データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 村山内閣総理大臣による平成七年年頭のあいさつ

[場所] 
[年月日] 1995年1月1日
[出典] 村山内閣総理大臣演説集,326−328頁.
[備考] 
[全文]

 平成七年の年頭に当たり、謹んでごあいさつ申し上げます。

 内閣総理大臣に就任して、約六か月が経過し、初めての新年を迎えるに当たり、私は、「人にやさしい政治」、「安心できる政治」を目指して、国民の皆様の信頼と期待に応えられるよう最大限の努力を傾けてまいる決意を新たにしております。

 国際社会では、平和と安定のための新たな秩序が模索されています。例えば、ガット・ウルグアイラワンド合意の結果、WT0(世界貿易機関)による新たな自由貿易維持推進のための世界的取組がまさに始まろうとしており、また、アジア太平洋地域の著しい経済発展と地域協力の推進、中東和平プロセスの画期的な進展、欧州統合の強化など、世界的な変革が急速に進展しつつあります。

 一方、国内においては、昨年の臨時国会での衆議院選挙区に関する区割り法の成立により、政治改革のための一連の制度改革が実施されることとなったほか、高齢化の進展に対応するための年金改革関連法の成立、税負担の公平確保のための税制改革関連法の成立など、二十一世紀を見据えた諸改革が実現いたしました。

 しかしながら、世界から信頼され、国民が安心して暮らせる社会の実現のため、今後とも引き続き真剣に取り組んでいかねばならない課題が山積しております。

 まず、経済社会の諸改革を進めていくためには、何よりも、政府自らが身を削って努力することが必要であります。私は、内閣発足以来、政治改革・経済構造改革と並ぶ最重要課題として行政改革を位置付け、全力で取り組んでまいりました。縦割り行政の弊害を是正し、行政を簡素化・合理化し、透明な政府を実現するため、行政組織、公務員制度、特殊法人などの見直しを進めるとともに、情報公開に関する制度の検討を推進していく必要があります。また、中央と地方の関係や官と民との関係を見直し、地方分権を推進し、更には規制緩和を断行することが不可欠であります。このため、今後五年間の規制緩和推進計画を策定し、実施してまいります。

 我が国の経済をみると、企業投資などの調整が続いているものの、緩やかながら回復基調をたどっております。政府としては、景気をできる限り早く本格軌道に乗せ、七年度以降の安定成長を確実なものとするため、引き続き、設備投資、雇用、中小企業、為替相場などの動向を含め内外の経済動向を注視し、適切かつ機動的な経済運営に努めてまいります。

 こうした中で、新しい時代に対応した創造力と活力にあふれた経済社会を構築するための経済構造改革が必要であり、消費者の選択の幅の拡大、新規市場の創造、内外価格差の是正などの観点から、既存の各種規制の見直しを行うとともに、昨年十月に決定した新たな公共投資基本計画に基づく社会資本整備の質及び量の両面にわたる見直しと拡充を図ることにより、内需主導型の経済社会を目指します。

 迫りくる本格的な少子・高齢社会に備えるため、新たなゴールドプラン及びエンゼルプランの策定作業を進め、福祉施策の充実を図ります。

 今年は戦後五十周年に当たります。我が国は先の大戦の反省を踏まえ、世界の平和と繁栄に向け、従来以上に幅広い分野で、より積極的な役割を果たしていかなければなりません。

 まず、世界の平和と安定の確保のため、我が国としては、憲法の禁ずる武力の行使は行わないことを明らかにする一方で、国際平和維持活動や軍縮、経済、社会分野等の問題について積極的な貢献を行うとともに、国連の改革と機能強化に積極的に取り組んでまいります。また、安保理常任理事国入りの問題についても、引き続き多くの国々の賛同と国民の一層の理解を得られるよう積極的に努めてまいります。

 我が国が世界の平和と繁栄に貢献していくためには、日米安保体制を堅持するなど日米両国の緊密な協力が不可欠であることに変わりはなく、今後とも良好かつ建設的な日米関係を維持・構築していくことを日本外交の基軸として最善を尽くしてまいりたいと思います。

 さらに、アジア・太平洋地域の一員としての我が国の役割を重視し、この地域の平和と繁栄のために可能な限りの貢献を行ってまいりたいと存じます。特に、今年の秋に大阪で開催されるAPEC会議においては、議長国として、この地域の貿易・投資の拡大と経済協力の更なる推進のため、加盟諸国との協力関係を積極的に進めてまいります。また、統合を進め国際社会における役割をますます高めつつある欧州諸国などとも一層緊密な協力関係を築いてまいりたいと存じます。

 我が国は世界第二位の経済大国でありながら、生活者の視点からは真の豊かさを実感できない状況にあります。加えて、人口構成上もっとも活力のある時代からもっとも困難な時代に急速に移行しつつあります。こうした情勢の中で、二十一世紀に向け、お年寄りや社会的に弱い立場にある人々を含め、国民一人一人がゆとりと豊かさを実感し、安心して過ごせる社会を建設するため、生活者の立場に立った「人にやさしい政治」の実現に努めてまいります。

 皆様の御理解と御協力を心からお願い申し上げ、私の年頭のごあいさつといたします。