[文書名] 第42回国連総会一般討論における中曽根康弘内閣総理大臣演説
議長,並びに御列席の皆様,
私は,フローリン閣下が,第42回国連総会議長に選出されたことに対して,心からの祝意を表するとともに,国連の運営に豊富な経験と卓越した識見を有される閣下が大いなる統率力をもって,今次総会を必ずや実りあるものとし,これを成功に導かれることと確信 たします{前5字目ママ}。
また,私は,チョードリ閣下が第41回国連総会議長として果たされた業績、とりわけ国連行革の推進に関してとりまとめの労をとられたことに対して,心から感謝申し上げます。
さらに,私はこの機会に,ペレス・デ・クエヤル事務総長が困難な国際的諸問題の解決,とくに,イラン・イラク紛争の打開に向けて辛苦を重ねておられることに対し,深甚な敬意を表します。
まず最初に私は,先週,米ソ両国間に,INF全廃の原則合意が成立したこと,並びに,今年秋のうちに,第3回目のレーガン・ゴルバチョフ会談が開催される運びとなったことに対し,心から歓迎の意を表します。ここに両首脳の政治的決断を高く評価するものであります。
議長,
2年前の国連創設40周年記念会期に際して,私は,この壇上から,人類史上,最も大きな存亡の危機にさらされているこの地球を救い,人類の生存を維持していくには,新しい地球的倫理とそれを裏付ける制度が必要であると強調しました。私は,そのためには我々は地球上の諸文化,諸文明の多元性とその価値を確認し合って相互に評価し尊敬し合う態度を確立すべきであり,国連は,かかる態度に基づく人類文明創造の母体とならなければならないと訴えました。
幸いに,多くの出席者が私の訴えに共感を示されましたが,本日は,この私の理念を追求する現実的な方途と,それに向けての我が国の立場と役割について,所信の一端を披瀝いたしたいと存じます。
議長,
世界はいまや,21世紀を十数年後に展望するにいたりました。振り返ってみると,我々が間もなく別れを告げようとしている20世紀は,人類史上稀に見る劇的な波乱と出来事に富んだ画期的な時代でありました。
人類は,この世紀の前半に,二度にわたる世界大戦と,そして,核兵器の悲劇的な爆発を経験し,以来,我々はその核兵器の保有と増殖の苦悩に日夜さいなまれてまいりました。すなわち,二つの核超大国は,相互に相手国の心臓部を直撃しうるICBMをオーバーキルと言われるほど大量に配備するにいたり,両国は,抑止を通じて安全を求める努力自体が一面において潜在的破局の危険を内蔵するという矛盾を知りつつも,今日まで核の消滅,撤廃に成功しなかったのであります。
また,世界はこの世紀が3分の1に達したとき,保護主義の跳梁を許して,未曾有の経済恐慌を招き,これが第2次大戦への道を地均ししました。その後,世界経済は,大戦による破壊と疲弊から立上り,かつてない成長と繁栄を見せました。しかし,二度にわたる石油危機によって経済は混迷に陥り,我々は未だそれを脱しておりません。我々の直面するグローバルな経済問題,とりわけ南北の格差,貿易の不均衡,国際金融の不安定化等は極めて深刻なものがあります。
他方,この間の科学技術の飛躍的発達は,18世紀後半の産業革命時代の大転換を遥かに凌駕し,歴史的な新時代を形成いたしました。それは,人類の物質文明の向上に偉大な役割を果し,大は宇宙の構造から,小は生命の根源までをきわめつくそうとしております。このような科学技術の発展は,正しく進歩すれば,画期的な情報化時代の進展と共に,偉大な福音を人類社会に与える可能性を秘めている反面,一歩誤って我々が適切なコントロールを失うならば,人類の共存の母体である地球の環境を取り返しがつかないまでに破壊し,あるいは人間の生命の尊厳をおかしかねない危険をも蔵しております。
さらにこの間に,アジア・アフリカをはじめ,地球上の各地では,民族の権利と自由を求めて多数の独立国が続々と誕生し,相次いで国連に加盟しました。世界の独立国は一挙に倍増し,国際政治は新しい活力にあふれ,世界史において偉大な自由と平等と博愛の理想を追求する画期的時代が記録されました。しかし,人類は未だに一部のこれらの国々の飢餓や貧困を解決したわけではなく,地域紛争も絶えておりません。
