[文書名] 当面の内外施策(内外情勢調査会における大平内閣総理大臣の講演)
七〇年代の教訓に学び八〇年代に対処
いま私どもが立っておる歴史的な段階は、大変難しい局面であろうと思うのでございます。一九七〇年代をいま終えようといたしておりますけれども、この七〇年代には、われわれはいろんな試練を経験いたしたわけでございます。日本に直接大きな影響がありましたものといたしましても、まず七一年のあの通貨危機がありましたし、七三年の石油の危機は、わが国の経済社会を根底から揺り動かした大きな試練でございました。政治的な側面においても、ベトナム戦争が泥濘のような状態で長く続いたわけでありますが、そのあと中越の紛争が起こったり、カンボジアの危機が訪れたりいたしました。友邦アメリカにおきましては、ウォーターゲート事件等で暗い、しかも深刻な試練を体験するというような七〇年代であったわけでございます。
この七〇年代も、ようやく幕を閉じようといたしておりますが、われわれは、こういう試練を回顧いたしまして、そこからいろんな教訓を−−高い授業料でございましたけれども−−学びとらなければならんのではないかと思います。そして、これを身につけて、八〇年代に対処していく分別を出さなければならんのじゃないかと思っております。
壊れやすい世界の秩序を国際協力で
ところが、そういう矢先に第二の石油危機が訪れたわけであります。先般六月の末に、東京でサミットが催されました。サミットは、これが五回目でございますけれども、これまで、経済サミットと申しまして、第一次の石油危機を経験いたしました先進各国が、経済運営を協力してやろうじゃないかということに合意し、テーマといたしましては、成長、インフレ等を含むマクロ経済全体の問題、それから貿易の問題、エネルギーの問題、南北問題、通貨問題という五つの問題を取り上げて、ランブイエ以来討議してきたわけであります。
そうして、世界経済の協力的な運営にそれなりに役割を果たしてきたと思うのでありますが、東京サミットは、くしくも、第二の石油危機の真っただ中に開かれたわけでございますし、二日目の払暁にOPECの値上げの情報が入るというようなサミットでございましたから、当然エネルギー・サミットであった、石油サミットであったわけでございます。
この間題についての考えがまとまらないと、通貨問題も、南北問題も、貿易問題も、成長問題も、みんなやり直さなければいかんことになるわけでございますので、確かにエネルギー・サミットということになりましたことは、当然の道行きであったと思うのであります。
その会談に列席してみまして私が痛切に感じましたことは、世界が非常に壊れやすい状態になっておる、壊れやすい陶器のような状況、よほど用心し、気をつけないと、われわれがいま立っておる世界の秩序というようなものが、いつ壊れるか分からない状況にあるんじゃないか。これに対して何が一番大事かというと、みんなで力を合わせるというか、協力というか、国際協力、これしか道がないじゃないかと考えたわけでございます。
東京サミットに集まりますのは七カ国首脳でございまして、石油消費の七割を占める主要国でありますが、そこへ欧州共同体(EC)の委員長が参加して、八人での会議でございます。
昔でありましたならば、これだけの首脳が集まりますと、経済問題ばかりでなく、大きな政治問題についても、世界を指導するだけの力が期待できたはずだと思うのでありますけれども、今度の場合、石油という戦略資源に対する主権は、われわれにはないわけでございました。七カ国首脳とECの委員長が集まりましてやりましたことは、われわれができることをこの際やろうじゃないか、やる以上は、具体的にやろうじゃないか、やることをみんなモニターして、真剣に対処しようじゃないかということになったわけです。OPEC並びに非OPECの少数の産油国に、石油資源の主権が握られているわけでありまして、どれだけ生産するか、どういう値段で供給するか、どこへ供給するかというようなことは、われわれ先進主要国ではできないことでございます。
われわれができることは、まず何としてもみんなで協力して節約しようじゃないか、節約も、お互いが宣言するだけじゃいけないので、具体的に石油の原油の輸入シーリングを設けようじゃないか、七九年、八〇年だけでなくて、八五年までの目標を決めようじゃないか、しかも、それは、国別に決めようじゃないか、そして決めた以上は実行しようじゃないか、実行するためには、各国がそれをモニターしようじゃないか、というようなことであったのでございます。
