[文書名] 国連防災世界会議における小泉総理ステートメント
議長、
ヤン・エグランド国連事務次長、
各国代表及びご列席の皆様、
「国連防災世界会議」の開催にあたり、世界各国からお越しいただいた方々を心から歓迎申し上げます。ここ神戸をはじめ周辺の地方には歴史と文化の香りあふれる街が数多くあります。この機会に、可能な限りいろいろなところを訪問していただき、我が国に対する理解を深める機会となれば幸いです。
昨年末にインドネシアのスマトラ島沖で発生した地震津波は、インド洋沿岸諸国に未曾有の被害をもたらしました。犠牲になられた方々とご遺族に心から哀悼の意を表するとともに、被災国、被災者の方々に謹んでお見舞い申し上げます。また、被災地において、懸命に復旧・復興の支援活動に従事している各国政府や国際機関の職員並びにNGOなどのボランティアの方々に対し、心から敬意を表します。
我が国は、津波発生直後から、付近を航行中であった海上自衛隊の艦船及びヘリコプターをタイのプーケット島沖に差し向けて捜索活動に当たったほか、医療チーム等の国際緊急援助隊を被災各国に派遣して救援活動を展開しました。さらに態勢を強化して、輸送や衛生の改善を支援する活動を行う予定であります。また、既に、当面5億ドルの無償支援を表明しているほか、被災国の債務の支払猶予についても、関係国と協議を行っています。緊急の援助を必要とする子どもたちの保護にも力を入れてまいります。我が国は、同じアジアの一員として、被災国の復旧・復興に向けて積極的な役割を果たしていく考えです。
我が国では、「天災は忘れたころにやってくる。」と言われます。これは、我が国が、地震・台風・火山噴火などの災害に不意に見舞われ、繰り返し犠牲を払ってきた苦い経験にもとづく教訓であります。
現在世界で使われているtsunamiが日本語であることはご存じでしょうか。それほどに、我が国は過去度々津波による被害を経験してまいりました。
今から150年ほど前に巨大な地震とそれに続いて津波が発生したときに英雄的行動をとった、ある村の庄屋の話が現在まで伝えられています。彼は、地震の直後、海岸からはるか沖まで波が引いていくのを見つけました。津波襲来にまつわる先祖代々の言い伝えを思い出し、「これはきっと津波が来る」と考えました。しかし、村人全てに事情を説明して回るいとまはありません。そこで、即座に、村で収穫された稲の束に火をつけ、これに気づいた村人たちを高台に誘導しました。この迅速な判断と行動によって、村を襲った津波から、多くの村人を救ったのです。この庄屋は、その後、私財を投げ打ち、村人と協力して、集落の面する海岸に大きな堤防を築きました。彼の作った堤防は、それから約90年後、再び村を襲った津波の際に、多くの命を救いました。
この話は、災害についての知識や教訓を常に頭に入れておくこと、災害発生の際には、迅速に判断し行動をとること、そして、日ごろから災害への備えを怠らないことの重要性を教えています。
我が国は、その後も数々の災害を経験し、そこから多くのことを学んできました。ちょうど10年前、ここ兵庫で発生した阪神・淡路大震災は、6,400余名が犠牲になるなど甚大な被害をもたらしました。震災後、我が国は、官民をあげて、一層災害に強いまちづくりを進めるとともに、政府中枢の即応体制や広域にわたる関係機関の応援態勢の充実・強化を図っています。
この大震災において国内外から集まった各種のボランティアは、それまでにない多大な貢献をとげ、その役割の重要性を日本社会にかつ目させる機会となりました。昨年も、台風・豪雨や新潟県中越地震によって各地で災害が発生し、多くの市民が被害にあいました。今回も、多くのボランティアの支援は、地域住民の中に溶け込んで、被災地の復旧・復興にとってきわめて大きな役割を担っています。
そして、防災上の様々な教訓は、国際的にも共有できるものであります。
