[文書名] シンポジウム「社会保障と税の一体改革について」基調講演
どうも、皆様、こんにちは。ご紹介をいただきました野田佳彦でございます。
今日、皆さんは学生でございますから、二十歳前後の方が多いと思うんですよね。皆さんが生まれてからのだいたい20年。失われた20年という括りで言われています。これについての評価を先般、1月6日のニューヨーク・タイムスで面白いコラムが出ていたんです。日本は、失われた20年と言われているけれども、例えば、平均寿命は世界一長い上に、まだ、延びている。経常収支はずっと黒字じゃないかと。今回、31年振りに貿易収支は赤字になりましたけれども、経常収支、ずっと、黒字基調で来ているじゃないかと。インターネットの高速のサービスは、アメリカよりも進んでいるじゃないかと。ミシュランのレストランのトップクラスの評価は、パリより東京のレストランの方が多いぞと。いろいろ書いてあって、何だかんだと言って、きちんとマネージメントができているんじゃないかという感じのコラムなんですね。まあ、あまり、ちょっと良い所ばっかり取り出していて、思はゆい感じがしました。ただ、悲観することばかりでなくて、そういう強みをこれから生かしていかなければならないと思うんですが。
私は、そのニューヨーク・タイムスのコラムの失われた20年の評価よりも、去年の7月のエコノミストに出ていたそちらの評価の方が、大変、ショッキングであり、自分の問題意識に近いと思っているんです。それはエコノミストにですね、イラストが出ていまして、出ているのは、オバマとドイツのメルケルなんですね。オバマが着物を着ています。メルケルも和服なんです。カンザシ挿しているんですね。おまけに、その後ろに富士山が見えるとそういうイラストの中で、どういうことが書かれているかというと、いわゆる、「先送りをする政治」、「決断できない政治」というのが欧米に広がっている。例えば、ヨーロッパだと、欧州の債務危機に対する対応。メルケルですね。大きな責任を持っている。アメリカは、欧州の問題ではなくて、いわゆる債務上限問題。これがどういうことになるかという時に、オバマがなかなか決断できないという状況で、そういうイラストが出ていました。なんで、和服で二人が出ていて、富士山も出ているかというと、その文章を読んでいくと、「先送りをする政治」、「決断できない政治」というのは、まさに、日本化として書いてあります。日本が象徴的な存在として、まさに、失われた20年中で決断せずに先送りをしてきたという政治の象徴で、日本化という形で書かれておりました。こちらの方が衝撃的だったんです。その先送りをしてきた最大のテーマが社会保障改革とそれを支えるための消費税を含む税制の抜本改革。この改革をずっと先送りにしてきたことに、私は強い危機感を持っているわけでございます。
今日は、そのことを中心にお話しをさせていただければと思います。社会保障は、これはもう、あまりにも私たちの暮らしに身近すぎるので、意識しないこともあるんですが、特に、若い人の方は意識できないですけれども、これは、我々の暮らしを支える、あるいは、経済全体を支える大黒柱のような存在であります。例えば、皆さんがお腹が痛くなった、頭が痛くなった、お医者さんにかかります。これ自己負担3割で済みますよね。保険証を持っていけば、どの医療機関でも診療することができます、という便利な医療制度であります。これは、欧米と比べての評価、いろいろあるかもしれません。いろいろあるかもしれませんけれども、世界に冠たる国民皆保険の制度によって、この医療制度は支えられていて、医療の水準、レベルについてもこれも、いろんな評価があるかもしれないけれども、世界一で平均寿命が長い国になっているし、そして新生児の死亡率は、世界で一番低いという意味では、医療のパフォーマンスっていうのは、一定の評価ができると思うんです、という医療を我々は持っていると、もう一つは、年金。年金というとこれも更に学生の皆さんにとっては迂遠な存在かもしれませんけれども、でも年を取った後の老後の生活の基盤になっています。
高齢者の大体の平均の年収が300万、そのうちの220万円が年金収入。とういうことは、高齢者における収入の約7割が年金、しかも年金だけで暮らしているという高齢者の世帯は、全体で6割というように年金によって老後の生活は間違いなく支えられています。皆さんが、おじいちゃんやおばあちゃんからお年玉、お小遣いを貰ったことがあると思いますが、それはおじいちゃん、おばあちゃんの年金から出ている可能性も大きいわけで、年金によって老後は支えられているということであります。