こうした中で,情報通信,運輸交通手段の発達と相俟って,世界の諸国の相互依存関係は著しく深まり,地球は一体化の様相をいよいよ濃くしつつあります。
議長,
明暗と波乱に富んだ20世紀を閉じて21世紀をまもなく迎えようとするに際し,我々は,世界恐慌や二度の大戦の悲劇から,そしてその後の数々の経験と試練から,何を学び,何を子孫に伝えなければならないのでしょうか。
人類は,細い1本の糸でつるされた核兵器というダモクレスの剣の下に生き続ける外に道はないのでありましょうか。地球が40億年かかって作り上げてきたこの貴重な空気や緑が局地的にそして次第に全域的に失われようとしつつある地球を,そのまま21世紀の子孫たちに渡さざるをえないのでしょうか。科学技術や近代産業から取り残された一部の極貧国家や激増する地球人口を放置したまま,これを次の時代に譲ってよいのでしょうか。
こうした宿命的とも言うべき人類的課題を解決するため,私はここに参集されておられる諸国家諸民族の皆様とともに,特に重点的な共同行動上の基本原理を確認する必要があると思います。
第一は,平和を確保し強化することであります。国家権力は,国家・国民に奉仕すると同時に,それ以上に国境を越えた人類の普遍的諸価値,すなわち人間の生命と人権,地球にとってかけがえのない自然,並びに人類の英知と努力の結果とも言うべき世界文明と各民族が長期にわたって育んできた民族文化の尊重と擁護のために奉仕すべきものであり,いかなる国家の体制もイデオロギーもその下に随順するものでなければなりません。
これはまた,言うまでもなく,国家の権力が不当に国境から外へ拡大し,溢れ出ることを相互的に否定することをも含むものであります。
第二は,国境を越えた人間と情報・文化の交流をさらに飛躍的に大きく保証しなければならないということであります。私は,先般,もし第2次世界大戦前にテレビが衛星中継により国境を越えて自由に世界の至るところで視聴され,世界の人々が地球上のどの地域の住民も同じ血の通った人類の一員であることを身近に感じうるようになっていたならば,第2次大戦は起こらなかったであろうと申したことがあります。私は,第3次世界大戦を防止し,かつて存在したような地球上の残虐行為を根絶し,人類の共存と地球上のさまざまの文化の中で生きる喜びを味わうことができる最良の手段は,この原理であると信じます。
第三は,地球上の格差を是正し,地球環境を保護することであります。そのため,各国は,主権の利己的行使を自制するとともに,国連を中心に国際協調の枠組みの強化をはかり,さらに21世紀に向けて,グローバルな執行能力が高められるよう,新たな方途を見出すべきであります。
H・G・ウェルズは「我々の真の国籍は人類である」と申しました。我々は,今や国境を越えた「地球村」の一員として自己の良心に問い,20世紀人の英知にかけてこれらの課題の克服に挑戦しなければなりません。
私は,2年前に「地球的倫理」を唱え,いままた「地球村」という言葉を使いました。次の世紀では,これらの言葉はおそらく全世界の常用語になるでありましょう。なぜなら,一面において,今後は国家や民族の交流と相互依存が一層かつ決定的に強まることは明らかであるからであり,他面においては,もし文明を悪用すれば人類は一挙に共滅する危険があるからです。いずれにせよ,21世紀人は自らが地球村の住人であることを,身にしみて味わうに違いありません。
「村」の原理は,助け合いであります。一椀の米がないとき,互いにそれを融通し合うというのが,私のふるさとの村の風習でした。地球村を持続させる原理もそれにほかなりません。ジョンとイワンも同じ村人であり,そこには何の区別もないのです。
だからこそ,国連憲章は,その崇高な目的を実現するため必要なことの第一として,「寛容を実行し,且つ善良な隣人として互に平和に生活すべきこと」を掲げているのではないでしょうか。
以上,私は,現下の我々の目指すべき目標と,21世紀の地平線を越えて進むためのやや理想主義的な原則とを強調いたしました。
