[文書名] 第2回国連軍縮特別総会一般討論における鈴木善幸内閣総理大臣演説
議長
私は,日本国政府及び国民を代表して,閣下が第2回国連軍縮特別総会の議長の重職に就かれたことに対し,祝意を表します。また,このたびの特別総会が,閣下の卓越した識見と,国連における豊富な経験に基づく公正な指導の下に,必ずや実り多き成果をあげることを期待するものであります。
議長
4年前,第1回国連軍縮特別総会において,初めて,世界各国が一堂に会し,人類共通の願いである恒久平和のため,真剣な話合いを行いました。その結果,国際的な軍縮努力を誓った最終文書が全会一致で採択されたことは記憶に新しいところであります。それは,世界の平和と安全の維持をその主要な目的とする国連にとって,まさに画期的な出来事でありました。
しかしながら,その後今日に到るまでの情勢を見るとき,事態は,この最終文書の示す方向に向けて進展しているとは言えません。軍縮の歩みは,遅々として進まないばかりか,核兵器をはじめとする世界の軍備は,かえって増大の一途をたどり,4年前に4千億ドルといわれた世界の全軍事支出は,今や5千億ドルをはるかに超えるに至りました。
核兵器は,質,量ともに増強され,現在,世界には,広島型原爆の実に100万発分以上に相当する核弾頭が存在していると言われております。また,核兵器開発のための核実験は,1963年の部分核実験禁止条約の発効後も,いささかも減少することなく,この4年間とって見ても,200回の多きを数えました。さらに,核不拡散条約の存在にもかかわらず,核兵器が拡散する危険は今なお続いております。
一方,通常兵器による脅威の増大も看過し得ません。国連創設以来発生した100回を超える武力紛争は,いずれも通常兵器によるものでありましたが,その破壊力の増大に伴い,ますます甚大な惨害をもたらすようになって参りました。また,最近では,通常兵器の国際的な移転が著しく増大し,地域紛争の危険を高め,これを一層深刻なものとしております。
すなわち,この4年間に軍備競争に伴う平和への脅威は,かえって増大し,各国民の不安は高まり,その経済的・社会的負担もますます大きくなっております。これはまことに遺憾なことと言わなければなりません。
議長
もとより,私は,軍縮への道が「言うは易く行うは難い」ことを承知いたしております。
人類の長い歴史を振り返って見ますと,戦争と平和は,最も古く,かつ重大な問題でありました。そして,それは今なお最も新しくかつ緊密なテーマでもあります。古今東西にわたり,我々の先覚者は,平和の尊さを説き,我々の歴史から戦争を追放すべきことを主張し続けて参りました。しかるに,人類は,今日まで,絶えざる戦いに明け暮れ,数えきれぬ貴重な人命を失い,かけがえのない自然を破壊し,惨禍と疲弊を繰り返してきたのであります。戦争が行われるたびに,このような悲しむべき事態への反省が生まれ,その結果,歴史上様々な戦争防止への試み,とりわけ軍縮への努力が行われました。しかしながら,人類は,いまだにそれに成功いたしてはおりません。
いくたびもの戦争への反省にも関わらず,現実の国際社会においては依然として相互不信の根を断ち切ることができないのであります。その結果,各国は,自らの安全を軍備の拡大のみに求め,それがまた相互不信を増幅するという,悪しき循環に陥っております。そして,ついには,核兵器の出現,ひいては核軍拡がもたらされるに至っているのであります。
かくて現在,地球上においては,核兵器が過剰殺戮の域に達したと言われるまで蓄積されております。一たび核戦争が起これば,敵も味方もなく,人類そのものが滅亡の危機にさらされるという事態を迎えているのであります。今日の逡巡は明日の破滅へとつながる恐れがあります。我々は,断固として時代の流れを転換させなければなりません。今や,軍縮をもって,人類の生存への行動原理とすべきであります。軍縮は安全を増大し,安全の増大は一層の軍縮を可能ならしめるでありましょう。我々は,国家間の信頼関係を築き上げ,先人の貴重な努力を受け継ぎ軍縮が更に促進されるよう新たな一歩を踏み出さなければなりません。
議長
我が国の国会は,私の今次特別総会への出席に先立ち,我が国民の恒久平和への願いをこめて,軍縮,とりわけ核軍縮の促進に関する決議を全会一致で採択いたしました。
