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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 内閣総辞職に当たっての談話(橋本龍太郎)

[場所] 
[年月日] 1998年7月30日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(下),985−986頁.
[備考] 
[全文]

 橋本内閣は、本日、総辞職いたしました。

 私は平成八年一月に内閣総理大臣に就任以来、少子高齢化の急速な進展や国際化、情報化など内外の環境変化の中で、二十一世紀の明るいわが国を創り上げるために全身全霊を打ち込んでまいりました。戦後五十余年にわたりわが国を支えてきたすべての社会システムの「変革と創造」をやり遂げる、そのために、「決断と責任」を政治信条として、痛みを先送りすることなく、行政改革などの「六つの改革」を進めてまいりました。多くの関係者の懸命なご尽力のお陰で、一歩一歩着実に成果があがってきており、さらに前進への努力が重ねられております。同時に、構造改革を念頭に置きながら、当面の景気対策や不良債権問題への対応など、総合的な経済対策も講じてまいりました。

 外交面では、日米関係を機軸に、各国首脳との親密な友好関係を背景にして、さまざまな努力を積み重ねてまいりました。クリントン・アメリカ大統領との率直な話し合いを踏まえて、冷戦後の日米安保体制の再確認を行い、また、エリツィン・ロシア大統領との間では、胸襟を開いて新しい日露関係に一歩を踏み出すことができました。この間、尊い犠牲者を出してしまった在ペルー日本国大使公邸での人質事件や、ナホトカ号重油流出事故あるいは先般のインド、パキスタンにおける核実験など、大変残念な出来事もありました。沖縄に関するさまざまな課題には、なお思いを残しております。

 私は国政を預かる者として、国民と日本国の将来のために、正しいと信ずる目標に向かって努力してまいりましたが、この度の参議院議員通常選挙の結果を厳粛に受け止め、総理の職を辞することといたしました。

 わが国が現在置かれている社会経済状況は決して容易なものではありませんが、わが国はこれまでも国民の英知と努力の結集により、幾多の困難を乗り越え、今日の繁栄を築いてまいりました。国民が力を合わせ、勇気を持って取り組めば、必ずや日本経済の再生は可能であり、また世界一の長寿を心から喜べる活力ある福祉社会を創ることができるものと確信しております。私はこれからも一人の政治家として、皆様方と力を合わせて、わが国の発展と世界の平和のために力を尽くす覚悟であります。

 これまでの国民の皆様のあたたかいご支援とご協力に対し、心よりお礼を申し上げます。