私は次に冷厳な現実的課題について申し述べたいと思います。
先ず第一は,核兵器の究極的廃絶と平和共存への信頼醸成を進めることであります。米ソ両国が先週,INF全廃協定について原則合意したことは,史上初めての核兵器の削減であり,この分野における大きな一歩を印したものであります。INFのグローバルな全廃を強く望んできた人間の一人として,私は心からこれを歓迎したします。私は,米ソがさらに,戦略核兵器の50%削減,すなわち抑止力の均衡を保ちつつ,その思い切ったレベルダウンを行うという企てを,早期に着実に実現することを期待します。
その成功は,必ずや両国の国民的共感や世界的賛同を呼び起こして,さらに次の核兵器,及び,化学兵器等を含めた通常兵器の軍縮,NPT体制を推進し,ひいては地域問題をも打開して,世界平和への大道を開くにちがいありません。私は,それは21世紀の我々の子孫に対する偉大な福音の贈り物となると信じます。
私は,米ソ両国に対して,核軍縮に向け可及的速やかに実りある成果が示されるよう,あらゆる機会をとらえて訴えてまいりましたが,今後とも側面的にその成功のため協力してまいりたいと考えます。
また,このような困難な問題の交渉過程の最終段階では,細部にわたる点検や条約文の起草等にからまって,さまざまな障害が起る可能性があります。それこそまさに,政治家が,問題の解決を官僚や軍人の手のみに委ねることなく,政治的卓見に基づき人類的責任と展望にたって決断すべき時であります。両国の首脳が真の世界のステーツマンとして人類史に残る政治的決断を行われんことを切望いたします。
またこの機会に私は,特にソ連指導部がアジア外交においても,また対日外交においても建設的な対応を行い,我が国との間の領土問題等,懸案を勇断をもって解決するなど,真の信頼関係の構築に向けて行動するよう強く期待するものであります。
20世紀に引き起こされた難問は,20世紀の我々の責任において解決すべきであり,決して21世紀人の手を煩わせてはなりません。
第二は,世界経済の直面する深刻な事態を打開するため,共同の挑戦を行うことであります。
世界経済の繁栄と成長促進をはかるには,各国間の政策協調の推進,特に保護主義の防圧が不可欠であります。ガットのウルグァイ・ラウンドも保護主義との戦いの一環であります。我々はこれを着実に前進させなければなりません。
南の諸国が直面している諸困難を世界人類の宿命として諦めてはなりません。もとよりそれらの問題の解決には,当該国の指導者や国民の自助努力が要請されますが,近年の南の諸国の債務累積や輸出不振等は,世界の経済・産業構造の変化に起因する面もあり,必ずしも当該国の責任にのみ帰すべきものではないと思います。
我々は,地球のどこで経済破綻が生じた時にも,問題を我が事としてとらえ,その地域の国民のために,ひいては世界経済の安定のために,あらゆる可能な協力の方途を見いだし,それを通じて,速やかに危機を克服しなければなりません。このような協力については,既に国際金融機関と多数国の連携等によるさまざまな活動が見られますが,我々は,更に明確に,そのような有効な協力を行う決意を宣明すべきであります。このようにしてはじめて,世界の諸国民は,お互いが人類の一員であることを認識し合い,国境を越えた連帯感によって結ばれ,南の諸国の自助努力は大きく勇気づけられるのではないでしょうか。
我が国は,かねてから,世界の繁栄の中にこそ我が国の繁栄があるとの認識の下に,世界経済の活性化,開発途上国の支援等に力を尽くすとともに,我が国経済の国際化を推進してまいりましたが,今後とも,国際社会への貢献は我が国の重大な責務であるとの自覚を深め,かかる貢献を一層充実してまいる決意であります。
すでに我が国は昨年以来,約300億ドル及ぶ資金還流計画を推進し,また,サハラ以南アフリカ等に対しては3年間に5億ドルの無償援助を実施しつつあります。私は,これらの更なる具体化について各国と協議が行われることを歓迎するものであります。経済協力の問題については,私は特に,青年や若い経営者の人材の交流,それを通ずる技術の移転を重視したいと思います。また,行政や教育の進歩のためには,21世紀に向かって先ず人材の養成,協力を最も重視すべきものと考え,日本はこれに全面的に協力するものであります。
