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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律及び国際緊急援助隊の派遣に関する法律の一部を改正する法律成立に際しての宮澤内閣総理大臣の談話

[場所] 
[年月日] 1992年6月15日
[出典] 宮澤内閣総理大臣演説集,52−54頁.
[備考] 
[全文]

 一、国際運合平和維持活動等に対する協力に関する法律及び国際緊急援助隊の派遣に関する法律の一部を改正する法律が、本日成立いたしました。

 この機会に、法律の成立にご尽力いただいた各位に心から御礼を申し上げるとともに、この二つの法律が目指している、世界の平和の維持と人道的な面における我が国の人的な国際的協力について、所見を申し述べたいと思います。

 二、はじめに、国連の平和維持活動とその基本的性格について改めてご説明し、各位のご理解を得たいと思います。

 国連の平和維持活動は、紛争当事者の間に停戦の合意が成立し、紛争当事者がこれに同意していることを前提に、中立・非強制の立場で国連の権威と説得により停戦の確保や選挙監視等の任務を遂行するものでありまして、強制的な手段によって平和を回復する機能を持つものではないのであります。したがって、平和維持活動の重要な一部をなす国連平和維持隊は、いわゆる「軍隊」とは全く異なるものでありまして、「戦わない部隊」とか、「敵のいない部隊」と呼ばれるゆえんも、ここにあるのであります。一九八八年に、国連平和維持隊や停戦監視団を含む国連の平和維持活動がノーベル平和賞を受賞したのは、まさに、このためであります。

 三、我が国が国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律に基づいてこれに参加する場合には、その活動は、右に述べました国連の平和維持活動の基本的性格を前提として行われるのでありまして、紛争当事者の合意、同意あるいは中立の原則が崩れた際には、我が国から参加した部隊は、業務を中断し、又は派遣を終了することとしているのであります。また、武器の使用は、我が国要員の生命又は身体の防衛のために必要な最小限のものに限ることとしております。したがって、このような前提を設けて国連の平和維持活動に我が国が参加することは、憲法第九条で禁止された「武力の行使」あるいは「海外派兵」に当たるというような懸念は、いささかもないことはもとより、専守防衛等の我が国の基本的防衛政策を変更するものでもありません。

 四、この二つの法律については、昨年九月十九日に国会に政府原案を提出以来、衆参両議院において長時間にわたる活発な審議が行われました。

 この審議の過程で、国連平和維持活動等に対する協力に関する法律については、国会において、政府原案の基本的な考え方と枠組みは維持しつつ、この法律に対する一層広範な理解と支持を得ていくとの趣旨で、修正が行われたところであります。具体的には、自衛隊の部隊によるいわゆる国連平和維持隊本体への参加については、別途法律で定める日までは、実施しないこと、また、将来、実施する場合には、国会承認の対象とすること等が修正の内容であります。したがって、当面は停戦監視団への個人単位の参加やいわゆる医療、輸送等の後方支援部門等への参加が可能となります。

 五、国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律に基づき、政府としては、広く国連の平和維持活動等に協力していきたいと考えております。

 カンボディアの永続的和平の達成はアジア地域全体の平和と安定のために極めて重要でありますので、当面は、まず、カンボディアにおける国連の平和維持活動に対する人的協力の早期実現に努力していく所存であります。

 六、我が国としては、今後世界の平和と安定のために一層の責務を果たしていくに当たり、過去の教訓を踏まえ、平和憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないとの基本方針を引き続き堅持していくことを、改めて確認しておきたいと思います。

 七、この二つの法律により、我が国としては、文民を含む幅広い人的な側面で、国際協力のために積極的な役割を果たすことが可能となります。これらの法律に基づき、自衛隊が、国連の平和維持活動や大規模災害に対する国際緊急援助活動等に従事することは、国際協調の下に恒久の平和を希求する我が国平和憲法の理念に合致したものであります。

 政府としては、これらの法律の適切な運用に努め、世界平和の維持と増進のため我が国としてなし得る最大限の人的な貢献を、積極的に果たしていく所存でありますが、各位の一層のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。