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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] シン・インド首相主催公式午餐会における鳩山内閣総理大臣冒頭発言

[場所] デリー
[年月日] 2009年12月29日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

シン・インド首相閣下及び令夫人

ご列席の皆様、

 このたびの訪問で、シン・インド首相閣下に温かな歓迎を頂きました。そして、名残惜しくもインドを出発する前に、このような素晴らしい午餐会にお招き頂きましたことを、心より感謝申し上げます。

 壮大な叙事詩である、「ラーマーヤナ」や「マハーバーラタ」の例を挙げるまでもなく、インドの方々は、豊かな言葉の伝統を持ち、古くから対話を重んじてこられています。このたびの首脳会談でもまた、シン・インド首相閣下と幅広い問題について有意義な対話の時を重ねられたことを、大変嬉しく思っております。

 対話は、民主主義の根幹をなすものです。閣下は、3年前の日本の国会での演説で、「これまでに、10億を超える人々が民族や文化など多元的な要素を抱えた民主主義の枠組みの中で貧困を撲滅し、社会と経済を現代化しようと試みた例は全くありません」と述べられました。貴国は世界最大の民主主義国家です。そして選挙を通じ、これまで政治や社会の安定性を損なうことなく、政権交代を実現してきた歴史をお持ちです。日本は、長い民主主義の歴史を持っておりますが、その日本も今年、これまで実現できなかった、民主主義の世界で当たり前である政権交代を、実現いたしました。

 閣下は、貴国に脈々と受け継がれている「寛容の精神」で多元性を尊重し、力強い経済成長を遂げながらも、「包摂的な成長」を目指し社会的弱者への手当てを大切にされておられます。私は、何よりも人の命を大切にしつつ、人々が尊厳ある生活の中で共生する、「友愛」政治を目指し、「ひとつひとつの命を大切にする。他人の幸せを自分の幸せと感じられる社会」を作ることを日本の国民に約束しました。「友愛」は、自分の自由と自分の人格の尊厳を尊重すると同時に、他人の自由と他人の人格の尊前をも尊重する考え方のことです。「自立と共生」の思想と言ってもよいでしょう。閣下の目指す社会と私の「友愛」は、サンスクリット語のswikriti(スウィークリティ)という美しい言葉で表現される、多様な価値観を「受け止める」という点で、そして人の命を大切にする政治を目指すという点で、深く響き合うのではないかと感じております。

 閣下と私は、日本とインドの間の「戦略的グローバル・パートナーシップ」を強化し、両国の関係をさらに発展させていくことで一致しました。政治・安全保障、経済連携協定などの経済分野、デリー・ムンバイ大動脈構想等の経済協力、気候変動や核軍縮・不拡散をはじめとする地球規模の問題、国連安保理改革などでの協力を進めていくことを、首脳会談そして共同声明の形でも確認できたことを喜んでおります。

 最後に、貴国の歓迎に重ねて御礼を申し上げるとともに、閣下ならびに各位の御健康と御多幸、およびインドの繁栄、そして日本とインド両国の関係の一層の発展を祈念し、私の挨拶とさせて頂きます。