第三は,地域問題の解決であります。
現在最も緊急を要するのは,8年目を迎えたイラン・イラク紛争に終止符を打ち,この世界文明発祥の地に平和を取り戻し,ペルシャ湾を平和な海に回復することです。先に国連安全保証理事会は,満場一致をもって安保理決議598を採択いたしました。この決議は,内容として,関係国に対し,現下の情勢では最大限の配慮を行ったものとなっており,また,その実施については,両当事国に信頼の厚い国連事務総長に枢要な役割を期待しております。私は,事態の解決方法はこれ以外にはないと考え,両当事国が決議に従い,一日も早く紛争を終息させ,恒久平和を確立することを強く要請するものであります。
我が国は,つとに和平達成へ向けて自らの力を尽くしてまいりましたが,今や安保理のメンバーとしても,和平に向け誠意を傾けて努力しております。また,我が国は,引き続き国連事務総長による精力的な努力を支援していく考えであります。
イラン・イラク間の戦闘が停止されることは,いまや世界の人々の熱い願いであります。私は,両国が,この願いにこたえ,良識をもって行動することを心から切望してやみません。
また私は,一般的な原則の問題として,各国が紛争の当事国に対して武器の供給を厳格に自粛し抑制することが,紛争の終息と平和成立のために重大な要件であることを強調したいと思います。
アフガニスタン問題やカンボディア問題の合理的解決について進展がみられないのは甚だ遺憾であります。両地域における外国軍隊は速やかに完全に撤退すべきであり,我が国は,民主,自主,非同盟,中立の文字どおり独立国家がその地に樹立されることを強く支持するものであります。
また,我が国は,南アフリカ共和国政府によるアパルトヘイト政策が,人種の平等,人権の尊重に著しく反するものであり,早期にかつ完全に撤廃されるべきであると考えます。
朝鮮半島については,南北両当事者が直接交渉によって緊張の緩和と平和的統一への話合いを行うべきものであります。私は,統一に至る一過程として,南北の国連加盟の途を支持します。来年のソウル・オリンピック大会は,東西両陣営の諸国家の全面的参加が久方振りに実現される真の全世界的祭典として,スポーツを通じて東西の親和,とりわけ朝鮮半島における緊張緩和が促進されんことを,心から期待してやみません。
また,人類は,人間同士の対立による紛争や戦争の恐怖からだけではなく,大規模な自然災害の恐怖から未だに解放されておりません。私は,この機会に,国連が災害の発生防止とその救済を迅速かつ効果的に行うための体制を整備・強化することが必要と考えます。
次に私は,今後の21世紀に向かっての希望に溢れた世界のあり方、我々の協力の方向について申し上げたいと思います。
一言でいえば,これからの世界の大きな流れは19世紀に生まれた教条的なイデオロギーの呪縛から人類が解放される方向に向かうものと見られます。それは,核兵器の長年にわたる脅威から速やかに脱出したいという人類共通の悲願がイデオロギーを超えて普遍化しつつあるためであり,また,自由と創造性に基づく経済の基本論理がいかなる政治社会体制下にあってもイデオロギー以上に重要であると確認されつつあるためでありましょう。
このことは,米ソ首脳会談の速やかな開催に対する全世界にわたる強力な支持、及び東西両陣営の経済政策における過大な統制主義や保護主義に対する闘いとなってあらわれております。これらが自由主義諸国におけると社会主義諸国におけるとを問わず着実に実を結びつつあるとの事実が普遍化して行けば,硬直化したイデオロギーはますます衰退して,世界は,対立から和解へ,抗争から協力へと更に進むでありましょう。私はそこに,現実性と実証性を重んずる新しい次元の世界協調秩序の創造への芽が大きく育まれる可能性を見るのであります。
私はここで更に詳しく東西問題打開について所信を申し述べたいと思います。
