データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第2回アフリカ開発会議(TICAD II)開会式における小渕総理大臣基調演説

[場所] 東京
[年月日] 1998年10月19日
[出典] 外交青書42号,225−228頁.
[備考] 
[全文]

国王陛下、

大統領閣下、

首相並びに大臣閣下、

国際機関代表の皆様、

御列席の皆様

 第2回アフリカ開発会議の開会に当たり、アフリカを始め世界各地から遠路ご参加頂きました皆様に、共催者の国連、「アフリカのためのグローバル連合」及び日本政府を代表して心から歓迎の意を表します。

 第1回アフリカ開発会議が開催され「東京宣言」が採択されて5年になります。東京宣言は、アフリカに明るい未来が必ず来るとの明確なメッセージを発し、アフリカの繁栄と安定のためにアフリカ諸国とアフリカの開発パートナーが最大限の努力を払うとの固い決意を表明しました。今回の会議は、この我々の決意を再確認するだけではなく、更に一歩進んで具体的な行動計画を策定し、アフリカ諸国の経済・社会開発の発展と国民の福祉の向上に向けて国際社会の努力を結集することを目的と致します。この会議の成功のため、ご出席の皆様の深いご理解と強いご支援を賜りますようお願い申しあげます。

 私事となりますが、私がアフリカと初めて触れる機会を持ったのは、「アフリカ独立の10年」と呼ばれた1960年代のことであります。政治家を志した20代半ば、私は世界一周の一人旅に立ち、1963年にケニア、ウガンダ等を訪れ、当時独立直後であったこれらの国の人々の熱気をこの身をもって感じ取りました。その時、アジアから来た一青年に強い印象を残したものは、まずアフリカの人々の暖かいホスピタリティー、そして民衆の活力、更に大きな潜在的可能性でした。

 その後、アフリカは、東西冷戦下の対立と競争にさらされ、「失われた10年」と呼ばれる80年代の苦しい時期をくぐり抜けてきました。冷戦終了後は、市場経済、民主主義の「新しい風」がアフリカ大陸にも吹き、主体的な国造りが成果を上げつつあります。経済開発面では、約20ケ国が年間5%以上の成長を達成しており、政治的にも多くの国々で複数政党制に基づく選挙が実施されております。私が30年前に確信した「アフリカの明るい未来」が、今こうしてアフリカの多くの国々で実現されつつあることを喜ばしく思います。

 しかし、その一方で、アフリカには今なお貧困が根強くかつ広範に残り、冷戦後の国際環境もアフリカ諸国にとって決して優しいものではありません。特に持続的な開発の前提となるべき平和と安定を脅かす国家間の紛争と民族間の抗争、テロ、大規模な難民流出等の問題が再燃し、アフリカ諸国はもとより、国際社会全体にとっても重要な懸念となっていることを忘れる訳には参りません。

御列席の皆様、

 このような幾つかの深刻な問題がある中で、TICAD IIは、全てのアフリカ諸国とアフリカの開発に携わる主要なパートナーを網羅するだけでなく、アジアからの参加も得たユニークな試みであります。共催者の一員として、日本はアフリカの開発に向けて引き続き積極的に取り組んでいく考えでありますが、その際、特に次の諸点を重視して参りたいと思います。

 第一に、我々はアフリカ諸国が自ら責任を持って主体的に開発に取り組む姿勢を尊重して参ります。この各国の主体的な開発努力の重要性は、日本がアジア諸国との間の協力でも学んだ経験の一つであります。

 第二に、先進工業国は今後ともアフリカ諸国に協力と支援の手を差し伸べ続けるべきであります。その際に、お互いに、国際社会のフルメンバーとして尊重し合う姿勢が重要だと信じます。我が国は、こうした対等なパートナーシップの構築の重要性を第1回アフリカ開発会議以来主張して参りましたが、これがOECD/DACにおいて「新開発戦略」の形で採択され、国際社会共通の基本的な考え方となりつつあることを歓迎します。

 第三に、紛争の解決と予防及び民主化の促進を通じた政治的安定の実現は、アフリカ開発の前提として不可欠であります。そのためには、アフリカの文化的、歴史的背景に配慮しつつ、アフリカ諸国の紛争予防能力の向上、司法制度の整備、行政の透明性確保、公正な選挙の実現等により「グッド・ガバナンス(良い統治)」を実現しなければなりません。この点に関し、現在アフリカ大陸で生じている紛争について、アフリカの指導者達が進めている仲介努力が結実するよう、関係各位に強く訴えたいと存じます。