私は,本日,この決議に託された日本国民の総意を体して,この特別総会に参りました。そして私は,全世界の諸国民の同じように熱い平和への願いがここに集まっていることをひしひしと感じるものであります。力を合わせてこの願いにこたえ,平和への道を切り開くことこそ,我々の共通の使命であります。
今こそ,託された責任の重さにこたえ,行動を通して,世界の人々に軍縮の実を示さなければなりません。そうしてこそ初めて,この特別総会を真に意義あらしめることができるのであります。我々は,最終文書に示された軍縮への指針を再確認するとともに,新たに不退転の決意をもってその履行をここに誓おうではありませんか。
議長
私は,今日,恒久平和への道程には,軍縮の観点からみて,三つの側面のあることを指摘したいと思います。まず第1に,国家間の信頼関係を促進することにより,とめどなく拡大を続けつつある軍備そのものを縮小に転ぜしめることであります。特に,人類の生存にとって最大の脅威である核兵器の軍縮が何にもまして追求されるべきでありましょう。第2は,軍縮により創出された人的・物的余力を効率的に活用し,平和を阻害する社会不安や貧困を除去することであります。第3に,軍縮の促進を可能とするよう国連の平和維持機能を強化・拡充することであります。この軍事,経済,政治の三つの側面にわたる努力が,相互に補完し,有機的に機能するとき,初めて恒久平和への道が開かれるでありましょう。私は,以上三つをもって軍縮を通じる平和の三原則といたしたいと思います。
議長
まず,軍縮について申し上げたいと存じます。
軍縮を促進する前提は,国家間に相互信頼関係を醸成することであります。しかし,私は,遺憾ながら,近年の軍備競争の背景として,このような信頼関係を著しく損ねるような国際情勢の展開があることを指摘せざるを得ません。とりわけ最近ソ連が,高度の性能をもつ移動性中距離核兵器の配備を著しく増大したことにより,欧州においては,これに対応する中距離核兵器の配備計画を余儀なくされております。また,それはアジアにおいても安全保障上の懸念を高めているのであります。さらに,ソ連は,アフガニスタンにおいて,国連憲章の諸原則に反する軍事侵攻を行い,今に至るも,その軍隊を撤退させる気配を見せておりません。カンボディアにおいても,外国軍隊の武力介入がいまだに続いております。また,その他の世界各地においても,緊張と不安定の様相が強まっており,とりわけこの2,3日の中東の動向には心を痛めております。今,この瞬間にも,干戈が交えられ{戈は「か」とルビ},数多くのかけがえのない人命が失われているのであります。
私は,軍縮を通じた恒久平和を求める立場から,このような事態が一日も早く改善され,軍縮への素地が固められることを強く要望いたしたいと思います。
議長
今日の国際社会においては,その平和と安全が国家間の力の均衡により保たれていることは否定し得ないところであります。我々は,軍縮を進めるに当たって,このような国際社会の現実を踏まえ,この均衡の水準を少しずつでも下げていくことから始めなければなりません。
「千里の道も一歩から」と申します。全面完全軍縮に到達するためには,現実の国際関係において実現可能な措置をひとつずつ推し進めていくことが肝要であります。
今次特別総会においては,全面完全軍縮への道筋を示す包括的計画が作り上げられることになっております。我が国は,従来もこの計画が実りあるものとなるようその策定に当たり積極的な貢献を行ってまいりました。私は,この計画が全面完全軍縮に到達するための現実的で有効な枠組みを提供するものとなることを強く期待いたしております。
以下に私は,主要な軍縮問題について我が国の考えを申し述べたいと思います。
議長
第1に,我々が直面する最優先の課題は,核軍縮の実現であります。
核の惨禍が2度と繰り返されることのないよう核兵器のない世界を実現することは,被爆国日本国民の悲願であります。これは世界各国民に共通する願いでもあるはずであります。この強い願望を一日も早く達成するためには,何よりもまず核軍縮の具体的な措置を着実に積み重ねていかなければなりません。私は,ここに,核兵器が2度と使用されることのないよう核兵器国をはじめとする世界各国が実効ある措置をとることを強く訴えるものであります。そのためには,まず核大国が,核兵器の大幅な削減のための努力を率先して行うことが不可欠であります。
