データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 「故福田赳夫」内閣・自由民主党合同葬儀における村山内閣総理大臣の追悼の辞

[場所] 
[年月日] 1995年9月6日
[出典] 村山内閣総理大臣演説集,481−483頁.
[備考] 
[全文]

 本日ここに、正二位大勲位、元内閣総理大臣、元自由民主党総裁、故福田赳夫先生の内閣・自由民主党の合同葬が行われるに当たり、謹んで追悼の辞を捧げます。

 福田先生。まことに長きにわたり、日本のため、世界のためにお尽くしいただき、お疲れさまでございました。

 先生は、明治三十八年に群馬県にお生まれになられ、ご幼少の頃から俊英の誉れ高く、長じて大蔵省に勤務されるや直ちに頭角を現わされ、四十二才の若さにして主計局長に任ぜられるなど、戦前、戦中、戦後の激動期に我が国官界の中枢でご活躍になられました。

 その後、先生は、昭和二十七年に政界に転じられ、農林大臣、大蔵大臣、外務大臣、行政管理庁長官、副総理兼経済企画庁長官を経て、昭和五十一年十二月から約二年間、内閣総理大臣の重責を担われました。

 この間、先生は、総理として、高度成長の繁栄に国民が酔っていた、いわゆる「昭和元禄」の風潮を厳しく戒め、「資源有限時代」の到来をいち早く予見され、時代に警鐘を鳴らされました。先生は、高度成長期から安定成長期の政策運営へと大きく我が国の政策の舵を切られるとともに、「協調と連帯」という政治理念を掲げられ、対話路線を基調として数々の難題に取り組んでこられたのであります。

 特に、急激な円高の進行と石油危機の影響の中で不況とインフレの二重苦に悩む日本経済の建て直しに卓抜した経済・財政手腕を発揮され、その機動的かつ弾力的な経済運営は、日本経済を安定成長へと移行させる原動力となりました。

 また、先生が、いわゆるダッ力事件に際して、人命救助を第一とした決断を行われたほか、ハイジャック等非人道的暴力行為の防止のための立法措置や国際協力体制の確立などに強力な指導力を発揮されたことも今なお記憶に新しいところであります。

 更に、対外的には、外交理念として「全方位平和外交」を提唱され、「世界の中の日本」という考えを押し進められるとともに、アジア地域の安定と繁栄に貢献するため、同じアジア人として「心と心のふれあい」を大切にした「福田ドクトリン」を表明され、さらに日中平和友好条約の締結と批准という長年の懸案の解決を成し遂げられました。また、総理として臨まれたサミットにおいては、「歴史の生き証人」として大恐慌から第二次世界大戦に至る歴史を自らの経験にたって紹介され、堂々たる自由貿易論を展開されるとともに、先進各国は、同じ船に乗り合わせた、いわば、「同舟の客」として連帯すべきとの主張を展開されたことも、先生の先見性、国際性をまさに象徴するものでありました。

 総理を辞されて後も、先生は、政治家としての歩みをいささかも緩められることはありませんでした。いやむしろ、老いてますます、先生は、政界人としてのその視野やスケールを一層雄大なものとされていかれました。特に、先生が政治の道にお入りになって以来終始貫き通された政治に対する姿勢、すなわち、「政治は最高の道徳」とのお考えに立っての政治刷新へのご努力、「昭和の黄門」としての全国行脚など、政治の浄化や社会の改革に向けての衰えを知らぬ熱情は、私ども、先生の後を追って政治の道を歩むものにとっては、厳しい叱咤激励であるとともに、常に大きな心の支えでもございました。また、晩年の先生は、世界各国のリーダーとともに、世界の平和や環境、人口といった地球的規模の問題に積極的な関心を寄せられ、昭和五十八年には世界に呼びかけていわゆるOBサミットを提唱され、二十一世紀を展望した数々の貴重な政策指針を示されたのであります。

 私自身、総理に就任早々に先生にお会いし、貴重なご指導をいただいて以来、折に触れご助言をいただきましたが、先生の政治家としての気骨、内外にわたるご卓見、飾ることのない暖かいお人柄に深い感銘を覚えたものであります。つい先日も先生の出版記念会やOBサミット開会式にてお元気な姿を拝見し、今後もまだまだご指導を賜りたいと考えていただけに、偉大な指導者の早すぎるご逝去は、まことに借しみてなお余りあります。

 福田赳夫先生の生涯のご活躍を語るとき、陰ながら常に先生を支えてこられた奥様をはじめとするご家族の方々のご尽力を忘れるわけにはまいりません。私は、長年にわたる三枝夫人のご内助の功やご家族の献身的なご努力にあらためて敬意を表するとともに、かけがえのない方を失われた深いお悲しみに対し、衷心よりお悔やみを申し上げる次第であります。

 福田先生。先生がその生涯を通じて追求された、政治に対する姿勢や政策の理念は、今日の我が国の政治や外交の基軸として、脈々と生き続けています。

 福田先生。我々は、先生の残された政治家としての姿勢を忘るることなく、内外に山積する難題に不屈の精神で取り組み、我々の子孫に平和で豊かな新世紀を引き継げるよう、国政に全力を傾けることをお誓い申し上げて、お別れの言葉といたします。

 どうか安らかにお眠りください。