介護は、昔は親を子どもが面倒を見る、最後は、そしてお嫁さんが支えるという構造だったんですが、介護保険制度ができて、民間事業者が介護のサービスを提供するようになりました、というように医療、年金、介護と、それぞれ我々の暮しには欠かせない存在になっているんです。加えてですね、この医療や介護の分野というのは、内需を支えて、そして雇用を支えるそういう存在感も、今出てまいりました、この10年間で医療・介護分野においては、雇用が150万人増えています。土建業界は、100万人減ってます。というように医療・介護の分野というのは、経済をも支える存在になってきているし、iPSの細胞であるとか、あるいは介護ロボットであるとか、医療・介護のイノベーションを通じて、成長に繋がるということも、大いに期待できる、我々の暮らしと経済と大きく関わりあるのが、この社会保障でございます。問題なのは、問題なのは今日学生の皆さんでありますけれども、若い人との社会保障の関わりが今、意識として強く持てないところなんですね、だけど、これからはそうではいけないんです。
現実、社会保障の給付費は、100兆円なんですが、その100兆円のうちの7割は、年金と高齢者の医療と介護に消える。ということは社会保障というのは、お年寄りのためにあるんじゃないかと思われがちなんです。だけども、これからは、後で人口構造の問題申し上げますけれども、社会保障は若い人たちも強く意識できるように、その受益というものが実感できるようにしていくことが、持続可能性という意味からはとても大事ではないかなというふうに思っています。その社会保障制度が残念ながら今、足元で大きく揺らいできています。どういう揺らぎがあるか、これは一つには、人類が経験したことのない超高齢化社会に入ってきたということです。しかも、団塊の世代と言われる人たちが、支える側から支えられる側に今、移行しつつあるという中で、高齢者が増えるということは、年金、さっき言った高齢者の医療等お金がかかりますよね。どんどん高齢者の厚みが増えるということは、お金がどんどんかかるということです。
これ、今の社会保障制度を持続させるだけでも、毎年1兆円超える額が増えるんです。自然増で。1兆円ってイメージ沸きます、豆腐の1丁じゃありません。1兆円、1兆円って1万円札を平積みをしていくとどれ位の高さになると思います、
1万メートル。1万メートルって想像つきます、エベレストより高いんです。JALやANAが飛んでる世界ですね。1万メートル、1万円札、平積みでですよ、積んで行って1万メートルになるんです。
重さはどうでしょう、1兆円、1万円で。
1万円札は1グラムなんですね、1グラム1兆円、あの、1万円札1グラムですから、そうすると1兆円は100トンなんです。
あの私も0.1トンありませんけど、100トンは持ちきれないですよ、とても、使ったらどうでしょう、1兆円。毎日、宝くじが1千万円当たるとする。いろんなこと出来ますね、海外旅行に行こうとかね、1千万円あったら、いろんな夢が叶うと思いますよ。1千万円を毎日使っても1年間で36億5千万ですよね、1兆円を使い切るには300年間必要ですから、毎日1千万。
高齢化によって自然増って、1兆円って、それぐらいの額なんですよ、ものすごいでしょ、という状況が、今、生まれてる。その自然増を1兆円毎年増える分を支えるために、じゃあもう公共事業は伸ばせないな、防衛費は伸ばせないな、他の所を抑えなければならないような、今、予算編成をしなければならなくなっているというのが現状でございます。
