データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] MDGs国連首脳会合 総理演説「次世代への約束」

[場所] ニューヨーク
[年月日] 2010年9月22日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 議長、

 御列席の皆様、

【はじめに】

 ミレニアム開発目標(MDGs)が、この国連の場で誕生してから10年になります。

 この10年間、私たちは、MDGs【エム・ディー・ジーズ】という一つの目標の下に集結し、貧困と闘ってきました。その間、私たちは目覚しい成果を上げました。年間の5歳未満児の死亡数は、1990年比で370万人以上減少し、1999年来、3、700万人の子どもたちが新たに初等教育の恩恵を享受できるようになりました。

 まず、こうした成果のために尽力された関係者の皆様の努力に対し、敬意を表します。

 しかし、目標の達成に向けた挑戦はまだ終わっていません。本日、私は、MDGsの中でも、現在、特に進捗が遅れている、母子保健を含む保健と、基礎教育を始めとした教育に関し、具体的な「約束」を表明します。

 この両分野に対する「菅コミットメント」です。

【「最小不幸社会」の理念に沿った保健分野での貢献】

 今年の6月、私は、総理に就任するときに、「最小不幸社会」の実現という公約を国民に示しました。国のリーダーがまず果たすべき役目とは、疾病、貧困、紛争といった不幸の原因をできる限り小さくすること、「最小不幸社会」を築くことだということです。

 これは、私が長年確信していたことであり、MDGsの理念とも共通するものと考えます。

 そして、この理念が実現された上で、一人ひとりが自分の生き方を見つけ、夢に向かって挑戦していくことができるのです。

 この「最小不幸社会」の理念に基づく私の最初の約束が、いのちを守るための保健分野での貢献です。

 まず、日本が生みの親の一人である、世界エイズ・結核・マラリア対策基金について申し上げます。

 今月初め、私は日本で開催された世界基金写真展を訪れました。私は厚生大臣時代、初めて薬害エイズ問題における国の責任を認めました。そして、患者全員に謝罪し、和解しました。それを機に、エイズを始めとする疾病の問題への関心が一層強くなりました。

 展示を見て、改めて、アジア、アフリカ、南米等、世界各地で、未だに多くのエイズ患者の方々が亡くなっていることを認識しました。一方、新しい治療薬の開発が進んだ結果、きちんと治療すれば、社会復帰ができるようになり、母子感染を防げるようになりました。

 世界基金の果たしてきた役割は大変崇高であります。心から敬意を表します。

 来月開催される世界基金の第三次増資会合において、日本は当面最大8億ドルの拠出を表明することをここに約束します。

 また、年間の5歳未満児の死亡数は依然として高い水準にあり、乳幼児の死亡率の削減や、妊産婦の死亡率の削減は、MDGsの目標に大きく遅れています。抜本的な取組が追加されるべきです。

 日本は、保健関連MDGsの達成に貢献するため、保健分野において、2011年から5年間で50億ドルを支援します。68万人の母親と1、130万人の子どもの命を救うための貢献です。

 特に、母子保健、三大感染症、新型インフルエンザを始めとする国際的脅威への対応、これらを三つの柱として集中的に支援をします。

 同時に、母子保健分野における支援として、必要なときに、適切な場所で、適切な予防策・治療が受けられるモデルを提案します。

 これを、私は"Ensure Mothers and Babies Regular Access to Care"の頭文字をとって、"EMBRACE"(エンブレイス)と呼びます。母子を優しく抱きしめるという意味を込めました。

 これは、妊産婦の定期検診や、機材と人材の整った病院での新生児の手当て、病院へのアクセス改善、ワクチン接種などをパッケージで行うことを目指すものです。産前から産後までの切れ目のない手当てを確保する支援のモデルです。

 私は、先般のG8ムスコカ・サミットでも、このモデルの重要性を訴え、参加国の賛同を得ました。途上国政府がこのモデルを導入し、ドナー国や国際機関も一体となって、理想的な母子保健支援に取り組むことを、この場でも再び呼びかけたいと思います。

 保健分野では、世界最高水準の医療活動、我が国の優れた科学技術も多いに貢献すると信じます。たとえば、財界のリーダーである日本企業が、アフリカ諸国に何千万単位でモスキートー・ネットを提供しています。

 このモスキートー・ネットは、日本の伝統的な生活の知恵に由来するもので、最新の技術により防虫効果が永続するものです。これにより、マラリア削減に絶大な効果を発揮しています。

 この例に見られるように、民間セクターやNGOなどの市民社会の役割は非常に大きいものであり、今後の活躍を応援したいと思います。

【社会参加を後押しする教育分野での貢献】

 一方、教育は、保健と並び、人々の社会参加を実現する基礎です。非常に残念なことですが、いまだに世界では、貧困や紛争により、過酷な労働を強いられている子供たちや、教育の機会を奪われている子供たちがたくさんいます。

 適切な教育を受けることができなければ、若者の将来の可能性が閉ざされ、社会で活躍する機会が失われます。その結果、若者たちに希望がなくなり、社会は活気を失います。

 日本は、教育関連MDGsの達成に貢献し、疎外された子どもや紛争国を含む世界中の子供たちが教育を受けられるよう、2011年からの5年間で35億ドルを支援します。途上国政府や他のパートナーとも協力していきます。

 その結果、700万人以上の子どもに質の高い教育環境を提供することができるようになると考えています。その際、初等教育修了後の中等教育、職業訓練、高等教育などにも配慮します。

 教育支援は、私の重視する雇用の創出と社会の活力の創造につながります。そこで、学校・コミュニティ・行政が一体となって、教師の質、学校運営、女子や障害児への取組、栄養・衛生・体力面など、包括的な学習環境改善を行う基礎教育支援モデルを提案します。

 私は、これを「スクール・フォー・オール」("School for All")と呼びます。

 多くの途上国がこのモデルを導入することにより、持続性を生む教育普及が実現すると確信しています。

 日本は、もちろんその先頭に立つ決意です。ドナーや国際機関の皆さん、世界中で一緒に子供たちを支援していきましょう。

 日本が保健、教育分野への支援を重視する理由は、それが、途上国が自律的な発展を遂げていく基礎になるからです。

 そのような観点から、これらの分野を中心としてMDGsを達成することは極めて重要です。私たちは全力を挙げなければなりません。このMDGs国連首脳会合をフォローアップすることが重要です。

 そのために、日本は、政府のみならず、国際機関やNGOなどの幅広い関係者の連携強化のため、来年、日本で国際会議を開催することを提案します。

【結び】

 本日は、特に保健及び教育分野での具体的な貢献を「菅コミットメント」として表明しました。

 これは、「希望を担う次世代への約束」です。MDGsは私たちの世代から次世代への、守られるべき約束です。

 これは「最小不幸社会」の実現と軌を一にしています。

 目標は相互に関連しており、行うべき仕事はたくさんあります。

 一方、残された時間はわずかです。我々加盟国は、2015年までのMDGs達成に向けて決意を新たにし、行動することが求められています。共に頑張ろうではありませんか。

 御清聴ありがとうございました。