[文書名] 年頭の挨拶(竹下内閣総理大臣)
明けましておめでとうございます。
昭和六十三年の初春に当たり、皆様のご健勝とご多幸を心からお折り申し上げます。
私は、内閣総理大臣に就任して初めての新年を迎え、改めて責任の重大さを痛感いたしております。
申すまでもなく、現今の内外情勢は、極めて厳しいものがあります。しかし、いかなる困難に直面しようとも、国民の皆様と力を合わせ、心を一つにして、今年も全力を尽くして国政の遂行に当たる決意です。
戦後も、既に四十三年を数え、二十一世紀が目前に迫っております。今日の日本は国民の英知とたゆまぬ努力によって、豊かな国になりました。その間、思いもかけないドル・ショックや石油ショックなど国際情勢の激しい変化にも機敏に対応して、よく耐えてまいりました。
その結果、いまや数字の上で見る限りにおいては、世界で最も豊かな国の一つになったわけであります。しかし、ややもすると物の豊かさのみを追い求めてきたのではないか、ということを謙虚に見直すべき時期にきたことも確かであります。
私は、かねてから「ふるさと創生」を唱えてまいりましたが、これは物の豊かさと同時に、心の豊かさを重視することによって、日本人が自らしっかりとした生活と活動の本拠を築き、世界の期待にこたえていくことを目指すものであります。すべての人々が、それぞれの地域において、自主的に、しかも誇りをもって活動し、経済的にも文化的にも真の豊かさをもつ社会をつくるため、経済発展の成果を更に国民生活の充実にいかし、「ふるさと」のぬくもりを大切にした国づくりに取り組みたいと願っております。
また、これからの日本は、世界への貢献を基本姿勢として、その豊かさと活力を国際社会のためにいかすことが必要です。それは、今日発生している各種の摩擦を解消するためにも避けて通れない道であり、特に我が国の生存と発展のためには、私たちが懸命に汗を流して果たさなければならない責務であると信じます。
そのためのコストは進んで負担し、共に痛みを感じることも必要になるでしょう。まさに内政と外政は一体であり、私自身も自らの責任を誠実に実行していく所存であります。
昨年末、私はフィリピンの首都マニラで開催されたアセアン(東南アジア諸国連合)の首脳会議に出席し、アジア・太平洋地域の将来について、我が国の方針を明らかにするとともに、各国首脳と率直な意見交換を行いました。
さらに、新年早々にも米国とカナダを訪問して、レーガン大統領はじめ両国の指導者と会談し、米ソ両国の核軍縮合意を踏まえて世界の平和と今後の進路、その他多くの課題について協議したいと考えております。
当面の課題である土地対策、税制改革、内需拡大、市場開放など山積する諸懸案に対しても、積極的に取り組み、早急に解決していく方針です。
いま政治に求められているのは、「大胆な発想と実行」であります。しかも、政策の実行に当たっては、人々の求めるものがどこにあるのか、その本音を感じとって、時代の変化に応じつつ、きめ細やかな配慮をしていくことも必要であります。私は、このような考え方に立って、常に国民的合意を求めながら、ロマンと活力に満ちた政治を進めてまいります。しかし、政府の責任者として自ら判断すべきときは、世界と日本のため責任をもって決断し、誠実に実行していく決意であります。
国民の皆様の一層のご理解とご協力をお願い申し上げ、年頭のご挨拶といたします。