二つ目は、超高齢化と同時に、少子化、やっぱり子供の数が段々少なくなっているということ。出生率は少し改善の兆しがございますけれども、少子化に歯止めがかかるという状況ではありません。先ほど清家塾長が言われたような、今の少子化の流れなんですが、今の社会保障の根幹である国民皆年金、皆保険ができたのは、昭和36年ですから、今から50年前ですね。50年前に制度として作られた、設計された頃の人口の構成というと、1人のお年寄りを大勢の元気のいい働き盛りや若い人が支えている状況でした。いってみれば、胴上げをしているような社会なんです。今は支える側が3人、支えられる側が1人という状況、あの、運動会で騎馬戦をやったことがあると思いますが、あの感じですよね、騎馬戦。3人で1人を支える。でも、皆さんが高齢期に入る頃、2050年、これは1人が1人を支える時代ですね。1人が1人を支えるということは肩車です、肩車、下の人は大変ですよ、病気になったらどうするんでしょう、貧乏でお腹減ってたらどうするんでしょう。1人が1人を支える社会は、これは大変な時代であります。そういう、今、人口に変化が起こっているということも足元のその社会保障の基盤が揺らいでるもう1つの原因なんです。
もう1つ、さらに、残念ながら、その昭和30年代、国民皆年金、国民皆保険、社会保障制度の根幹ができた頃は毎年10パーセントぐらい経済が成長するような時代。今は低成長の時代となりました。社会保障の基盤が作られた頃の、まさに経済の状況は今、また、3作目が作られた「三丁目の夕日」の時代ですよね、ご覧になったことあります?「三丁目の夕日」。私は1作、2作、観て大変感動して、是非3作目も観たいと思っているのですが、なかなか時間がなくて行けませんけれども、鈴木モータースの社長の、あの元気さ、皆あんな元気でバリバリ、今日より明日が良くなると皆が思っていた時代なんです。
「三丁目の夕日」の時代、あの薬師丸ひろこが、昔はセーラ服が似合ったんだけど、今はいいお母さん役になりましたね、今度は堀北真希が結婚するみたいですね、3作目。薬師丸ひろこから堀北真希までストライクゾーンの広い野田としては、なんとしても観たい映画なんですが、それは何と言っても、あの時代を皆さんに感じてほしいんです。今の時代に比べれば、貧乏だったけれども、今日より明日は良くなるぞと、皆が夢を持って希望をもってた時代なんです。だけど少なくとも、この失われた20年というのは、今日より明日は良くなるのかなと、ならないんじゃないかなと、思っている人がいっぱい増えた時代になってきているということであります。
何が言いたかったかと言いますと、成長が変わってきたんですね、経済成長。それからもう1つはですね、昨今はやっぱり貧困格差が拡大してきていると思います。残念なことでありますが、相対的貧困率はアメリカについで2番目、格差も、例えば働いているうちの6割が正社員ですから、格差も、例えば、働いている人のうちの6割が正社員ですから4割が非正規雇用という形になっています。
非正規雇用という不安定な立場になると、例えば、正社員と非正規だと、あるデータによると、結婚する率も倍くらい違うんですね。結婚しない、そして家庭を持たないというような傾向がだんだん生まれつつある。
私も3年ほど前ですが、「遺児と母親の全国大会」というものに出たことがあります。お父さんが災害とか交通事故とかあるいは自死、自ら命を絶ち切ったりして、残されたお子さんとお母さんの会なんですが、そこでの悲痛な叫びというのがですね、お母さんが病気になった、働けなくなったら、子どもたちは途中で学校をやめざるを得ない。あるいは進学しないという選択をせざるを得ないという話をたくさん聞きました。実際に、今、あの生活保護世帯、このうちのですね、4分の1は生活保護世帯で育ったら次も生活保護になるという、そんなデータもでてまいりました。これは貧困の世襲です。政治家の世襲もいろいろ問題があります。問題があります。三世、四世、ルパンじゃありません。でももっと問題なのは、貧困の世襲ですね。そういう問題が今でてきている。人口の問題とかいろいろありますけれども、こういう問題にも気配り目配りしていかなければいけないというふうに思います。
非正規の社員が増えて、そして結婚をしない、家庭を持たないということは、単身世帯がこれから増えてくるということです。孤立化です。孤立化が出てきたときに、どういう社会保障があるのかということも考えていかなければなりません。そして何よりもですね、大きく変わったのが、財政なんです。20年前、例えば、平成2年の財政状況、どうだったかというと、支出、国が払う一般会計の歳出は約70兆円だったんです。入ってくるお金、税収、これ、今までの日本でピークです。60兆円位ありました。税収。法人税、消費税、いろんな税金が入って60兆円。平成2年というのは、これ、日本の財政にとっては出る方と入る方が一番近づいている瞬間なんですね。だけど、それからの20年はどうかというと、出る方が右肩上がりなんです。社会保障にかかるお金も増えてきた、一時は公共事業に頼っていろんな経済対策もあったけど、最近はまさに社会保障です。右肩上がりなんですね。約70兆円から右肩上がりで、今、90兆円台の予算を組んでいます。