先進主要国の首脳がそういう次元の低いことでございますけれども、まさにそれ以外に、いまの世界の当面する問題に有効に対処する手だてがなかったので、それに対して謙虚に論じ合い、具体的に決めようと努力し合いました。ヨーロッパとアメリカの間にもいろいろな意見が違っておりましたし、日本と欧米各国との間にも利害が違っておりましたけれども、ともかくも、ここで具体的な措置を決めることができたということは、世界の救いであったと思うのであります。
この協力の精神というものは、大事にしていかなければならないと思うのであります。これがこれから先八〇年代に、われわれがどういう試練に遭うかもしれませんし、どういう衝撃にぶつかるかもしれませんけれども、そういう場合に処していく一つの大きな教訓を、そこから学びとったように思うのでございます。
参加国は筋道の通った内政、外交を
しかし、さらにもっと深く突き詰めて考えてみると、そこに集まって一つの決定に参加した首脳が率いるところの国々が、アドバンスト・デモクラシーの国としてもちゃんとした筋道の通った内政と外交を展開するということがなければ、お互いに寄り集まって相談いたしましても、それを実効あるものにする、実のあるものにすることができないわけでございます。
国際協力ということは、みんなで一緒にやろうじゃないかということでありますけれども、それに参加いたしましたそれぞれのメンバー・カントリーは、それだけの主体的責任があるわけであります。内政、外交について、ちゃんとした取りしきりができる国でなければならないわけでございます。そういう国でなければ、その国の発言は評価されない、信頼されないことになるわけでございます。いよいよ壊れやすい世界になり、そして国際協力によって危機を救っていく以外に道はないわけでありますけれども、さらに突き進んで言えば、それぞれの国がちゃんとした政治の体制を維持して、経済の秩序を維持して、社会の安定を保障するだけのものがなければならんということであることは、申すまでもないことだと思うのでございます。そういうものを背景にいたしまして、初めて国際協力の実が結ばれるのであるというように感じたのであります。
市場原則の尊重が賢明な対応策
そこで、いまわが国が当面する問題でございますけれども、まず誰が申しましても、エネルギーの問題が確かに当面の緊急な課題に違いはないと思います。東京サミットの宣言を踏まえた上で、国際協力の一環として、誠実にその宣言の線に沿いまして、われわれは、この間題に対処していく責任があると思いますが、またそのことを通じてのみ、わが国のエネルギーに対処する有効な対応が可能になってくるんじゃないかと思うのでございます。そういう認識に立ちまして、まず、われわれはエネルギー供給の安定、多角化ということに鋭意努めておるわけであります。また国民に対しまして、国際エネルギー機関(IEA)で申し合わせた五パーセント節約について真剣にご協力をお願いしてまいっておるわけでございます。七月、八月の消費の動向についてずっと報告を承りますと、国民の理解と協力が得られまして、ただいまのところ石油の需給に支障はないように思うのでございまするし、下半期につきましても、いまのところそう不安が考えられないということでございます。
ただいま、臨時国会におきまして、この間題についての与野党の論戦が展開されておりまするけれども、野党の皆さんがご心配するように、こういう時期に石油三法を発動いたしまして、公権力が介入しないと、石油経済の安定は図れないというような認識は、政府はもっていないわけでありまして、需給がともかくも安定できておる以上は、行政の介入は、不必要であろうと私どもは考えております。東京サミットにおきましても、各国とも市場原則を尊重してお互いにやっていくことが、賢明な対応策ではないかということでもあったわけでございまして、特にいまの対応の仕方で大きな狂いがなければ、この体制を堅持していきたいと考えておるわけであります。
代替エネルギーの開発、活用に取り組む
しかしながら、将来石油の安定した供給が保証されておるわけでもございませんし、値上がりがないという保証もないわけでございますので、何としても、本格的に石油に代わる代替エネルギーの開発と活用に真剣に取り組まなければならんわけであります。エネルギー調査会の専門の方々にお願いいたしまして、先月でございますか、需給部会を開いていただいて見通しをつけていただいたわけでありますが、まず、エネルギー源のうち、いま七四・五パーセントぐらいを輸入石油に依存いたしておりまするけれども、これを八五年には六五パーセント程度に下げる。九〇年までには先進国並みの五〇パーセントを割るようにもっていこうじゃないかという目標をたてまして、原子力と輸入石炭、LNG、新エネルギー等の開発と利用に精力的に取り組もうじゃないかということにいたしておるわけでございます。これは、これからの課題でありますので、政府としても慎重に計画し、民間の活力のお助けを得ながら、大事なエネルギー資源の確保に万全を期してまいらなければならんと思っております。
