データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 平成23年度航空観閲式 野田内閣総理大臣訓示

[場所] 
[年月日] 2011年10月16日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

平成23年度の航空観閲式にあたり、隊員諸君らの使命感にあふれ、規律正しく、士気旺盛なるその挙措動作を直接目のあたりにして、本日の観閲官(かんえつかん)として、そして最高指揮官たる内閣総理大臣として、この上のない喜びであります。

 私は自衛官の倅として生まれ育ちました。小さい頃から、有事に備えて厳しい訓練に明け暮れている隊員の姿をたくさん見て参りました。様々な活動の最前線で献身的に活動している隊員の姿をたくさん見て参りました。平素から自衛隊をこの国の誇りとして思っておりました。改めて本日、隊員諸君のきびきびとした一挙手一投足を見て、改めて自衛隊に対する敬愛と信頼の念を新たに強くした次第であります。

 警察予備隊に始まり保安隊を経て、自衛隊として、これまで長きに亘り、我が国の平和と独立を守り、この国の安全を守る、その崇高な使命を果たして参りました。その中で、一番本質的な使命は、国民一人ひとりの「生命(いのち)」を守るということであります。その「生命」を守るという点において、3月11日に発災した東日本大震災、この発災に対応することが、自衛隊の真価が問われる時でもありました。

 その真価が問われる時に、隊員諸君は、見事に平素からの訓練を活かし、存分に力を発揮し、「勇気」と「真心」をもって期待に応えてくれました。10万人を超える態勢を組み、被災地の支援を全力で行いました。このことを通じて、多くの被災者の皆さんが、国民が、改めて頼りになる自衛隊を実感することができたと確信しております。

 10万人の態勢と申し上げましたが、それを支えたのは一人ひとりの隊員の意識の高さと真心であったと思います。

 津波に襲われ、生死の境をさまよっている皆さんの前に一番最初に現れてその皆さんの「生命」を救った。19,000人以上の尊い「生命(いのち)」を救うことができました。それを成し遂げたのは、諸君であります。

 厳しい寒さの中、加えて余震があるかもしれないという恐れの中、震えながら救援を待っている皆さんの前に一番最初に現れたのは、諸君です。食事、水を運び、毛布を運び、そして入浴支援まで行いました。行き届いた暖かい支援を成し遂げたのは、諸君であります。

 原発の事故に際しては、命をかけて、文字通り命をかけて、ヘリから、消防車から放水を行い、そして拡散した放射能の除染活動の先頭に立ち、避難者の支援・誘導を行い最前線に立ったのは、諸君であります。

 私はあるエピソードを忘れることができません。6歳の男の子が行方不明となり、その母親が、隊員に「何としても息子を探して欲しい」と頼みました。津波に流された自宅の下を徹底して探して欲しいという要請でありました。その要請に、隊員は懸命に応えようとしました。ぬかるみの中で、懸命にお子さんを探しましたが、見つけることは出来ませんでした。しかし、その6歳の男の子が一番大事にしていたウルトラマンの人形を見つけました。お母さんに渡すと、何度も泥を拭きながら、何度もお礼を言いながら帰られたそうです。私はこうした「真心」が国民に、被災者に届いたものと確信をしています。

 大震災のみならず、今年は集中豪雨等、様々な自然災害が発生しました。その度に人命救助と被災者支援の先頭に諸君は立ちました。今ほど日本の自衛隊に国民の期待と信頼が高まったことはありません。

 改めまして、最前線に立って汗をかいて頂いた諸君、裏方となって下から支えてくれた諸君、全てを私はこの国の誇りとし、この壇上から恐縮でありますが、改めて「ありがとう」と申し上げたい。

 我々が踏まえなければならないのは、自然災害だけではありません。いざという時にしっかりこの国を守れる自衛隊でなくてはなりません。

 挑発的な行動を繰り返す北朝鮮の動き、軍事力を増強し続け周辺海域において活発な活動を繰り返す中国の動き、我が国を取り巻く安全保障環境は不透明さを増しております。

 こういう時こそ、昨年の12月に閣議決定した新しい「防衛計画の大綱」に則り、迅速且つ機動力を重視した動的防衛力の整備が喫緊の課題であります。そのためにも、より一層の諸君の精励をお願いいたします。

 我が国のことは、我が国の安全は我々の手で守るという構えは当然必要でありますが、加えて外交努力も怠ってはなりません。

 日米同盟は、日本の外交・安全保障の基軸であります。そのことを今回の大震災の際の米軍の「トモダチ作戦」等によって改めて私達は実感することができました。幾歳月にわたる、日米関係の絆の強さを今回ほど感じたことはありません。

 さらに、21世紀に相応しい日米同盟を築いていくためにも、現場で皆さんとアメリカとの協力強化が必要になって参ります。

 さらに、今回の東日本大震災の際には、160を超える国から、40を超える国際機関から、暖かい御支援を我が国は頂きました。私は、先般の国連総会において、その感謝の気持ちを申し上げるとともに、世界に我々は「御恩返し」をしていく決意を表明をさせて頂きました。

 その一端を担うのが国際平和協力活動であります。ハイチ、東ティモール、ゴラン高原、ソマリア沖・アデン湾、等々で数々、自衛隊は実績を残して参りました。新たに南スーダンでどういう貢献ができるか、いま最終調査を行っているところでございます。国際社会から信頼される、尊敬される国となる為にも、こうした活動にも一層取り組んでいかなければなりません。

 最後に、中国の古典に『司馬法』というものがあります。「天下、安らかなりといえども、戦いを忘れなば必ず危うし」という言葉があります。平時においても、平和時においても、有事のことを忘れないで備えること、これはしっかりと我々の胸に刻んでいかなければなりません。

 そうした構えの中で、先ほど申し上げたとおり、今ほど国民の期待と信頼が自衛隊に集まっている時はありません。こんな時こそ、「兜の緒」を締めて自衛隊としての崇高な使命を果たしていくということを、ぜひ共有をしたいと思います。これから日々、しっかりと、この日本を、国民を守るために、さらなる精励をして頂くことを期待申し上げ、私の訓示とさせて頂きます。

 平成二十三年十月十六日

  内閣総理大臣 野田佳彦