入る方はどうか。60兆円がピークにあった税収が今、どんどんどんどん右肩下がりなんですね。今、約40兆円です。入ってくるお金が。ということは出る方は右肩上がり、入る方は右肩下がり、この姿をワニの口と言います。ワニの口のように広がってきた。しかもリーマンショックの後はそれがまたパカッと開いたんです。ワニの口の先の上唇と下唇がまたパッと開いた。それをどうやって今閉じようかというそういう局面にあるということであります。というように、社会保障をめぐる環境が、いろんな意味で大きく変化をしてきているということであります。そこでやらなければいけないのが、社会保障の改革なんですね。これは避けては通れません。
まず年金は持続可能なものにしていかなければなりません。例えば、基礎年金の国庫負担を、国庫負担、公費による負担ですね。これを今までの3分の1だったものを2分の1に引き上げることに決まっています。決まっていますけれども、それを支えるための財源がないから、毎年苦労してまいりました。それをどうするかということが課題として残っています。あるいは、サラリーマンの方が入っている厚生年金と、公務員の皆さんが入っている共済年金と、それを統一化していった厚生年金の強化をしていこうという話もあります。こういうような、年金の改革をやっていかなければいけないし、将来はまた、新しい年金制度、今、我々は訴えていますけれども、そこに至る以前にも年金をきちっと安定化させるための措置を講じていかなければいなりません。それから医療、介護の分野においても、これも大学の病院や介護施設であるとか、あるいは診療所や病院と連携をしながら、小学校、中学校単位できちっと地域や、あるいは、地域において医療や介護のシステムを一つの完結した姿につくろうという動きをしなければいけないとか。
そのような中で、特に考えていかなければいけないのが、年金や医療や介護だけではなく、さっき、これからは、一人の人が一人を支える肩車の時代といいました。だとすると、支える側の人たちが、きちっと生活をしていける環境をつくらないと、社会保障っていうのは成り立たないんです。すなわち、全世代に対応できるような、そういう社会保障を考えていかなければなりません。若い人たちも、社会保障によって受益があるという実感が持てる社会に変えていかなければなりません。それが一つには、もうちょっとみなさんが年齢が高くなっていくと結婚されたりすると思います、お子さんができると思います。そのための子育ての問題ですね。今、例えば、民主党の政権になってから、子どもを育てるために、子どものための手当というものをつくりました。現金で給付するというもの。これは与野党の議論があって、一定の規模までになっていますけれども、現金の給付とともに現物の給付でも支えていかなければなりません。それは、例えば、待機児童を解消するということ。幼稚園の方は空いている、保育園の方は満杯になっている。これをきちっとうまく組み合わせをすることによって、進めて行って、待機児童解消とか、色んな政策があるんですけれども、皆さんが望めば、子どもを預けられるような社会にするということ。これは人生の前半の社会保障の中の一つの大きな柱だと思います。
それからなんといってもこれから皆さんの関心があるのは、就職でしょう。就労対策だと思うんです。せっかく大学に入っても、落ち着いて勉強する間もなく、キャンパスライフを楽しむ間もなく、すぐに就職活動をしなければならないということ、ありますよね。だとすると、もっと落ち着いて大学で勉強できるように、就職活動する時期ももうちょっと後でいいような、そんないわゆる就職慣行を見直していくとか、あるいはここにいらっしゃる皆さんのライバルは、慶応大学の仲間がライバルではありません。ライバルはどこにいるか。ニューヨークにもいる、北京にもいる、ソウルにもいる、デリーにもいる、サンパウロにもいる。グローバルな世界の中で、本当に活躍できる人材を作っていくような、そういう視点の中から、この6月までに、若者のいわゆる雇用戦略、就労戦略というものを作る予定でございますが、そういうものにも力を尽くしていかなければならないという状況であります。人生前半のあえて言うならば社会保障も、しっかりとサポートしていくことによって、全世代の社会保障を構築することによって、その持続可能性を担保していくと、そういうような改革をしていかなければなりません。