しかし、いずれにいたしましても、産業の構造も、生活の様式もどっぷりと石油につかってしまっておるような状況でございますし、それはそれなりの合理性もあったし、これまでの道行きといたしまして、理解ができるところであったわけでございますけれども、今後は根本的に産業政策も、われわれの生活文化も生活様式も、今後の課題として真剣に取り組まなければならんじゃないかと考えておるわけであります。今後一層のご協力を、各位にお願いしなければならんと存じております。
決して増税論者ではない
われわれが当面しておる第二の問題は、あまり評判がよくないのですけれども、財政再建の問題であります。私の顔を見ると、どうも増税のような顔をしているようでごさいますけれども、私は、決して増税論者ではないのであります。皆さま、第一次の石油危機が発生したときのことを想起していただきたいのです。私は、石油危機の発生した翌年の夏、外務大臣から大蔵大臣に代わったわけでありますが、四十九年七月十六日に大蔵省にいってみますと、何が待っておったかというと、四倍にも跳ね上がりました原油の代金の支払いが待っておったのでございます。全世界に指令いたしまして、できるところから外貨を借りるということをやったわけであります。“ジャパン・レート”などという、不名誉なレートまで出ましたことは、皆さまのご記憶に新たなことであろうと思いますけれども、ともかく借りられるだけ借りて、手形の決済は、期日を違えることなくやってのけたのであります。私は、あれをやっておりながら感じたのでございます。
日本の国というのはいい国だ。何となれば、世界は、日本を信用してくれるではないか。われわれの祖先は、明治、大正、昭和にかけまして、相当大胆に外国から借款をいたしたわけでございます。ロンドンやニューヨークの市場で大量の資金を調達したわけでありますけれども、戦争によって物理的に阻まれた一時期を除きまして、すべての契約は、期日を違うことなく、完済してくれてあったわけでございます。日本に金を貸しても大丈夫だという、目に見えぬ信用があったわけでありまして、いよいよ石油危機が突発いたしまして、同量の原油を入れるのに百億ドルを超える外貨を調達しなければならんという羽目に陥りましても、これをファイナンスしてくれるだけの信用が日本にあったということは、ありがたいことであります。当時の、ここにいる竹内君も次官として助けてくれましたけれども、われわれの努力というよりは、やはりわれわれの先祖がちゃんとしてくれておったということで、先祖のお陰を被ったと思うのでございます。
不況の深刻化を防いだ財政を再建の時
それはともかくといたしまして、そういう手当てを急いでやる一方、歳入が目に見えて減ってくるわけでございます。歳入の欠陥も三千億とか五千億とかいうような額なら話は分からんわけではないのですけれども、なんと三兆八千億というような、われわれが想像もつかない、大蔵省が手堅く見積もりました歳入に三兆八千億の欠陥が出たわけでございますから、全く手がつけられないような状況でありました。
財政の原理から申しますと、それだけ歳入が減ったんでありますから、歳出をしぼっていかなければならないはずでございますけれども、空前の世界的な不況の荒波にもまれておるわけでございますから、われわれは、経済を守らなければならん、国民生活を守らねばならん。そのためにどうしようかという判断をいたしました結果、ここでひとつ財政が、この荒波、衝撃を一ペん受け止め、そうして経済と国民の生活を守ろうと決心したわけであります。
そうしておいて、経済が立ち直る段階になれば、この財政が受けた負担、財政に残った後遺症は、元に帰してもらうということにしようという選択をいたしたわけでございまして、当時も変わらない行財政水準を維持してまいったわけであります。そうして財政にむちを当てまして、公共投資をはじめといたしまして、不況が深刻にならないように支えたつもりでございます。
したがって、財政は、非常に疲労いたしたわけであります。財政は、いま大きな後遺症を負っているわけでございますから、経済がようやく立ち直るということになった今日、これからぼつぼつ財政再建に取りかからしていただいても、罰は当たらんのじゃないかと思うのであります。なんとなれば、八〇年代にどんな問題が出てくるか分からないので、このままの財政でひとつ対応せよというのは無理だと思うのです。財政を急いで健全な姿にしておかないと、われわれは八〇年代の問題にこたえられないじゃないか、衝撃に耐えられないじゃないか、試練に耐えられないじゃないかということを、しみじみ感じるのでございます。
