データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 組閣に際しての宇野内閣総理大臣談話

[場所] 
[年月日] 1989年6月3日
[出典] 宇野内閣総理大臣演説集,16−18頁.
[備考] 
[全文]

 リクルート問題に端を発する国民の政治不信はきわめて深刻であり、議会制民主主義は重大な危機を迎えております。このような難局に、私は、内閣総理大臣として国会の指名を受けました。一身をかえりみることなく、私は、自らに与えられた責任を果たす決意であります。

 政府の最高責任者として、私がまず第一になすべきことは、きびしい反省の上に立って政治に対する国民の信頼を回復することであると確信いたします。そのためには、リクルート問題に対してきちんとしたけじめをつけることはもとより、これを教訓として、二度とこのような不祥事が発生することのないよう、政治倫理の確立を図るとともに、政治資金における公私の区分の明確化と透明性の確保、金のかからない政治活動や、政策を中心とする選挙の実現など、政治のあり方そのものを抜本的に改革することが不可欠であると信じます。しかしながら、政治改革は、与野党各位や国民の皆様のご理解なくして実現をみることは不可能であります。私は、政治改革をこの内閣の最重要課題として、皆様のご協力を得て、不退転の決意をもってこれに取り組んでまいります。

 なお、さきの政治改革に関する有識者会議のご提言に沿い、政治改革の第一歩として、閣僚及び政務次官について、就・辞任時の資金の公開、株式等の取引の自粛、保有株式等の信託を行うことといたした次第であります。

 前内閣は、政治不信を招いたことに対する一つのけじめとして退陣されたわけでありますが、きびしい選択を行いつつ、国の内外において数々の実績を積み上げてこられました。私は、政治改革をはじめ、前内閣が進めてこられた税制改革、行財政改革、土地対策等の諸施策を引き続き推進するとともに、二十一世紀を展望しつつ、国民が長い生涯を通じ、生きがいを感じながら過ごすことができるような社会の実現を目指してまいります。

 また、最近における国際的な政治・経済の動きを踏まえ、わが国は主要先進諸国の一員として、「世界に貢献する日本」という基本認識に立って、国際社会の中でわが国の役割と責任を十分果たしてまいる所存であります。近く開催されるアルシュ・サミットにも、このような立場から積極的に参画し、サミットをより実りのあるものにしたいと考えております。

 歴史をひもとくとき、私どもの先達が、国民の英知を結集し、幾多の困難を克服してきた幾つかの事実を知ることができます。私は、今日の事態は重大な危機ではありますが、他面、わが国が健全な議会制民主政治を確立するための最大のチャンスであると認識いたしております。このチャンスを生かすことができるかどうかは、一に私どもの決意と実行にかかっていることは疑いなく、その意味でも、私どもは、まさに断崖に立つ思いでこの難局に対処していかなければなりません。私は、このたび内閣総理大臣の重責を担うにあたり、何よりもまずこのことを考え、身の引き締まる思いであります。

 私は、「清潔な政治」、「信頼される政治」の実現に邁進いたします。清新にして有為な人材を政府与党の要衝に配し、一致結束、真に豊かな社会の建設に向かって全力を傾注してまいる決意であります。

 私は、この内閣を、政治・行政・財政の全てを改革する「改革前進内閣」と命名したいと思います。その心は、「政府はスリムに、国民は豊かに」ということであります。

 国民の皆様の一層のご理解とご支援をお願いいたします。