データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ASEAN主催緊急首脳会議における小泉総理大臣スピーチ

[場所] 
[年月日] 2005年1月6日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

スシロ・バンバン・ユドヨノ・インドネシア共和国大統領閣下、

各国政府及び国際機関の代表者の皆様、

1.まず、今回のスマトラ沖地震による大津波で亡くなられた方々、最愛の御家族を亡くされた方々に哀悼の意を表します。また、被災地における過酷な条件下で懸命の救援活動を続けている方々に心から敬意を表します。

2.今回の大津波では、被災国の方々はもとより、我が国を含む世界中の多くの方々が深刻な被害を受けました。その中でも、最も大きな被害を受けたのは、アジア諸国です。我が国は、アジアの一員として、アジア諸国とのパートナーシップと連帯を育んできました。アジアの人々の痛みは、我々の痛みであり、アジアにおける大災害は、我々自身の問題でもあります。

3.我が国自身、地震、津波などの自然災害に何度も見舞われた経験を有します。今からちょうど10年前、大地震が神戸を直撃し、6千人以上の尊い命が奪われました。また、最近では、新潟で大地震が発生し、大きな被害を残しました。さらに、遡れば1960年、地球の裏側チリで起こったマグニチュード9.5の大地震により大津波が発生し、我が国の太平洋沿岸地域が大きな被害を受けました。このような経験を持つ我が国にとって、今回の津波による被害には、特別な同情の念を禁じ得ません。

4.今回のような大災害への救援・復旧復興においては、国際社会が結集して支援の手を差し延べることが不可欠です。我が国も、阪神・淡路大震災の際には、多くの国々、国際機関、NGOからの温かい支援と、世界の皆様からの善意の募金を頂きました。このような国際社会の支援があって、被災者は災害の苦しみを乗り越え、復興に向けて力強く立ち上がることができました。

5.今回の大津波による災害についても、国際社会は直ちに支援の手を差し延べています。米国の主導により始められた「コア・グループ」による支援調整のメカニズムは、効果的に機能しました。今後は、国連が中心となって、国際社会の支援を牽引していくことになります。先ほど、アナン国連事務総長が総額9億7千7百万ドルにのぼる緊急アピールを出されました。既に各国が表明した20億ドル以上の支援は、この緊急アピールに十分応えるものとなっており、誠に勇気づけられます。私は、各国が連帯して、本日発出される宣言に基づき、自ら表明した支援を早急に実施に移し、国連のアピールに最大限協力することを呼びかけます。

6.我が国は、今回の被害に対して、資金、人的貢献、知見の3点で、最大限の支援を実施していきます。資金面では、当面5億ドルを限度とする支援を無償で供与することを表明しました。本日のアナン事務総長の緊急アピールに応えるべく、そのうち2億5千万ドルを、関係国際機関を通じた被災国の支援に充てます。また、同時に、深刻な被害に遭われた国々に対し、直接、総額2億5千万ドル相当の無償資金協力を行います。さらに、被災国から要請があれば、関係各国とともに公的債務の支払いを一定期間猶予すべく、これら各国にも働きかけていきます。

7.人的貢献については、我が国も、今回の災害発生後、直ちにインドネシア、タイ、スリランカ、モルディブの各被災地に国際緊急援助隊を派遣し、医療分野での支援活動に着手しました。また、自衛隊も活用して、被害者の捜索・救助活動を行ってきました。しかし、医療、衛生、物資の輸送等、現地における支援の必要性は依然として膨大であり、更なる人的貢献が必要です。我が国は、特に深刻な被害が生じているインドネシアにおいて、自衛隊を活用した輸送支援や衛生状況改善のための措置を実施する準備を進めており、本日、航空自衛隊の輸送機を出発させます。

8.今回の大津波による被害を繰り返さぬよう、我が国は、関係国・機関とも協力し、1960年のチリ地震津波を教訓として開発された太平洋津波早期警戒メカニズムと同様の仕組みをインド洋地域において速やかに構築するため、積極的に努力していきます。今月18日から22日に、10年前に震災があった神戸において、国連防災世界会議が開催されます。会議では、このメカニズムについての「特別セッション」を設け、具体的枠組みや訓練、セミナーの開催を含む協力のあり方について議論することを提案します。

9.今回の大津波によって、被災国の社会基盤は深刻な打撃を受けました。今後は、緊急支援に加え、関係国・国際機関の協調の下、各国における事情・状況を踏まえて策定される中長期的な復旧・復興計画に基づき、支援を行っていく必要があります。我が国も、最大限の支援を行います。

10.今回の災害では、未曽有の惨禍に直面した人々に対し、世界各国の政府や人々が、その悲しみを自らの悲しみと受け止め、迅速かつ強力な支援を差し延べました。今後、世界の人々が、国際的な協力関係を一層強化し、自然災害に対する備えを充実させることにより、将来への展望を拓いていくことを希望いたします。

ありがとうございました。