政府は、その問題を取り上げておるわけでありまして、問題は、財政の再建でございまして、増税ではないのであります。財政を再建するためには、もとより歳入歳出をもう一ペん見直しまして、とことんまで厳密にやり直さなければならんことは当然なことでありまして、そのために、私はまえびろに各省に命じて、夏休み返上でサマーレビューというありがたくもない作業を急いでいただいたわけでございます。
そうして歳入歳出全般を通じまして、徹底的な見直し作業を急いでおりまするけれども、人間というものは、なかなか現状を打破するのは容易なことではないわけであります。行政整理をしなければならん、行政の冗費を省かなければならん、というのはもう天の声で、圧倒的な世論でございますけれども、しかしながら、自分のところになると、ちょっと待ってくれ、よそでやってくれたらいいじゃないかというのが本音なんであります。行政整理と一口で言いますけれども、総論は賛成だけれども各論は反対。総論は賛成だが各論は反対だというなら、これはできないということなんでございます。
財源傾けても再建困難なら新たな負担を
行政整理という言葉は大変手軽にみんな使っておりますけれども、これは容易じゃございません。われわれは生首を切ろうとしておるんじゃないんだけれども、まあ自然減耗をある程度まで抑えて、ひとつここまで辛抱しようということさえなかなか難しいし、この職場からこの職場へ移ってくれないかという相談も難しいことなんでございますから、行政費の節約ということがそんなに手軽にできるはずはないと思うのでありますが、しかし、こういう財政を立て直さにゃいかん時代におきましては、まず第一にこれをやらなければ、国民の理解が得られないことは当然でございます。従来われわれがやってまいりました努力に倍加する努力を傾けまして、どこまでお目にかけられる成果があげられるか、まだ具体的に申し上げられる段階じゃございませんけれども、やるだけのことはやったな、といわれるだけのことは、なんとしてもしていかないと申しわけないじゃないかと考えて、いまやっておるわけであります。
そういうことを通じまして、既存の歳入歳出を見直していくということを通じまして、財政再建の原資をわれわれは見つけ出さなければいかんし、最近ようやく経済も回復いたしまして、きのうの大蔵省発表でもご覧いただきましたように、ある程度歳入の増加が期待できるようでございますが、そういう期待できる増収分も含めまして、われわれは、どうすればこれだけ巨大な十五兆二千億にも及んでおる国債発行、そのうち、八兆円は赤字国債でございますが、この赤字国債は、来年度を起点といたしまして、昭和五十九年度までにはなくさしてもらいたいと考えております。石油危機が始まる前の四十八年には、赤字国債はございませんで、建設国債だけで、一二パーセントの国債の依存率でございました。いま赤字国債を含めて四〇パーセント近い依存率になっておるわけであります。アメリカ、ドイツあたりが一〇〜一五パーセントぐらいの国債依存率、フランスやイギリスは非常に健全でございまして、六パーセントぐらいの依存率にとどまっているようでありまして、英、独、米、仏、四大国の赤字を全部合わせたより、日本の赤字が大きいというようなことは、決してこれはほめたことではないと思うのでございます。
われわれは国債の減額がどこまでできるか、ひとつ来年度を起点として、さすが政府は本格的な財政再建に手をそめたという、政治の信頼を取り戻さなければならんのじゃないかと考えておるのであります。先進各国にいわせますと、日本は、第一次の石油危機の克服は見事であったと言ってほめてくれるのでございますけれども、まだほめられるのは早いんでありまして、この後遺症を治して、初めて日本はうまくこの危機を乗り切ったということで評価していただきたいのでございまして、まだ道は途中にあるのではないかと思うのであります。歳出を見直し、洗いざらいの財源を傾けても、なお、国債発行を来年度から減らしていくということがまだできないということでありますならば、私は、やはり国民に新たな負担のご相談を願わなければならんじゃないか。