現在の東西の対立は,残念ながら主権国家からなる現代の国際社会の構造的呪縛から惹起されているところが大であります。顔を合わせて話合ってみれば,どの国の人々も本質的には善良な人類の一員でありますが,にもかかわらず,その人物が,ひとたび国家の枠組みの中に組みこまれると,別人の如く国家の機構に使役され,国家間の対立や抗争の前線に立つようななることが稀ではありません。この意味において,今日の国際社会は,国家の個人の相克・対立を完全には克服していない存在であると言わざるをえないのであります。
しかし,国家の現実政治の責任を背負っているものにとって,この事実から脱却することは決して容易ではありません。破滅的な破壊力を持つ核兵器なども,相互抑止の必要性に迫られてのこととはいえ,相手が持つが故に自分も持たざるをえない業の兵器であります。今や我々は,かかる硬直した状況から脱し,猜疑と恐怖から安心と信頼の世界に戻るべきであります。すなわち,これは人間としての良心の復権とも言うべきでありましょうか。
1986年のレイキャビクにおける米ソ首脳会談の開催とその折の潜在的合意は,第二次大戦終結以来の久しい業の世界からの脱出への天の啓示とも言うべきものであります。米ソ両軍事大国の画期的軍縮への協調は,全世界に融和と協調のそよ風をもたらし,それは,最貧国,開発途上国,累積債務国の支援,あるいは地球環境の保全等にふり向けるべき活力を生み出すことに役立つでありましょう。インドシナ半島の歴史的経緯を見ても,アフガニスタンの現在の状況を見ても,戦争が問題を解決しないばかりでなく,関係国の社会の安定を揺るがすことが証明されております。国際政治のスイッチは,各国政治家の英知において切り替えられるべき時に来ているのではないでしょうか。
東西のブロック体制が成立してから既に半世紀以上経っており,いずれの体制に属する人々も自分たちの体制に対して誇りと自信を持つとともに,時には一抹の不安を抱くこともあったはずです。我々は同じ人類の一員である人間同士がつくっている各々の社会の実体を互いにもっとよく知り合うべきではないでしょうか。宇宙衛星を活用してリアルタイムで情報交換が可能な時代に入った今日,双方とも虚心坦懐に胸のうちを開陳し,現実を相互に如実を見せ合うべきではないでしょうか。
この意味において,レーガン大統領とゴルバチョフ書記長が,第3回目の会談を通じ,互いに責任ある人類の一員として真の信頼関係を築くならば,それは,人類が地球の東西,南北に亘って平和的な話合いと競争的共存の新しい世界への扉を大きく開く端緒となるでありましょう。
また今や世界の諸国の経済運営の中でも,東西の対立を越えた新たな共通の現象が出現しています。それは,自由化や市場原理の強化等の傾向が拡大しつつあることであります。このような共通語が各地で用いられるようになったことは,経済の論理が地球的に普遍化しつつある証左でありましょう。近年,日本の近隣たるアジア・太平洋をはじめ世界の開発途上地域で,目ざましい経済成長を示す新興工業国家が出現しておりますが,これは,これら国家がこれらの経済の論理を生かして,国民の活力を汲み上げるような政策選択を行った結果だと考えます。これに関連して,私はソ連の唱える「ペレストロイカ」や「グラスノスチ」,中国の唱える「開放政策」の推移が,いかなる変化をその内外政策に実証的に示すかを注目してまいりたいと思います。
議長,
人類の唯一のすみかであるこの地球を,平和で,かつ緑に溢れた住み心地のよいものにすることは我々の使命であります。あらゆる国際機関はこの目的のため奉仕することを求められておりますが,とりわけ国連は,平和維持,人種の擁護,及び人類の福祉向上のための機構として活動している唯一のグローバルなフォーラムであります。その存在はきわめて重要であり,その責任はきわめて大きいと言わなければなりません。
