[文書名] 日本記者クラブにおける講演,国政の諸課題について(宮澤内閣総理大臣)
一、ミュンヘン・サミットの成果
(1) 先進各国とも経済問題では悩みは大きい。
我が国からは、内需拡大に向けての我が国の政策努力や、「生活大国五か年計画」等について説明し、理解と評価を得た。
(2) ロシアについては、法と正義に基づくロシアの外交が北方領土問題の解決を含む日露関係の完全な正常化の基礎となることが、政治宣言に初めて盛りこまれ、サミット国首脳全員の共通認識として、エリツィン大統領に直接伝えられた。
このことによって、北方領土問題についての我が国の主張が一段と国際的な説得力をもつことになったわけで、重要な成果と考える。
また、エリツィン大統領にとっても、これがロシア国民に対する一つの説明材料となることが期待される。
(3) また我が国は、アジアからの唯一の参加国として、アジア・太平洋地域の平和と安全が、世界の平和と安全にとって重要であることを訴え、政治宣言等にも反映させることができた。
一、積極的な国際貢献
(1) 今回のサミットは、ソ連が崩壊し、冷戦が終わって初めてのサミット。世界は、大きな流れとしては平和の方向に向かっているが、その反面で民族間の衝突や宗教上の紛争が発生していることも事実。このような時に、国連の役割に対する期待は大きくなっている。
(2) 我が国は、世界有数の経済大国として、また、戦後一貫して平和主義、国連中心主義を堅持してきた国として、今こそこのような国連の役割に対して積極的に貢献していく必要がある。
(3) 先国会で成立をみた国際平和協力法は、そのような努力の成果。
我が国の憲法で認められている範囲内で人的な国際貢献をしようというもの。
(4) カンボジアの情勢をみると、ようやく和平が成立したものの、三十万人を超える難民がいて、これを故郷に帰して生業につかせなければならない。そのためには、道路や橋も整備しなければならない。農地もなんとかしなければならない。
戦争が終わった後のこういう国づくりを手伝って国際貢献の実をあげたいと考えている。
一、景気の早期回復
(1) 景気の問題もG7共通の課題。我が国は失業問題がないだけいい。我が国の景気については、総理就任以来心配していたことで、景気に配慮した予算を編成し、また、公共事業を前倒して実施する等既に対策を講じているところ。
(2) これからも景気対策の効果等もみながら、生活大国五か年計画に示された諸目標を念頭に置きつつ、必要ならば、相当の追加的財政措置を含む、あらゆる方策をとる決意である。
(注)自民党「緊急総合経済政策の基本方針」
生活関連社会資本の整備を中心とする公共投資の一層の拡大、中小企業対策、科学技術基盤の充実、民間設備投資活性化策、輸入促進策等
一、生活大国の実現
(1) こうして景気の早期回復を図りながら、政府は生活大国づくりを目指す。
我が国は、国民の努力により、経済大国といわれるまでになった。しかし、労働時間は長くて家族とゆっくり団樂する暇もない。住宅は相変わらず貧弱、大都市と地方の間にはいるいる格差があるという具合に生活実感は必ずしも豊かになっていない{原文字下げ欠如}。
(2) 生活大国といっても、豪奢な生活を言っているのではなく、公園や下水道など、必要なものはきちんとするが、ライフスタイルには簡素で美しいものでありたい。
大切なことは国民一人一人が、働きがい、生きがいをもってそれぞれの価値観を実現できるようにすること{原文字下げ欠如}。
(3) 先般、経済審議会を経て「生活大国五か年計画」を策定したが、ここでは、生活者の立場に立って具体的な目標を掲げている。
・労働時間 二千八時間→千八百時間
・通勤ラッシュ 二〇〇パーセント(文庫本)→一八〇パーセント(新聞)
・住宅確保 平均年収七〜八倍→五倍
・歩いて行ける公園 四八パーセント→五九パーセント
・下水道 四五パーセント→七〇パーセント
一、政治改革の断行
(1) 政治改革については、先般自民党において、緊急改革案を策定し、与野党協議の場でもかなりのところまで煮つまっていたのだが、国際平和協力法案審議をめぐる混乱で成立に至らず残念。
(2) 私としては、政治改革は新しい時代にふさわしい政治を実現するために是非とも必要と考えている。
先ず、緊急改革を実現し、この十一月までには抜本改革についても考え方をまとめてもらいたいと考えている{原文字下げ欠如}。
一、参議院選挙
(1) 今回の参議院選挙は、冷戦の時代が終わって、世界平和秩序をどう構築していくか、我が国はそれにどのように貢献していくか、経済構造を建て直して、どのようにして真に豊かな経済社会をつくっていくかを問われる重要な選挙。
(2) 私は全力を傾けて、国民の理解と支持を得るよう努力する。