これも誰が考えても、道行きはそうなっていくわけでございますが、とれだけ必要であるか、どういう税目でお願いするかというようなことは、五十五年度の予算で具体的にお答えしたいと考えておるわけでございます。政府は、逃げ隠れできないわけでございまして、もうこの暮れまでにはちゃんと答案を出さにゃいかんわけであります。当面の緊張した政局はともかくといたしまして、来年の夏にはまた参議院の選挙があるわけでございますが、やるべきことは一貫して地道にやってまいらなければならないと考えておるわけであります。こういった問題が第二の緊急な課題としてありますことをご理解いただいて、皆さまのご協力を願いたいものと思うのであります。
開かれた民主政治で清潔な政治を
第三の緊急な課題は、政治倫理にかかわる問題でございます。グラマン事件、ロッキード事件が発覚をいたしまして、これらに絡む政治不信が起こりましたことはまことに残念であります。私は深い反省の意を表さなければならんと考えております。しかし、これが起こった以上は、真相を解明しなければならんと思います。解明いたしました結果、法に照らして厳正に処理していくことが、まず第一だと思うのでございます。幸いに、日本は、開かれた民主政治をやっておるわけでありまして、国民のただす権利、聞く権利が尊重されておるわけでございます。
マスコミは、取材の自由が保証されておるわけでありまして、一番清潔な政治を保証する制度といたしましては、この民主体制というものを大事にして堅持してまいることだと思うのであります。日本は、そういう意味ではご安心を願いたいと思うのでございます。全体主義の国ではないわけであります。すべてが開かれた体制の中で、えりを正して事をやらないと収まらないような状態になっておりますことは皆さまご承知のとおりであります。この間題に対して、議会制民主主義という開かれた民主制度を、あくまで堅持していくということが一番大事なことだと心得ておるわけでありまして、そのことを標ぼうし、そのことを党是といたしておる自由民主党の責任は非常に重いと考えておるわけでございます。
第二に、しかし、こういうつらい経験をいたしたわけでありますから、こういった事件の再発を防止するための措置も考えなければならないじゃないか。それはもとより政治家それそれの自戒自粛に待たなければならんことでありますけれども、政府は政府として、国会は国会として、政党は政党として、それぞれの立場で考えなければならない、ということだろうと思うのでございます。
内閣におきましても、先般来、協議会を設け、学界、有識者等のご参加を得まして、昨日一つのご提言をまとめていただいたわけでございます。政治家個人の倫理の確立の問題、企業倫理に関連した商法の問題、それから国会、政党を通じまして連携の上進めてまいらなければならない選挙制度の問題、現行法制の整理や届け出、罰則、あるいは時効期間の延長といったような問題。そういった問題が提起されたわけであります。
政府といたしましても、できるだけ早くそういった問題の実現を図る方向に手続きを進めてまいらなければならないと考えているわけでございます。事件が起こりましたことは残念でありますけれども、起こった以上は、黒白を明らかにして厳正な措置をするということ。その再発を防ぐためには、現行制度をいろいろ活用し、なお工夫すべきものにつきましては工夫してまいるという態度で対処いたしております。この点についてご理解をいただき、ご鞭撻をお願いいたしたいと存ずるのでございます。
世界の期待にこたえ世界に責任果たす
以上申しましたように、当面の緊急課題に対処いたしながら、八〇年代という濃霧のかかった未来に対して備えるところがなければならんと考えておりますが、七〇年代はいろいろな試練をともかくも克服してまいったわれわれであります。その間に、われわれは、いろいろの教訓も身につけ、経験も蓄積さしていただいたわけでございますので、これを活用いたしまして、八〇年代の挑戦にこたえなければならんじゃないかと思っておりますが、どんなことが起ころかもしれませんけれども、内にわれわれの民主体制というものをキチンと整えてまいる。外に対して責任をもてる国際協力を進めていくということを大きな道標といたしまして対処いたしてまいりますならば、道は開けてくるのではないかと思うのであります。
すでに、先進主要国の仲間入りをさしていただいて、世界的に相当の評価をいただいているわが国でございます。ますます自重いたしまして、世界の期待にもこたえ、世界に対する責任も同時に果たしていかなければならないと考えております。われわれといたしましては、微力でございますけれども、精いっぱいベストを尽くして対処いたしたいと思います。皆さまには、日ごろいろいろご好誼をいただき、力強い、また行き届いたご支援とご鞭撻をいただいておりますが、なお、一層のお引き立て、ご鞭撻をお寄せいただきますようにお願いを申し上げ、皆さまのご健勝をお祈りいたしまして、私の挨拶といたします。ありがとうございました。