このような観点から,我が国は,今般,米ソ両国間において戦略核兵器の制限及び削減交渉を6月29日よりジュネーヴで開始することについて合意が見られたことを心から歓迎するものであります。私は,米ソ両国が戦略核兵器の大幅な削減を目指して真剣に交渉に臨み,その実質的な進展を図るよう強く訴えます。
また,私は,中距離核兵器について,昨年末よりジュネーヴにおいて,米ソ間で交渉が開始されたことを高く評価しております。この交渉を通じ,ソ連が地上発射中距離ミサイルをその全土からすべて廃棄し,これに対応して米国も欧州への配備をとりやめ,もって,欧州のみならずアジア,ひいては世界の安全保障が大きく高められることを求めるものであります。
第2に,核兵器の一層の高度化を目指す開発に歯止めをかけなければなりません。我が国は,あらゆる国のいかなる核実験にも反対を表明してまいりました。かかる観点から,部分核実験禁止条約にすべての国が加盟するよう呼びかけたいと思います。本年春,ジュネーヴ軍縮委員会において,核実験禁止に関する作業部会の設置が漸く合意されましたが,これは誠に歓迎すべきことであります。我が国は,これが軍縮委員会の交渉への弾みを与え,地下核実験を含む核実験の全面禁止条約の成立を促進することを強く期待いたします。
第3に,核不拡散条約は,核兵器国の増加を防止する上で最も重要な基礎をなしております。我が国としては,この際,改めて,核兵器国,非核兵器国を問わず,すべての未加盟国が一日も早くこの条約に加盟するよう訴えます。また,同じく核拡散防止の見地から適切な条件の整っている地域における非核地帯の設置を目指し,国際的努力が続けられることを望むものであります。さらに,軍縮委員会においては,核の選択を放棄した非核兵器国の安全を核の脅威から保障することをめざし検討が行われておりますが,これを一層前進させるための努力を払われるべきであります。もとより,このような核不拡散体制の維持・強化は,核保有国が核軍備競争の停止と核軍縮について誠実に交渉を行うことによって裏打ちされなければなりません。
第4に,原子力の平和利用の問題であります。人類の未来にとって不可欠なエネルギー源である原子力について平和利用を促進することは,極めて重要でありますが,これを核拡散防止と両立させなければならないことは,今更言うまでもありません。また,原子力の平和利用活動に不安なきを期すことは,世界各国にとり重大な関心事であります。とりわけ平和的目的のための原子力施設の安全保障を確保することが肝要であり,このための国際的努力が実を結ぶことを強く期待するものであります。我が国もこの努力に対し積極的に貢献してまいりたいと思います。
第5に,我が国は,核兵器に次ぐ大量殺戮兵器である化学兵器の開発,生産,貯蔵等の禁止を重視しております。国際社会の強い要請に応え,軍縮委員会がそのための条約の早期成立を目指し一層の努力を傾けるとともに,米ソ両国が二国間の交渉を速やかに再開するよう切望してやみません。
第6に,通常兵器の軍縮について申し上げます。軍縮の最優先課題が核軍縮であることは疑問の余地がありません。しかし,これと並行して通常兵器の軍縮を進めることなしには,核兵器の廃絶を含む全面完全軍縮を達成し得ないことも明らかであります。
我が国は,平和国家に徹するとの基本的立場から,一般的に兵器の輸出を慎むという政策を堅持しております。このような立場から,我が国は,かねてより通常兵器の無統制な国際移転を抑制することを目指し,その第一歩として,通常兵器の保有及び国際移転についての的確な現状把握を提唱してまいりました。
通常兵器の軍縮については,国連において研究が行われる予定になっており,我が国はこれに積極的に参加していく所存であります。
議長
軍縮は,各国の安全保障と密接なかかわりを持っており,これを顧慮することなしに進展を図ることはできません。このためには,関係国の間で相互に軍縮措置の遵守を十分確保し得るような検証措置が不可欠であります。このような検証措置を伴った取決めに基づき,一歩一歩着実に前進していくことが,軍縮を最も効果あらしめる道であります。しかし,兵器の技術は日進月歩であり,検証の問題は一層複雑となる傾向をみせており,我が国は,これまで,特に核実験全面禁止の分野における国際的地震探知制度の確立に協力してまいりました。今後とも,我々のもつ高度な専門的知識や技術をもって,この分野における国際協力に引き続き積極的に寄与して参りたいと存じます。
