設改善に努めておるところであります。

 わが国はまた,世界の食糧問題の重要性にかんがみ,今後ともアジア等深刻な食糧の不足が予想される地域における食糧増産計画には積極的に貢献していく所存であります。

議長

 私はこの機会に,如何にすれば人類にとつて豊かな21世紀を築き上げられるかについて常日頃考えていることを申し述べたいと思います。私が強調したいことは,「国造り」の基礎はまず「人造り」にあるということであります。

 わが国の歴史を顧りみましても,過去100年間,その近代化に努めるに際しては,天然資源に乏しい中で教育を重視し,人的資源の開発を「国造り」の柱として今日まで努力してまいりました。今や我々は国際的な広がりにおいて,この「人造り」の作業を推進して行かなければならないと考えております。無限の可能性を秘めている次の世代の人材を育成し,その能力を開発することは現世代が当然果すべき責務であり,「人造り」のための国際協力こそ今世紀に残された20年間にとつて極めて大きな歴史的意義を有するものであると申せましよう。

 「国造り」をより効果的に推進するためには,その人材の育成が肝要であります。特に開発途上国へ技術を移転し更にそれを根づかせるに際し必要不可欠となるのは開発途上国側における基礎的学力の向上であります。私は開発途上国における広い層の能力を掘り起すという意味から,基礎学校教育の一層の充実及び開発の直接の担い手となる専門技術者の育成は急務であると考えます。更に国民の開発への意欲を高め,明日への成長を可能ならしめるような地域社会を作りあげることも必要でありましよう。そのためには,マスメディアのごとき手法をも活用しつつ,国際的なレベルで経済技術協力及び文化協力等幅広い協力活動を積極的に推進する必要があると考えます。このような「人造り」協力は人と人との触れ合いをもたらし,文化・スポーツ等の分野における国際交流の強化とあいまつて地球共同体における相互理解の増進をもたらすものであり,実りある21世紀への扉を開く鍵であると確信しております。

 わが国は従来から技術協力を中心に開発途上国の専門技術者の育成に役立つ協力を行つてまいりました。これはひとえにわが国の持つ経験を生かした開発途上国の人々に力を貸してまいりたいという真摯な願いから出たものであります。このような認識に基づき,わが国としては「人造り」のための協力を今後のわが国援助政策において一層重視して参り,教育協力の拡充,専門技術者の育成,人的文化的国際交流の強化等を通じ,開発途上国の人的資源の開発に貢献する決意であります。

 また私といたしましては,このような考え方が第3次国連開発戦略にふさわしいものと考え,その策定作業の御参考になれば幸いと存ずる次第であります。

議長

 南北の双方に深くかかわり合つているわが国にとつて,今日の世界における相互依存状態程,わが国の将来が世界共同体の調和ある発展と強く結びつけられていることを自覚させるものはありません。わが国としてはそれだけに尚更,南北問題をわが身の問題として受けとめざるを得ません。今日の南北問題解決の努力が次の時代の実りをもたらすためには,我々は21世紀を展望しつつ息長くかつ力強く取組まなければなりません。私は,この4週間が貴議長の下,今次会合に課せられた課題を成功裡に果すことを希念しつつ,私の一般演説を終りたいと思います。ありがとうございました。