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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本及び南太平洋フォーラム首脳会議における橋本総理大臣演説

[場所] 東京
[年月日] 1997年10月13日
[出典] 外交青書41号,247−249頁.
[備考] 高村政務次官代読
[全文]

ジェフェリー・ヘンリー南太平洋フォーラム議長

南太平洋フォーラム加盟国の大統領、首相、閣僚の皆様

 本日ここに、日・南太平洋フォーラム首脳会議を開催するにあたり、我が国と太平洋島嶼国の関係について所信の一端を披露する機会を得られましたことは、私にとり大きな喜びであります。

 今回の首脳会議は、我が国と南太平洋フォーラムの加盟国のリーダーが一堂に会して行われる初めてのものであり、本日、南太平洋フォーラム加盟国よりこのように多くの首脳及び閣僚のご出席をいただいたことは、日本を{前1文字ママ}南太平洋フォーラム加盟国の間の極めて良好な友好関係及び緊密な繋がりを示すものであり大変うれしく思います。

 皆様と共に、21世紀に向けた我が国と南太平洋フォーラム加盟国の友好協力関係について、忌憚ない意見交換を行い、有意義な成果が得られるものと確信しています。

ご列席の皆さま

 太平洋島嶼国は、我が国にとり、ともに太平洋に位置する南の良き隣人であり、地理的にも、また、歴史的にも長く深い付合いがあります。また、こうした心の絆を基礎にして、皆様の国は、経済、安全保障、外交の面でも我が国の重要なパートナーとなっています。我が国は、太平洋を共有する国として、この地域の平和と繁栄を強く望んでおり、そのために、二国間及び地域の両面で、可能な限りの協力を行う考えであることをまずお伝えしたいと思います。

 私は、1969年に皆様の地域を訪れたことがあります。その時は遺骨収集団の一員としてでありました。日本と太平洋島嶼国との長い歴史的繋がりの中には、先の第二次世界大戦の痛ましい体験があったことも事実です。我が国は過去の歴史に対する認識を明らかにした先の村山総理談話で示された厳しい反省を踏まえ、過去を直視し、未来を切り開くための対話と協力を進めていきたいと思います。

ご列席の皆様

 このような認識を踏まえ、私はこの機会に、21世紀を4年後に控えた今日、日本と太平洋島嶼国の関係を如何なる形で進めていくべきかについて4つの協力を柱とした基本的な考え方を述べたいと思います。

 まず第一に、太平洋島嶼国の自主性、独自性に配慮した協力です。

太平洋島嶼国は、かけがえのない美しい自然環境と古き良き伝統を育んでおり、経済的自立に取り組む過程にあっても、これらをしっかりと維持し且つ保全していくことなくしては、この地域の真の幸福と福祉はありえないと考えます。成長と発展という経済目標と、環境と伝統の維持・保全を同時に追求していくことが、現在太平洋地域が直面する最も大きな挑戦であると思います。我が国としては、信頼できるパートナーとして、ともに悩み、考え、体験を分かちあいながらこの挑戦に取り組んでいきたいと考えています。

 皆様の国は、先祖代々母と仰ぐ海、神から授かった緑生い茂る山々擁する大変美しいところと聞いています。これらは同時に、アジア太平洋地域、ひいては地球全体のかけがえのない財産であります。我が国としては、こうしたかけがえのない財産を損なうことがないよう、出来うる限りの協力を行うことをお約束したいと思います。ご承知の通り我が国は、高度成長の過程で深刻な公害問題を経験しました。こうした我が国の失敗の経験や解決の過程における様々な困難を含め、生活・産業公害防止やエネルギー友好利用等の技術は、必ずやお役に立つものと思います。

