データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] アジア欧州会合第8回首脳会合(ASEM8) 第1セッションにおける菅総理大臣発言

[場所] ブリュッセル
[年月日] 2010年10月4日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【冒頭発言】

 6月に日本国内閣総理大臣に就任しました菅直人です。まず、主催国ベルギー及びファン・ロンパイ欧州理事会常任議長のご尽力に、心より感謝します。

【世界経済の現状と我が国の取り組み】

 さて、金融危機後の世界経済の回復はこれまで予想以上の回復でありましたが、国によっては高水準の失業率や金融システムに対する懸念が残っています。一時はユーロ圏経済運営に対する信認が脅かされましたが、欧州の政策努力と、IMFを中心として協調したことにより、危機は回避されてきました。我が国もIMFを通じて支援の役割を果たしてきました。

 我が国は、アジアの中でいち早く経済成長を実現し、欧米とも連携しながら世界経済をリードするとともに、アジアの一員としてアジア諸国との経済関係も強化してきました。今、欧州が低成長の時代を迎え、一方アジアが急速に発展する中で、アジアと欧州が新しい経済関係を構築していくために、アジアと欧州とともに考えていきたいと思います。

 我が国経済は厳しいながらも持ち直してきていますが、出口戦略には早く景気刺激的な予算を作っています。また、「新成長戦略」を作りました。まずは、デフレ脱却を最重点課題として強力な政策を進めており、特に、雇用を機軸とした成長に向けた具体策を講じています。つまり、医療、介護、子育てなど内需はあるものの、供給がない分野に財政を投入し、新たなサービスと新たな雇用の創出を目指します。それが財政健全化につながることを期待します。

【ASEM各国の経済成長に向けて】

 アジア・欧州の首脳が一堂に会するこのASEMは、世界経済の均衡ある成長に向け、アジアと欧州が一体となって協調・協力していくことを確認するまたとない機会です。ASEM参加国のGDPは、世界全体の50%以上を占め、我々には世界経済に対する責務があります。FTA/EPAは、各国が努力しています。日本も非関税障壁を減らし、EU等とのEPAを進めたいと考えます。同時に、WTOドーハ・ラウンド交渉の早期妥結をはじめ、国際的なルールや約束を遵守・強化し、保護主義を抑止し、自由貿易を推進するとの明確な意志を発信することも重要です。

【APEC】

 おりしも我が国は、本年のAPEC議長です。11月の横浜での首脳会議では、アジア太平洋の将来像を共有し、地域経済統合と地域の成長戦略で具体的成果を出すべく、議長として頑張ります。特に、APECとして初めて策定する「成長戦略」は、世界の成長エンジンとして世界経済を牽引するアジア太平洋地域での取り組みを更に強化するものであり、欧州を含む、世界経済の成長にも貢献するものと確信しています。

 アジアと欧州の相互依存関係が深化し、共に成長を実現していく上では、資源取引や貿易を含め国際社会の共通のルールを相互に遵守することがより重要です。また、関係国や地域が、責任ある行動を取りながら、強固な信頼関係を醸成し、平和と安定の礎を築いていくことが不可欠であることはいうまでもありません。我が国としても、そうした方向に向けて主導的役割を果たしていく考えです。

【COP10】

 今月11日から、愛知県名古屋市で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催されます。この会議も地球の将来のために重要であり、各国首脳の協力をお願いします。

【グローバルな課題】

 アジアと欧州は、気候変動、エネルギー問題、核軍縮・不拡散、アフガニスタン・パキスタン支援、イランの核問題や北朝鮮による核・ミサイル開発等といった課題に対し共に力を合わせて取り組む必要があります。日本も積極的に取り組みたいと思います。

【まとめ】

 最後に、我が国は、ASEMにおいても、青年や留学生、教育・文化交流等の分野で、セミナー開催、アジア欧州財団への協力などにより、積極的に貢献していく方針です。様々な価値観や経済事情を有する国々が集うこのユニークな枠組みにおいて、我が国は、アジアと欧州の架け橋として、両地域の協力関係の発展、世界の安定と繁栄のために、皆様と一層の連携を図って参りたいと思います。