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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国連環境開発特別総会での橋本総理大臣演説

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1997年6月23日
[出典] 外交青書41号,200−202頁.
[備考] 
[全文]

ラザリ議長閣下、アナン事務総長閣下、並びにご列席の皆様、本日、所見を述べる機会を得たことに深く感謝します。

議長、

 5年前の地球サミットで、国際社会はこの美しい地球を守り、人類が末永く豊かで平和な生活を維持できるよう、壮大な共同事業に乗り出しました。残念ながら、その後の努力にも拘わらず、地球環境は依然として多くの問題を抱えています。このままでは、このかけがえのない地球も、21世紀に引き継ぐことは難しいかも知れません。今こそ、リオで合意された「持続可能な開発」のために、もう一度決意を新たにし、具体的取り組みを真剣に考えようではありませんか。

議長、

 私は、ここに参ります直前に、デンバーにおいて、8ケ国サミットの他の首脳とともに、地球環境保全の決意を新たにいたしました。私は、「将来の世代に対する責任」と「人類の安全保障」という2つの観点を強調したいと思います。この2つの観点に立って、まず、我々1人1人が、強い自覚と責任を持つことが必要です。ライフスタイルを改めることが必要です。また、革新的な環境技術を開発すること、開発途上国へ移転することによって、持続可能な開発を推進できるようにする必要があります。

 環境問題に対する地球規模での取組が求められる今日、国連の重要性は益々増しております。あらためて国連に対する協力を誓おうではありませんか。

議長、

 多くの環境問題の中でも、気候変動は、現在の人類は勿論、将来の人類の生存に直接関わる深刻な課題です。「気候変動枠組条約第3回締約国会議」は、この12月に我が国の古都京都で開催されますが、是非成功させなければなりません。デンバーサミットにおいて、8ケ国は、温室効果ガスを2010年までに削減する結果をもたらすような、意味のある、現実的、かつ衡平な目標にコミットする意思があることで一致しました。これは、この特別総会に向けられたメッセージでもあります。この特別総会においても、国連の総意として、京都会議の成功に向けた固い決意を示そうではありませんか。我が国は、京都会議のため全力を尽くします。この総会に出席の全ての国々のご協力を切にお願いします。

 もとより、地球温暖化問題の解決のためには、中長期的視点からの努力も必要です。例えば大気中の二酸化炭素濃度を産業革命前の2倍程度に安定化させるためには、2100年には世界全体の11人当たりの排出量を1トン以下にすることが必要です。これは既存の技術では実現できない大きな課題であり、全世界が一体となって取り組む必要があります。このため、私は地球温暖化防止対策を国際協力の下に加速するよう、「グリーン・テクノロジー」と「グリーン・エイド」の2つの柱で構成される地球温暖化防止総合戦略(グリーン・イニシアティブ)を提唱します。「グリーン・テクノロジー」は、先進国による、省エネルギー技術の開発と普及、太陽光発電などの非化石エネルギーの導入、革新的なエネルギーと環境技術の開発、世界的な植林と森林保全を進めます。「グリーン・エイド」は、ODAや民間資金をエネルギーや温暖化対策で活用し、また、人材養成などによる発展途上国への協力を進めます。

 志を同じくする国々の参加と協力をお願い致します。

議長、

 我が国は、過去において深刻な公害問題を経験しました。その反省に立って、環境政策を抜本的に強化し、成功しました。リオの地球サミットの後には「環境基本法」や「環境基本計画」を策定し、新たな環境政策を明確にしました。来年、長野で冬季オリンピックが開催されますが、環境保全には万全の配慮を払います。また、2005年に開催される愛知万博でも、「自然環境の保全・創造」をテーマにしています。我が国は、同じ過ちが繰り返されないよう、成功例のみならず失敗例もお示しし、協力する用意があります。

議長、

 政府開発援助(ODA)は、開発途上国の持続可能な開発を進めていく上で重要な役割を担っております。我が国のODAは環境と開発の両立を理念としております。環境分野への我が国のODAは、地球サミットで表明した野心的な目標を、さらに4割以上も上回る約1兆4400億円(約133億ドル)の実績をこの5年間で達成しました。

 我が国は、厳しい財政事情にありますが、その中で環境ODAにはできる限り配慮します。第2のイニシアティブとして、途上国のために、「21世紀に向けた環境開発支援構想(ISD)」を推進することを宣言します。

 その行動計画は次のようなものです。

 第1は、大気汚染と水質汚濁対策です。「東アジア酸性雨モニタリング・ネットワーク」を推進します。我が国が協力して設立したいくつかの「環境センター」などを活用して、各国のモニタリング能力を向上させ、また、汚染情報のネットワーク化などを図る考えです。さらに、汚染対策のための環境技術の移転も一層推進します。

 第2は、地球温暖化問題です。先ほど触れたグリーン・エイドを含め、開発途上国への省エネルギー・新エネルギー技術の移転を促進します。

 第3は、水問題です。上下水道の整備を一層進め、水の汚染に起因した健康上の問題や生活環境への悪影響の防止に努めます。

 第4は、自然環境の保全です。森林問題は特に重要であり、広域的な植林のための協力を進めます。生物多様性の保全についても、インドネシアと日本、米国が協力して設立した「インドネシア生物多様性センター」を拠点として、これを推進します。珊瑚礁の保全については、アジア・太平洋地域における珊瑚礁保全研究センターを設置し、このセンターを中心に、研究協力網の構築を目指します。

 最後に、しかし重要性に於いて他に劣らぬものとして環境教育の推進があります。教育を通じ全ての人々の環境意識を高めることは環境に優しい世界を達成するための基本です。我が国は世界的な環境学習プログラムを推進するとともに、新たな政策手段の開発等戦略的研究を行う「地球環境戦略研究機関」を設立し、国際的な研究協力を支援します。

議長、

 我が国は、戦後の荒廃と失意のどん底から急速な経済発展を遂げましたが、その過程において公害問題という厳しい経験をしました。我が国ほど、開発途上国の苦しみと先進国の悩みを共に分かち合える国はないでしょう。これこそ、我が国が、持続可能な開発の推進に協力していくことを国策としている所以です。私は、この美しい地球を21世紀に引き継ぐため、できるだけの努力を払うことを約束します。今こそ「地球環境保全と開発の為のパートナーシップ」を打ち立てようではありませんか。

 御静聴ありがとうございました。