[文書名] 菅内閣総理大臣 平成二十三年 年頭所感
新年あけましておめでとうございます。本年が、国民の皆様一人ひとりにとって素晴らしい一年になりますよう、心からお祈り申し上げます。
菅内閣の発足から半年。成長と雇用による国づくりで元気な日本を復活させる。これを内閣の目標に掲げ、補正予算を柱とする経済対策を実施し、来年度に向け「元気な日本復活予算」を取りまとめました。安心と活気を拡大する精一杯の支援を盛り込んでいます。国民の皆様から広く理解と支持をいただき、国会で成立させなければなりません。そこで、年の始まりに当たり、私が目指す国づくりの方針、理念を改めて提示したいと思います。
一つ目の国づくりの理念、それは「平成の開国」です。新興国の台頭は、安全保障と経済の両面で世界の勢力図を大きく変えています。こうした状況にあって、留学生の減少に象徴されるように、我が国の内向き傾向が懸念されています。世界が地殻変動とも言うべき大きな変化に直面している中、従来の発想に囚われていては新しい展望は開かれません。私は本年を、近代化の途を歩み始めた明治の開国、国際社会への復帰を始めた戦後の開国に続く、「平成の開国」元年にしたいと思います。既に包括的経済連携に関する基本方針を定めました。これに則り、欧州連合や韓国、豪州との交渉を本格化させるとともに、環太平洋パートナーシップについて関係国との協議を行っていきたいと思います。
この第三の開国には過去の開国にはない困難も伴います。価値観が多様化する中、明確なビジョンを提示し、国民の総意を形成する努力を地道に積み重ねていかねばなりません。例えば、貿易自由化で農林漁業の衰退を懸念する声があります。私は、貿易自由化と農林漁業の存続が相反する目標であるかのような先入観を排し、新しい農林漁業の可能性を追求します。今年前半までに開国と農林漁業の活性化を両立させる政策を提示したいと思います。安全保障面では、東アジア地域に北朝鮮の問題や海洋の問題など不安定で不確実な状況があります。我が国自身が防衛面で努力しつつ、日米同盟を二十一世紀にふさわしい形で深化させ、国民の安心・安全に万全を期します。
私が掲げる二つ目の理念は、「最小不幸社会の実現」です。この国に暮らす皆さんに夢を存分に追い求めていただくためには、病気、貧困、失業といった不幸の原因をできる限り小さくすることが大前提となります。来年度予算は、子ども手当の拡充、求職者支援制度の創設、年金の安定確保などを盛り込みながら、事業仕分けの拡大により当初設定した財政健全化の目標も守りました。しかし、こうした努力だけで膨らむ社会保障の財源を確保することには限界が生じています。そもそも財政とは、国民が享受すべき生活の保障、活動の支援を分かち合いの精神で実現するためのものです。どのような仕組みがこの国に適しているのか、いよいよ国民的議論を深め、今年半ばまでに、社会保障制度の全体像と併せ、消費税を含めた抜本改革の姿を示したいと思います。
私が掲げる三つ目の国づくりの理念は、「不条理を正す政治」です。「平成の開国」、「最小不幸社会の実現」のためには、国民の信頼に足る政治が不可欠です。不公正や不条理をきちんと正す政治を行うことにより、政党や政権といったレベルにとどまらない、政治システム全体に対する国民の信頼を得て、大きな変革を推進することができると考えます。昨年、新卒者雇用、待機児童ゼロ、HTLV-1対策、硫黄島の遺骨帰還といった課題で特命チームを設けました。苦しんでいる人がいる不条理を放置するわけにはいかない。この私の政治家としての信条、民主党結党の精神を行動に移したものです。そして、一昨年の政権交代にも、従来の政治がなおざりにしてきた不条理を解消して欲しいという国民の期待が込められていたと思います。残念なことに、政治とカネの問題に対する私たちの政権の姿勢に疑問が投げかけられています。今年こそこの失望を解消し、国民の支持を受けた改革を断行していくことを誓います。
昨年、京都のジョブパークや新宿のハローワーク、芦屋の高齢者孤立化防止サービス、千葉や山形の若い世代も参加した元気な農業など様々な現場を視察しました。そこには、支え合って困難を乗り越え、夢を追いかけるために奮闘する姿がありました。姫路では、御自身も病気と闘いながら保護司を務めておられる方が「支援した若者が何とか通学し、卒業式を迎える日は我がことのように嬉しい」と語ってくれました。新宿のジョブサポーターは、担当した学生さんが「この方に出会って辛い状況を乗り越え、就職先を見つけることができた」と語る姿に涙を流して喜んでおられました。失業や孤立といった困難から立ち直ろうとする人に身を捧げる尊さ、地域で温かく支える力強さ、相手の視点で地道に応援する謙虚さ。献身的な姿に政権を担当する者として多くを学びました。
私の掲げた国づくりの三つの理念を結ぶのも、支え合い、分かち合いの絆だと思います。苦しいときに支え合うからこそ喜びも分かち合えるのです。国民の皆様と日本の絆を太く大きく育てる。そのような一年となるよう頑張っていきます。
平成二十三年一月一日
内閣総理大臣 菅直人