また,第1回国連軍縮特別総会において確認された,軍縮の分野における国連の中心的役割に照らし,我が国としては,将来国連の枠内において国際的検証機関が設置されることが望ましいと考えております。このような方向への第一歩を踏み出すため,国連が,まず,検証に関する情報や知識を蓄積していくことを要請したいと思います。
議長
第1回国連軍縮特別総会の最終文書は,「政府のみならず世界の人々も現状における危険を認識し理解することが重要である。国際的良心が広がり,世界の世論が積極的な力を発揮するよう,国連は,加盟国と十分協力して軍縮競争及び軍縮に関する情報を普及させるべきである。」と述べております。
私は,このような趣旨に賛同するものであり,国連の主宰の下における世界軍縮キャンペーンが実りあるものとなるよう我が国としても協力していく所存であります。また,私は,この特別総会の機会に,原爆に関する我が国の貴重な資料が国連に備え付けられ,広く世界の人々の利用に供されて,新たな核軍縮努力への一助となることを希望いたします。また,国連軍縮フェローシップ計画の下で,次代を担う青年に広島,長崎を訪れていただく機会が与えられるよう我が国として協力を行いたいと思います。
議長
私は,軍縮を通じる平和の三原則の第2の柱として,軍縮により創出された人間能力と資源の有効利用の重要性について申し上げます。
第1回国連軍縮特別総会の最終文書は,「軍縮の進展は,開発の実現を大きく助けるであろう。それ故,軍縮により生ずる資源は,すべての国の社会的・経済的開発に向けられ,また,先進国と開発途上国との間の経済格差の是正に資すべきである。」と述べております相互依存が高まり,南北問題をはじめ,資源・エネルギー,食糧,環境などの問題が,全地球的規模の課題としてわれわれにその克服を迫っている今日,この最終文書の命題は,いよいよその緊急性を高めるに至りました。
また,我が国の憲法も,「われらは全世界の国民が,等しく恐怖と欠乏から免かれ,平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」とうたっております。
我々は,世界を一つの共同体として捉え,世界全体として持てる人的・物的資源を,有効,適切,かつ公正に配分し,これを活用していかなければなりません。しかるに,現在世界の軍事支出は世界の総生産の6パーセントにも及び,その拡大は,開発途上国たると先進国たるとを問わず,社会・経済に大きな圧迫を加えているのであります。地球上では,新鋭の兵器が次々と生産される一方で,いまだに飢餓に倒れ,極貧にあえぐ人々が跡を絶ちません。このような実情は,社会不安を醸成し,ともすれば地域紛争の誘因となりかねません。
したがって開発途上国の抱える大きな困難を克服し,その生々たる発展を図り,民生を向上せしめることは,独りこれら諸国の経済的・社会的安定に資するばかりでなく,世界経済に調和のとれた拡大的発展をもたらし,さらには世界の平和と安定に寄与することとなりましょう。
私は,国際社会全体が,このような認識に立って,世界の軍縮を真剣に推し進めることをここに強く訴えるものであります。我が国としては,今後更に開発途上国に対する経済協力を強化していく決意であります。
議長
第3の柱は,国連の平和維持機能を如何にして高めるかという問題であります。
国連は,37年前に,国際の平和及び安全を維持し,人類に繁栄をもたらすという崇高な役割を託された普遍的な国際機構として発足いたしました。私は,長年にわたる努力と経験の積み重ねによって,地域的紛争の再発や拡大を防止するための平和維持活動を通じ,大規模戦争の誘発を抑止してきた国連の役割は高い評価に値するものと思います。しかしながら国連は,その創設当初において期待されていたような安全保障体制を築くことにはいまだ必ずしも成功していません。
激化の一途をたどる軍備競争を抑制し,軍縮の具体的な進展を図るには,国連の平和維持活動を更に拡充,発展させ,そのための機能を強化し,国際粉争に臨機に対応し得るような体制を整えなければなりません。私は,このことが必ずや国際粉争の未然の防止に役立ち,国連の権威の下に,各国間の信頼関係が醸成され,ひいては軍縮促進への道を開くことになると確信しております。
