データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ASEANビジネス投資サミットにおける野田総理挨拶

[場所] 
[年月日] 2011年11月18日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 日本国の内閣総理大臣、野田佳彦です。世界のビジネスリーダーの皆様に対して、日本経済の「今」と「これから」を発信する機会を与えて頂き、誠に光栄です。

 大震災から8か月あまりが経ちました。日本国民は、世界中からの温かい励ましに支えられながら、大震災からの復興を力強く進めています。被災地のインフラや経済も確実に立ち直りつつあり、首都圏を含めた被災地以外では、震災前の日常が戻っています。また、製造業のサプライチェーンもほぼ完全に回復し、世界への供給責任を果たしています。

 東京電力福島第一原発の事故についても、原子炉の冷却も順調に進んでいます。事故の収束は、想定よりも前倒して進んでおり、もはや日本でビジネスを行う大きな支障とはなっていません。

 古来、日本人は危機に強い民族です。危機を梃子にして、今、日本は新しく生まれ変わろうとしています。世界のビジネスリーダーの皆様に、この場を借りて、二つのことを訴えたいと思います。

 一つ目は、震災からの復興を進めるエネルギーは、我が国の経済成長を大きく後押しする、ということです。実際、IMFの予測によれば、2012年の日本経済は、先進諸国の平均よりも高い2.3%の成長が見込まれています。中小企業の活力をはじめとする日本の潜在力を解き放てば、予測よりも更に高い成長も可能だと私は考えています。

 これは、「被災地に大きな復興需要が生まれる」ということにとどまりません。復興のプロセスそれ自体が、イノベーションを生み出す大きな原動力となるということです。被災地が現在進めている「復興」は、単なる「復旧」ではありません。

 地域が持っている強みを活かし、農林漁業、再生可能エネルギー、医療など二十一世紀の成長分野で世界最先端のモデルを示し、それを実践することが復興の中心テーマとなっています。

 政府としても、大胆な規制改革や税制の特例を講ずる「復興特区」を設け、新設法人について法人税を5年間無税とする、といった大胆な投資促進策を準備中です。我が国は、復興を共に進めるパートナーとなる内外の企業の投資を歓迎し、そのための環境整備を急ピッチで進めていく考えです。

 二つ目は、我が国は、東アジア地域の一員として、各国との絆を深めていく強い決意を持っている、ということです。ダイナミックな成長を遂げるこの地域の経済統合の更なる推進は、すべての国の利益です。

 経済連携の強化は、「絆」の証です。我が国は、域内のヒト・モノ・サービスの円滑な流れを促し、企業のビジネス環境を整備するため、抜本的な国内改革を推進しつつ、率先して高いレベルの経済連携を進め、新たな貿易・投資ルールの形成を主導します。

 アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP(エフタープ))の実現の基礎となるTPP協定につきましては、我が国は交渉参加に向けて関係国との協議に入ることとしましたが、東アジア包括的経済連携構想(CEPEA(セピア))、東アジア自由貿易圏構想(EAFTA(イーフタ))といった広域経済連携についても積極的に推進していきたいと考えております。このために、ASEAN各国とも引き続き密接に連携していきたいと考えております。

 また、先ほど行われた日・ASEAN首脳会議において、我が国はASEAN連結性強化に向けた支援を、官民一体となって、より一層強化していくことを表明いたしました。こうした取組を通じ、今後も、ASEAN諸国とともに成長していきたいと考えております。

 頻発する自然災害への対応に加え、大気や水の汚染、地球温暖化問題、エネルギー制約、食料価格の高騰など、この地域が共通で抱える課題は、今後の発展の制約要因になりかねません。特に東日本大震災やタイにおける洪水は、サプライチェーンにより日本とASEANの経済が一つであることを改めて明らかにしました。我が国は、蓄積してきた技術とノウハウを活用し、官民が連携してその解決に積極的に貢献することを通じて、この地域との「絆」を深めてまいります。

 日本の復興は、東アジア地域との「絆」なくしてありえません。また、東アジア地域の確かな未来は、日本の貢献なくしてあり得ません。

 日本経済は、復興を梃子にして、再び力強く立ち上がり、成長の道を歩みます。そして、イノベーションを通じて、より良き世界を作るための貢献を続けます。世界のビジネスリーダーの皆さんも、日本の復興の歩みに参画いただき、ご一緒に、東アジアの未来の扉を開いていこうではありませんか。

 ご清聴ありがとうございました。