[文書名] 大平正芳内閣総理大臣のオークランドにおける演説
—太平洋時代の創造的協力関係—
マルドゥーン首相閣下
御在席の皆様
本日は,私共一行のためにかくも盛大な歓迎の宴を催して頂き,また,ただ今は,マルドゥーン首相閣下及びローリング労働党党首より心のこもつた歓迎のお言葉を頂戴し,一行を代表して感謝の意を表明致します。
私は,8年前,外務大臣当時,貴国を訪問し,その美しい自然,人間味あふれる国民性に接し,誠に感銘を受けましたが,今般再びこの美しい国を訪問することができ,また,マルドゥーン首相以下ニュー・ジーランドの多くの指導者の方々とお会いし,有益な会談を持つことができました。私はこのことにまず御礼を申し述べたいと思います。
マルドゥーン首相閣下
私は,本日この席をお借りして,1980年代を迎え,日・NZ関係について若干の私の考えを述べさせて頂きたく存じます。
日本とNZは,共に同じ太平洋国家として,9000キロメートル余りの距離はありますが,互いに島国という共通性があり,平和と民主主義を深く愛するという共通点を有しています。さらに,双方とも資源に乏しい貿易立国であり,諸外国との調和を求めるという点においても大きな共通点があります。このような諸点を踏まえ両国は,人種・言語・文化・歴史的伝統等の面で異なりながらも互いの関係を大きく発展させて来ました。両国間の貿易1つをとつてみても,過去20年間で,年間往復貿易総額は30倍という飛躍的な増大を示しました。また,政治・文化・人的交流等の分野においても,双方の交流は,年々活発になつています。
かかる発展の背景には,日・NZ政府・民間におけるたゆまぬ努力の積み重ねがあつたからだと考えますが,特にNZ側においては,マルドゥーン首相以下本日ここにお集まりの多くの関係者の方々の並々ならぬ御努力があつたからであり,これらの皆様に対し深い感謝と敬意を表したいと考えます。
次に,このように緊密になつた両国の関係を80年代において展望致したいと思います。昨年4月トールボイズ副首相が訪日された際,両国の今後の関係を建設的な協力関係として構築することにつき合意がなされました。その際同副首相は,日・NZ両国は「良き隣人としての全き関係」を築き上げることが大切である,と申されました。私は今般貴国を訪問し,まさにその意を強く致した次第であります。
御承知のとおりり,私は,一昨年総理就任の際,政治理念の1つとして,環太平洋連帯構想を提唱いたしました。私がかかる構想を提唱いたしました背景には,今や太平洋地域は最もダイナミックに発展しつつあり,可能性に満ちた地域であるとの認識に立ち,同地域の多様性を前提として,今後太平洋諸国間の開かれた連帯と協力関係が,同地域の諸国のためばかりでなく,人類社会全体の福祉と繁栄のために貢献し得るという点にありました。私は,同構想との関連においても,日・NZ両国の良き隣人としての関係は重要な点であると考えます。
このように日・NZ両国の関係は,単にバイラテラルな側面のみでなく,アジア・太平洋地域という広い観点からも論じていかなければならないと思います。
マルドゥーン首相閣下
ただ今申し述べましたとおり,両国のこれからの関係は,きわめて明るいと考えます。そして,双方の関係をさらに拡大させるための手立ての1つとして,私の今次訪問中,本日午後には,日・NZ航空協定が署名される予定であり,また,経済関係についての高級事務レベル協議が設置される見込みであります。さらに,ただ今マルドゥーン首相より,NZ側における対日交流拡大のための基金設立について感銘深い御説明を受けました。
日本側におきましても,国際交流基金等を通じての日・NZ交流を一層拡大するよう今後とも努力してまいりたいと存じます。
これらの成果の積み重ねにより,貿易・経済関係のみならず,双方の人的交流・文化交流等の広い分野での関係は,80年代においてますます拡大することを信じて止みません。
マルドゥーン首相閣下
御在席の皆様
太平洋という広い大洋の中に南北という存する位置の違い,また人種・歴史・文化・伝統等の違いにも拘らず,80年代から21世紀へ向けて,両国は互いに手を携え,「太平洋時代の創造的な協力関係」を求めて力を合わせていこうとしています。私は,このことは日・NZ両国民のみならず,多くの諸国民の心を明るくさせる象徴的な関係と考えます。今般の私の訪問が,このような開かれた関係を促進する上の一助となるものとなれば,大きな幸せと感ずるものであります。
御静聴ありがとうございました。