国連が,その当初に期待された機能を十分に果たしていないことも残念ながら事実であります。この故をもって,国連を批判することはたやすいことであります。しかし,もし国連が存在しなかったら,今日のような複雑化した国際関係において,いかにして秩序を維持し,共通の福祉を増進していくべきでありましょうか。世界のすべての国の意見を反映させつつ,東西南北の相違を克服する場は、この国連の外に,いったいどこに求めればよいのでしょうか。
我々は,国連が困難に遭遇するときこそ,「もしこの国連なかりせば」ということを想起して,常に国連を守り,強化し,充実していかなければなりません。
今や,国連を真に国連たらしめなければなりません。何よりも平和維持の機能を強化することが必要であり,我が国としても,国連の平和維持活動に対し,財政的支援を主とする積極的な努力を行ってまいりました。我が国は,今後とも,国連の平和維持活動強化のために更にいかなる貢献をなしうるか,更に検討してまいる所存であります。
このように我が国は,国連加盟以来,国連中心主義をその外交の基本方針の一つとし,国連の強化と充実のため誠実に努力してきましたが,国連が創立された当時の状況と今日のそれとの間には,国連とそれをめぐる国際環境にも大きな変化が生じております。更に国連自体も,加盟国の数は当初の想像以上に遥かに大きく増え,全くさまざまな個性と特色に色どられた機関となっているばかりでなく,新しい文明時代を迎えて,これまで想像しなかったような課題も提起されつつあります。国連はこれらの変化に迅速に適応できるように常に改革されなければなりません。また,私は,特に経済をはじめてする専門分野において,問題を不当に政治化する傾向を是正すべきであると考えます。
私は,このような国連が将来どうあるべきかという未来的展望の中で,これらの問題につき加盟国の皆様と一緒に考えていきたいと思います。
議長,
20世紀が人類史上はじめての世界大戦を二度経験し,核爆弾爆発の悲劇をはじめて経験した戦争の洪水の世紀であるとすれば,新たな世紀は,正に平和の太陽の輝く世紀でなければなりません。しかし,これまで戦争と戦争の谷間とされてきた平和を維持・運営し,これを永遠のものとすることは極めて複雑で,かつてなく難しい課題であります。この歴史的挑戦に堪えうることこそが今日の政治家の資格でありましょう。そして,国連こそ,そうした政治家が集い,恒久的な平和という同一目的に向けて,ねばり強く,かつ寛容に多元的な価値や文化を創造し擁護し,人間の尊厳を重んじて協力し合う平和の殿堂にほかなりません。私は,国連における政治家の一員として担っているこの重大な責任を,皆様とともに,果たすことを誓うものであります。
今回の国連総会は,核兵器縮滅・廃止のための米ソ首脳会談開催を控え,人類の期待に溢れた国連総会であります。国連はじまって以来最も有意義な,平和と共生のための国連総会であります。我々の子孫達に,また21世紀の地球に,祝福あれと祈りをこめた国連総会たらしめようではありませんか。
The American poet, Henry Wadsworth Longfellow, taught us in his poem, "A Psalm of of Life," to act so that each tomorrow finds us farther thantoday. I should like to conclude my remarks with the closing stanza of
that poem:
Let us, then, be up and doing,
With a heart for any fate;
Still achieving, still pursuing,
Learn to labor and to wait.
(米国の詩人,ロングフェローは,「明日になるごとに,我々は今日より前進していなければならない」というテーマで「人生の賛歌」をうたいました。私は,その詩の最後の節を,この演説の結びといたしたいと存じます。
「されば,いかなる運命にも立ち向う心をもって,
立ち上がり,実行しようではないか。
さらに成し遂げ,さらに追い求めつつ,
努力すること,そして待つことを学ぼうではないか。」)
Thank you.