 第二に、経済的自立にむけての協力です。

本日の首脳会議の主要な目的の一つは、経済的自立を達成するために、太平洋島嶼国独自の創造的な経済開発のあり方について忌憚のない意見交換を行うことです。自立的な経済発展を達成するための鍵は、貿易、投資、観光の促進とそのための民間セクターの育成であると考えます。我が国は島嶼国のユニークな特色を活かした商品の開発を目指した対日輸出促進活動を行っており、1994年よりSPF事務局と協力して5回に亘り対日輸出産品開発セミナーを実施していきました。今後ともこの活動を続けていくつもりです。また、昨年10月には、我が国と南太平洋フォーラム事務局の協力により、太平洋島嶼センターが東京に開設され、様々な支援事業を行っていますので、是非友好に活用していただきたいと思います。我が国としても、今後とも同センターを積極的に支援していきたいと考えております。

 更に、我が国は、太平洋島嶼国が、国土の拡散性、国内市場の狭隘性、国際市場からの地理的隔絶性といったいわば、島嶼国に特有な困難な制約の中、各種経済改革の実施、自由貿易の推進、APECに整合的な開放的、自由、透明な投資政策の導入に向け努力してることに対し高く評価いたします。我が国としてもこのような努力を積極的に支援していくことをお約束したいと思います。

 第三に開発援助を通じだ{前1文字ママ}協力です。

 太平洋島嶼国の多くは、独立して日が浅く、人造りを始めとする経済的自立を達成するための開発ニーズには依然として根強いものがあり、我が国としても、引き続き太平洋島嶼国に対する経済協力を重視していきたいと考えていますが、同時に、我が国は、現在厳しい財政事情の下、財政構造改革を協力に推進しており、より一層の効果的、効率的な援助の実施にむけご協力お願いしたし{前1文字ママ}と思います。

 また、人材育成については、独立して間もない太平洋島嶼国において国造りを行っていく上で不可欠なものといえます。我が国はこれまで、青少年交流、留学生の受入れ、高校生交流の実施、研修員の受入れ、青年海外協力隊及び専門家の派遣を行ってきています。今後とも積極的にこれらの交流を継続していきたいと思います。

 第四に、地球的規模の問題等に関する国際場裡における協力です。

 国際社会の相互依存が深まる中、我が国と太平洋島嶼国との関係も、二国間の枠組みを越えた地理的な視野、さらにはグローバルなものとなってきています。

 この中でも、特に気候変動問題は、人類の生存基盤に深刻な影響を与える問題であり、太平洋島嶼国にとってとりわけ深刻な問題であると認識しています。本年12月に我が国において開催される気候変動枠組条約第3回締約国会議は、西暦2000年以降における本問題への取組の国際的枠組みを定める重要な会議です。我が国は、議長国として、今後の交渉の基礎となるものとして、温室効果ガスの排出について5%を基準削減率とする提案を行いました。この人類の地球温暖化対策の第一歩となるべき会議をぜひとも成功させるべく皆様方のご協力を特にお願いしたいと思います。

 なお、この場を借りて、国連を始めとする種々の国際的な場における南太平洋フォーラム加盟国の我が国への支持に対して心から感謝申し上げたいと思います。また、アジア太平洋の時代と称される中にあって、地理的隔絶性ゆえに太平洋島嶼国が抱える問題点を訴えていきたいと考えています。今後とも、このような協力関係を一層発展させていくべく努めたいと思います。

 以上述べました4つの協力の柱を念頭に置き、我が国と太平洋島嶼国との協力関係の構築、共同の取組の強化のため、今後とも、あらゆるレベルで二国間の政策対話の一層の強化・拡充を図っていくことが重要です。また、広大な太平洋島嶼国のいわば世論形成の場として政治的にも重要な役割を果たしている南太平洋フォーラムとの協力関係を今後一層拡充していきたいと思います。

 同時に、我が国と太平洋島嶼国の友好関係を更に磐石なものとするため、人的交流、特に次代を担う若者の交流を通じた相互理解と相互信頼関係の促進が重要です。我が国としては、今後とも積極的にこれらの交流を継続していきたいと思います。

ご列席の皆様

 本日の首脳会議は、我が国と南太平洋フォーラム加盟国との関係の新たな歴史のページを開く極めて重要な会議であります。今回の訪日を通じて構築される個人的な信頼関係が、必ずや、将来永きに亘る協力関係の礎となることを信じて疑いません。

 ご静聴ありがとうございました。