 第四に、南々協力、特にアジアとアフリカの交流を更に強化すべきであります。数世紀を溯る中世の時代まで、両地域間では千余年に亘って築かれた貿易と交流の豊かな歴史がありました。残念なことにその後の歴史の流れの中で、その豊かな関係は途絶えております。「ティカッド・プロセス」を契機として、21世紀に向けアジアとアフリカを結ぶ関係が再び活性化し、お互いの経験を分かち合える絆が強まることは歴史的にも意義深いことであります。このような交流を促進するため、我が国は積極的に仲介役を果たしたいと思います。

御列席の皆様、

 現在、我が国は大きな経済的困難を抱え厳しい財政状況にあります。しかし、以上述べたアフリカ開発に対する基本的な考え方を踏まえ、我が国は引き続き対アフリカ協力を率先して行う方針です。その際、他の援助国や国際機関と協調するだけではなく、アフリカに関心を寄せるアジア諸国との連携を大切にしつつ取り組んで参る所存です。この会議の中心テーマは、アフリカの「貧困削減と世界経済への統合」ですが、日本は今後のアフリカ協力をこの目標に向かって展開します。

 第一に、最も基本的である社会開発分野の支援を一層重視します。初等教育、保健医療及び水の供給といった基礎生活分野における協力のため、一層の努力を行います。

 第二に、日本やアジア諸国の発展の経験を活かし、アフリカ諸国の開発を支援する上で、「南南協力」を活用して人造り協力を重視します。具体的には、現在我が国はアフリカ諸国から直接、毎年技術研修で数千名を受け入れておりますが、これに加え、今後5年間でアフリカ各国の研修生が2,000名アジアや北アフリカ等で行う研修に受け入れられるよう、資金・技術の両面にわたる支援を行います。その一環として、「日・仏・マレイシア3国協力」の枠組みを活用して支援します。

 第三に、民間セクターの役割を重視します。アフリカの民間セクターの発展を、特にアジアとの貿易・投資促進を通じて実現していくため、「アフリカ投資情報センター」をアジアの一国に設置することを日本として支援します。更に明年中に「アジア・アフリカ・ビジネスフォーラム」の開催を通じ潜在的なビジネス機会の発掘を支援します。また、TICAD II準備プロセスにおいて、民間セクターの方々から2000年をアフリカ中小企業のための年にするとの強い意気込みが示されましたが、わが国としてはかかる取組みを歓迎いたします。このような目的のため、日本は、国際機関やアジア諸国と協力して支援を進めて参りたいと考えます。

 第四に、わが国は今年、砂漠化対処条約と対人地雷禁止条約を批准し、砂漠化や対人地雷のようないわゆる地球規模の問題に積極的に取り組む姿勢を明らかにしました。特に、対人地雷に関しては、除去及び犠牲者支援につき5年間で100億円の支援を地雷被埋設国に対して行うこととしています。その一環として、アフリカ、特に南部アフリカにおいて資金面・技術面の支援に努めます。

 第五に、わが国は多くのアフリカ諸国が債務問題に直面して苦しんでいることを承知しております。日本はこれまでアフリカ諸国に対し約300億円の「債務救済無償資金協力」を実施してきましたが、その供与対象国及び対象債務の拡大が急務であると考え、現在鋭意検討しております。また、債務問題の解決に資することを目的として、アフリカ諸国の債務管理能力向上のため、わが国の技術協力による研修事業及びアフリカ開発銀行や国連開発計画を通じた研修などを実施します。さらに、紛争後の重債務貧困国に対し、「HIPCイニシアティヴ」が適用されるための環境整備を含め、アフリカの債務問題解決に向けた検討が関係各機関において進展することを期待したいと思います。

 御列席の皆様、

 我々アジアの国々は、現在大変な経済的苦境に置かれておりますが、「苦しい時の友は真の友」と言う通り、かかる時期であるが故に、第2回アフリカ開発会議の開催はより意義深いものであると考えます。そして、苦境の打開には、現実をしっかりと見据えて具体的な政策を着実に移していく、行動指向型のリーダーシップが必要なのです。皆様の英知と汗を結集して、アフリカに明るい未来を切り開こうではありませんか。

 ご静聴有り難うございました。