[文書名] 総辞職に当たって(海部内閣総理大臣)
海部内閣は、本日をもって総辞職いたしました。
顧みますと平成元年八月、結党以来の危機といわれる中、参議院選挙に敗北し、政治不信が渦巻く状況の下で、国民の皆さまの信頼を取り戻すことを最大の課題として発足しました。爾来、今日まで皆さまの暖かいご理解とご支援に支えられて私なりに一生懸命職責に取り組んでまいりました。また、皆さまのご協力をいただき、二年二月の総選挙に勝利できたこと、十一月には世界百五十八か国及び国際機関から元首等の参列を得て、天皇陛下御即位の礼をつつがなく挙行できましたことを、ここに改めて皆さまに感謝申し上げます。
この間世界は大きく変革し、東西冷戦構造の崩壊、中東湾岸危機、ソ連のクーデター事件、朝鮮半島の情勢変化等めまぐるしい動きをみせました。また、日本の経済的な地位の向上を背景に、我が国の市場の開放性に関する世界の目が一層厳しさを増しました。こうした情勢の中で、私は、六回にわたる日米首脳会談をはじめ、十三時間を超す領土問題を含む日ソ首脳会談、更に三十か国を訪問し、世界の指導者と親しく会談を重ねるとともに、中東湾岸危機に関しては百三十億ドルに及ぶ支援、掃海艇の派遣等を行ったほか、先の臨時国会に国連平和維持活動等に対する協力法案を提出し、国会でご審議いただくなど、常に国際社会の中でどのような役割を果たすべきかを真剣に追求し、実行に移してまいりました。
また、国内においては、公正で心豊かな社会をめざして、土地基本法の制定、消費税見直し法の成立、地価の高騰の抑制、内外価格差の是正、証券金融市場の適正化に努めるほか、地域の特性に応じた活力ある地域づくりの推進、将来を見据えた教育・福祉の振興にも意を用いてまいりました。
お陰さまで、これらの点では、成果を挙げることができました。
しかしながら、不退転の決意で取り組んできた政治改革については、自民党内の激しい議論を経て、国会に法案を提出し、異例の三日間にわたる衆議院本会議での趣旨説明に対する質疑、政治改革に関する特別委員会における与党議員多数を含む質疑などを通じ、理解の浸透を期待し、誠心誠意その成立に努力してまいりましたが、廃案となりました。
私は、この結果を謙虚に受けとめ、責任を明らかにすることも政治改革の一つであると考え、自由民主党総裁任期の満了とともに総理の職を辞することといたしました。新内閣が政治改革の炎を燃やし続け、強い指導力を発揮して、時代の要請する政治改革を成し遂げられることを切に望みます。
二年三か月の間、常に変わらぬ励ましとご支持を寄せていただいた国民の皆さまに重ねて心からお礼申し上げます。
本当にありがとうございました。