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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第七回APEC閣僚会議記念シンポジウムにおける村山内閣総理大臣の基調演説

[場所] 
[年月日] 1995年11月18日
[出典] 村山演説集,209−211頁.
[備考] 
[全文]

 このたび当地大阪におけるAPEC非公式首脳会議及び第七回閣僚会議の機会に、アジア太平洋地域での協力の発展に先駆的役割を果たしてこられたPECCとPBECの主催によってこのように盛大なシンポジウムが開かれますことは誠に時宜を得たものであります。心よりお歓び申し上げます。大阪は古くから我が国の商工業の中心地として、伝統的にアジア太平洋とのつながりの深い地域であります。お集まりのアジア太平洋を代表する各界の方々に、この地域の協力の展望につき所信の一端を表明できますことは、私のこの上ない喜びであります。

 また御承知のとおり、阪神・淡路地域は本年初め大震災に見舞われましたが、今日復興に向けて懸命の作業が進んでおります。この機会に改めて、震災の際諸外国から寄せられた多くの暖かい御支援に対し、心からお礼を申し上げたいと思います。

 かつて「争いの海」として激しい戦いが繰り広げられたアジア太平洋地域は、今や急速な発展を遂げる「実りの海」に変貌しました。この地域は発展段階や文化・政治体制などの面で幅広い多様性を抱えておりますが、経済面では貿易・投資の急速な増加と相互依存の深まりの中で、コミュニティの意識が育まれつつあります。また政治面で依然不安定な要素は抱えながらも、力ンボディア紛争の解決やヴィエトナムのASEAN加盟など全体として安定の度合いを深めていると思います。私は今日、この地域に見られるこのような発展の積極的な流れを将来にわたって確実なものとするために、広範な国際的努力が益々重要になってきていると思います。

 私は、明日、APEC首脳会議を主催いたします。一昨年シアトルで初めて開かれたAPEC首脳会議では、首脳たちはこの地域で地域社会−コミュニティ−を形成するという考え方を表明しました。次いで昨年インドネシアのボゴールで開かれた首脳会議では、二〇一〇年/二〇二〇年に向けた、域内の貿易と投資の自由化及び経済協力の推進を実現しようという決意を表明しました。本年の大阪会合は、この決意を行動に移すための重要な機会となりましょう。

 我々首脳は、このような観点から、明日の首脳会議において「行動指針」を議論いたします。この中で貿易・投資の自由化・円滑化については、多角的自由貿易体制を補完・強化しながら、自主的市場開放や規制緩和の流れをAPEC独自のルールと規律をもって推進していくことを目指すものとなりましょう。また、この地域の多様な発展段階などを踏まえ、格差を解消し、成長の隘路の削減に取り組むための経済・技術協力も積極的に進められなくてはなりません。貿易・投資の自由化、円滑化及び経済・技術協力の三本柱があいまって進められることで、はじめてAPECの活動は最も効果を発揮するはずです。

 また、我々首脳は、この機会にウルグァイ・ラウンド合意実施の前倒しや規制緩和等の分野で「当初の措置」をそれぞれ持ち寄りますが、これはAPECの自由化努力に対する我々首脳の意欲と決意を内外に示すという意義があります。

 明日の首脳会議では、アジア太平洋の将来を展望し、この地域の持続的な成長を引き続き確保するための課題と挑戦について、幅広い、率直な意見交換を行いますが、私は、これからの二十一世紀を展望した場合、APECが、人口、食糧、エネルギー、環境など地球的規模の重要課題に取り組んでいかなければならないと考えております。明日の首脳会議がAPECの一層の発展のための求心力を形成する上で、建設的な話し合いの場となるものと確信しております。

 言うまでもなく、APECの真の発展は、政府のみで実現できるわけではありません。そもそもアジア太平洋にまたがる協力は、過去の様々な識者が描いた構想と願望から生まれたのです。また、アジア太平洋地域の経済発展の原動力は、ビジネスの活力にあります。従って、PECC、PBECの役割も今後ますます重要なものとなっていくでしょう。この一年間の「行動指針」の作成の過程で、APECがPECC、PBECを含めた域内の民間部門やビジネス界と明確な方向性を共有し、多角的な連携を実現し得たと考えます。

 最後に、本日のシンポジウムが今後のアジア太平洋の発展を考える上で有意義な議論の場となることを心より期待し、結びの言葉とさせて頂きます。