[文書名] 野田総理大臣によるビデオメッセージ(9月14日中国・大連におけるサマーダボス会議での「ジャパン・ナイト」)
「ジャパン・ナイト」にお越しの皆様、こんばんは。日本の新しい総理大臣になりました野田佳彦です。主催者を代表して、来場者の皆様に心より歓迎の意を表します。
東日本大震災が発生した運命の「3・11(スリー・イレブン)」から、半年を経(へ)ました。まず、大震災直後からこれまでに、世界各国から我が国に寄せられた数々の温かい御支援に、日本国政府を代表して感謝を申し上げます。
マグニチュード9.0という世界の歴史の上でも最大級の地震は、東北地方の沿岸部を中心に、巨大な津波による甚大な被害をもたらし、死者・行方不明者は2万人を超えました。それから6か月間経ちましたが、亡くなられた方々の家族や親類の「心の痛み」を癒(いや)すには決して十分な時間ではありません。
しかし、津波にさらわれた被災地のインフラや経済は、この半年の間に確実に立ち直り、復興へ向けた取組が着実に進められています。
この夏、東北地方の随所で夏祭りが行われたことはその象徴です。被災地の人々は、先祖代々続いてきた祭りを守り続けることで、犠牲者の魂を迎え、弔(とむら)い、そして、自らの復興への思いを新たにしています。日本国内外からも多数の観光客で賑わいました。これから東北地方の復興は、本格化していきます。
皆さん、是非、東北地方を訪ねてみて下さい。東北地方の産品を買ってみて下さい。東北地方の国際会議に参加してみて下さい。今、立ち直りつつある被災者の方々が必要としているのは、そうした支援です。東北のために、世界の方々のご理解とご協力をお願いいたします。
東京の首都圏を含め、被災地以外では、ほぼ震災前の日常が完全に戻っています。世界一の高さを誇る電波塔・東京スカイツリーは、震災中も高さが伸び続け、日本再生の象徴として、来年には営業が開始されます。日本経済も、円高の影響などが懸念されますが、震災自体の被害からは立ち直っています。一部の工場の被災で、製造業のサプライチェーンの途絶も心配されましたが、企業の頑張りで克服しました。電力の逼迫も心配されましたが、国全体を挙げた節電によってこの夏を乗り越えました。
歴史的な大震災で示されたのは、むしろ、日本の社会と技術の「強靭(きょうじん)さ」(resilience)でした。日本は、古来より、困難に直面するたびに、力強く立ち上がってきました。終戦の焼け野原から高度経済成長を実現し、オイルショックから世界最高の省エネ国家を築き上げました。今回の大震災も、新たな挑戦に向かっていく契機になるはずです。
私は、日本国民に、「今こそ、海外に雄飛して、世界の国々が抱える課題を解決し、人類の未来に貢献するという、大きな志を持とう」と訴えかけています。日本には、震災後も、世界に貢献する意思と能力があります。
震災後の混乱の中で、冷静な行動を示した被災者の話は、皆さんも聞かれたことがあると思います。女川町(おながわちょう)の佐藤水産の専務だった佐藤充(みつる)さんの話をご存じですか。3月11日、迫りくる津波を見て、会社で研修していた二十名の中国人の方々を真っ先に安全な高台に避難させました。佐藤さんは、その後、奥さんとお子さんを探しに戻ったところで津波に襲われ亡くなりました。異国の地で被災した研修生たちをまず助け、誰の隔(へだ)たりもなく注がれた助け合いの心は、中国でも称賛されていると聞いています。
被災地でも、暴動が起こるようなことは一切ありませんでした。困難の際に助け合う、気高い精神を日本人は持っています。こうしたことは、世界のどこにおいても見受けられる事象ではないのではないでしょうか。
高効率の発電技術、エネルギー効率の高い住宅や家電、電気自動車など、環境・エネルギーに関する技術力は、世界のトップレベルにあります。大企業だけではありません。キラリと光る技術を持った中小企業が日本には山のようにあります。
震災の後も、そうした技術への信頼は揺らいでいません。東北新幹線は、あれだけの大地震の後に自動停止し、被害は報告されませんでした。東北自動車道の復旧にも一か月もかかりませんでした。緊急地震速報という仕組みがあり、余震の可能性が直前に国民に通知されるシステムも完備しています。大震災の後だからこそ、大地震に備える日本の技術力やシステムの信頼性は証明されたともいえるものが多々あります。
原発事故の御心配をされる向きもあろうかと思います。事故当初に比べれば、放射性物質の放出量は1000万分の1になっています。原発周辺地域で既に飛散した放射性物質の問題には、除染の取組が地域を挙げて進められています。原発事故を完全に収束させることに私の内閣は全力を傾けており、世界の英知を結集することによって、これまで、想定した工程どおりに事態は推移しています。日本だけでなく、地震が発生する地域で原発は立地しています。この経験を発信することも、我が国が担うべき国際貢献の一つの形態です。
本日ここに集まられた世界中からの幅広い分野のリーダーの皆様とともに手を携え、被災地を復旧させ、日本をこれまで以上に素晴らしい国としていきたいと思います。世界各国の方々のご支援、ご協力を引き続きよろしくお願いいたします。
桜は、日本人が大好きな木です。私も大好きです。桜の花は、春になると必ず咲き、わずか一週間あまりの後に散ってしまうのですが、寒い冬を越え、春を迎えると必ずまた新たな花を咲かせます。そのため、多くの人が、時の流れを感じ、そして、「復活と再生」の象徴として思いを込めます。
日本には、1000年の樹齢を誇る桜があります。1000年に一度とも言われる大震災が起こりましたが、1000年の歴史をくぐり抜けてきた桜と同じように、日本と日本人は、また華やかな桜を咲かせるようになるでしょう。
皆様に、そうした期待を確かに感じてもらえる、素敵な夜となることをお祈りして、私からのメッセージとさせていただきます。