1998年のアイタペ地震津波により約2,600人が犠牲となったパプアニューギニアでは、地震発生後に海岸周辺にとどまっていた人が多く亡くなりました。このため、この国では我が国の支援を受けてわかりやすい津波防災パンフレットを作成し、海岸地域に住む住民に対する普及・啓発に努めました。その甲斐もあって、2000年に発生したマグニチュード8クラスの地震では、数千の家屋倒壊があったものの、津波による死者の発生を防ぐことができました。
また、モルディブ共和国では、1987年にサイクロンによる高波によって、首都であるマレ島の3分の1が冠水しました。そのため、我が国からの財政的支援を受けて、海岸護岸が建設されました。今回の津波では、この護岸のおかげで、首都マレの町は大惨事から免れ、多くの命が救われました。
一方、1960年には、チリ沖で発生したマグニチュード9.5の地震による津波が、地球を半周し、1日かけて我が国の太平洋沿岸に押し寄せ、139人の死者・行方不明者を含めて、大きな被害をもたらしました。津波が発生した際に津波が到達する可能性がある地域では、まず迅速に避難を図ることによって、人命の損失を防ぐことが重要です。したがって、地震発生後速やかに津波の接近を関係地域内の国々に知らせるシステムがきわめて有効であります。このときの教訓から、太平洋地域では、津波警報システムが構築されています。
インド洋地域にも、津波早期警戒メカニズムを速やかに構築することにより、将来の津波に際して多くの人命を救うことが可能になります。我が国は、関係国・機関とも協力し、本会議において、「特別セッション」を設けました。そこでは、国際的な津波警報組織の具体的枠組みや住民への知識普及・啓発などの協力のあり方について議論することとしています。我が国は、会議の議論を踏まえ、二国間及びユネスコ等国際機関への協力を通じて、このメカニズムの構築を支援してまいります。このため当面、JICAによる研修や、国連国際防災戦略(ISDR)への財政的支援を実施します。
我が国では、毎年9月1日を防災の日と定めて、この日を含む防災週間には、各地域で約350万人もの人々が参加し、私自身も現地に赴いて防災訓練を実施しております。防災関係者ばかりでなく、多くの市民が参加する防災訓練の反復が災害における被害の極小化にとって極めて重要であることは論を待ちません。また、近い将来に大地震発生の可能性が指摘されている国内の特定の地域については、地震常時監視網を構築して、地震予知情報の提供を図るシステムを整備しています。
こうした、我が国の防災に対する特記すべき「備え」についても、要望があれば、積極的に各国に紹介してまいりたいと考えます。
更には、配布資料にお示ししてあるとおり、
○ 「防災協力イニシアティブ」を提唱し、ODAを通じた開発途上国の防災の専門家づくりなどの支援
○ 神戸にあるアジア防災センターを通じた防災協力面における域内各国の連携の強化
○ 国連における世界の災害復興事例のデータベースづくり
などの、国際協力に力を入れてまいります。
議長、
地球上には、人種、宗教、文化の違いなどによる対立や緊張がいたるところに存在しています。しかしながら、地球上どこでも起こりうる自然災害に備え、甚大な被害、とりわけ、人命の損失を防ぐことは、すべての人類に共通の願いではないでしょうか?我々は、対立や緊張を超えて、災害からの復旧・復興にあたって、共助の精神で助け合うことが求められています。また、様々な境遇に置かれている人々に対しても、支援の手は等しく差し伸べられなければなりません。
我が国は、阪神・淡路大震災の際にも、また昨年の地震の被害などに際しても、多くの外国の政府・企業・個人の方々から暖かいご支援をいただきました。我が国民の多くは、このことに感謝し、いつまでも忘れないことと思います。10年前の大震災の後、復興への道を歩んできたこの会議開催地、神戸において、皆さんとともに英知を結集して、災害による被害を軽減するための協力を一層深めようではありませんか。
終わりに、我が国は、今後とも、情報や知識の共有、人的技術的貢献、財政面からの復興支援の全てにおいて、最大限の国際的な協力を行ってまいります。
ご静聴ありがとうございました。