我が国は,従来,国連の平和維持機能を高めるため,国際粉争に関する国連の事実調査機能の強化を提唱し,これに関連し国連事務総長の活用及び拒否権の制限について提案してきました。私は,この際次の三つの点につき速やかに研究を進めるよう要請するものであります。その1は,国際粉争の予防と平和的解決に対し国連が果たし得る役割についてであります。その2は,加盟国による国連平和維持活動への協力体制についてであります。その3は,世界及び各地域の軍事醸成を把握し,その実態を適宜公表するような機構の設立の可能性についてであります。これらの研究を進めるに当たり我が国としても可能な限りの協力をいたしたいと存じます。
また,我が国は,国連の平和維持活動を一層強化,充実するため,今後更に積極的に努力を進めていく所存であります。
議長
以上に申し上げましたように,第1に,国家間の相互信頼を促進することにより実効的な軍縮を実現すること,第2に,軍縮の結果生じた余力を相互援助の精神に立脚し世界経済の発展と平和の促進に振り向けること,第3に,国連の平和維持機能を強化すること,私は,これらの三つの原則が総合的な一体として平和をもたらす力となることを確信しております。
議長
私は今朝,事務総長御臨席の下に,この国連ビルの入口の傍らにある“平和の鐘”を打ち鳴らして参りました。この鐘は,今から31年前に,日本国民から,国連による平和を祈願して,ここに贈られたものであります。また,これに先立って私の立会いの下櫻内外務大臣は,特定通常兵器使用禁止・制限条約の受諾書と環境改変技術の軍事的使用禁止条約の加入書を事務総長に寄託いたしました。これらに加えてこのたび我が国は,生物兵器禁止条約も締結いたしました。今,この特別総会に向けて我が国においては核廃絶を求める声が澎湃として高まっております{澎湃は「ほうはい」とルビ}。日本国民の各界各層より第1回特別総会をはるかに上回る数の人々が,このひたむきな願いを国連に託そうと当地を訪れ,この議場にも多数列席されているのであります。
御承知のように,我が国は,先の第2次大戦で,その国土が灰塵に帰し,数百万の貴重な人命を失いました。加うるに,広島,長崎においては言語に絶する核の惨禍を身をもって体験したのであります。その結果,我々日本人は,2度と戦争を繰り返してはならないことを誓いました。また,人類の上に2度と核の惨禍が繰り返されるようなことがあってはならないと願ったのであります。この悲願は日本国民一人一人の心に深く刻み込まれており,永久に消えることはありません。
我が国は,このような誓いに基づいて,戦後,平和を国是とした憲法を制定しました。この憲法は,「日本国民は,恒久の平和を祈願し,人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって,平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,われらの安全と生存を保持しようと決意した。」と謳っております{謳は「うた」とルビ}。我が国は,この憲法の下,軍事大国にならないことを決意し,核兵器については,持たず,造らず,持ち込ませず,という非核三原則を国是として堅持しております。
私は,戦火の廃墟の中にあって,政治に志を立て,我が国の憲法の理想とする戦争のない平和な社会の実現を目指して国民と共に努力いたしてまいりました。爾来35年平和のために一身を捧げたいと思う私の信念は,今なおいささかも変わるものではありません。私は,この壇上から,世界の人々に対し,日本国民の核廃絶と平和への願いを強く訴えるものであります。
議長
私は,若い頃,海に親しみ,しばしば船上から夜空にまたたく無数の美しい星を眺めては,神秘の感に打たれたものでありました。我々の宇宙には,何千億もの星が存在していると言われます。しかし,我々の知る限りこの星の中で生命の宿っているのは唯ひとつ我々の住むこの地球のみであります。
我々は,祖先から受け継いだこのかけがえのない地球を,愚かな選択によって破滅に追いやることは許されないのであります。繁栄か滅亡かは,かかって我々の双肩にあります。
我々は,理性に従い,粘り強い努力を積み重ねて,この重大な岐路にあたりその選択に誤りなきを期し平和で信頼にあふれた住みよい地球を私達の子孫に引き継いでまいろうではありませんか。
私は,この特別総会において,国際社会が誓いを新たにしてこの務めを果たすための着実な第一歩を踏み出すことを希望するとともに,我が国自らそのためあらゆる努力を傾ける決意であることを表明し,私の演説の結びといたします。
ありがとうございました。