問題は、そうした社会保障の改革を、支えるための財源をどうするかなんですね。財源、それはお金がなくては、支えるものがなくては、様々なサービスを実現することができません。「負担なくして給付なし」。これが原則だと思います。いまは様々な社会保障のサービスを、税金や保険料では足りないから、赤字国債に頼って、そのサービスを行っているという現状です。それは将来の世代のポケットに手を突っ込んで、そこから前借りをしているのと同じです。「負担なくして給付なし」、という大原則に基づいた、社会保障の整備をしていかなければいけないというそもそも論が、まず第一点あります。もう一つは、現実の問題として、いま欧州の債務危機が言われています。何が問題かというと、財政が厳しくなった、それに対して国家の信用が失われているではないかという疑念から、生まれている危機でありますね。これは対岸の火事ではありません。日本は、国と地方の借金の債務残高、先進国の中では、GDPに比べれば、世界で最悪の水準です。その国が財政規律を守りながら、社会保障を支えられるかどうかということが、問われています。これは対岸の火事じゃありません。
日本にもしかしてスポットライトが当たって「日本の財政大丈夫か」というときに疑念が生まれて、そこでマーケットに不安が生まれるような状況になったら、これ大変なことになります。私の立場でマーケットのリスクを語ることは控えたいと思いますけれども、例えば、今国債の金利というのは、だいたい1%程度で低いレベルで推移しています。この金利がもう1%上がったらどうなるか。1%上がると、利払いだけで当該年度で1兆円の利子が増えるんですね。利払いだけで。1兆円ってさっき申し上げた通りです。高さ1万メートルですよ。重さ100トンですよ。毎日1000万円使って300年間かかるお金。利払いで、1兆円増えるんです、利子が1%というのは。2年目には2兆円台です。3年目には4兆円台になります、その利払いの増加額は。利子だけで4兆円もさらに金を払わなければならなくなる。
今の公共事業も、教育のための予算、文教の予算も慶応大学も関わっていると思います。そういう予算も防衛の予算も、だいたい4兆円台です。金利が1%上がっただけで、3年後には4兆円の利払い増が生じる。教育も飛んじゃう、防衛も飛んじゃう、公共事業も出来ないということになってしまう。そうならないようにするために、財政規律を守りながら、社会保障を支えなければなりません。そのために必要な措置というのは、安定財源を確保すること。赤字国債ではないとするならば、どの税金がいいのか。日本の基幹税は、所得税・法人税・消費税ありますが、一番景気動向等を踏まえても安定した財源としてカウント出来るのは、消費税。公平な税金である、この消費税によって、社会保障を私どもは支えていきたいというふうに考えているわけであります。
お子さんからお年寄りまで、これオールジャパンで出すお金です。そのことによって、全世代対応のための社会保障を基本的には支えていきたいと。既に政府・与党として2014年の4月から8%、2015年の10月から10%に引き上げる素案をまとめさせていただきました。これは社会保障を安定させ、あるいは一部によっては機能強化させていくための、まずは一里塚の改革でありますが、この改革を是非やり遂げていかなければ、さっき言ったように「負担なくして給付無し」というそもそもの、いわゆる世代間の公平感を保つことは出来ないし、さっき申し上げた今のいわゆる欧州の債務危機じゃありませんが、財政規律を守っていいかなければいけないという要請にも応えることが出来ません。
そうした意味から消費税を財源としていきたいと考えているわけであります。それに加えて、消費税だけではなくて、税制の抜本改革がですね、所得税も最高税率を上げる。相続税も今までは相続対象者の税金を払うか払わないかという対象者100人のうち、4人の方が相続税払っていたんですね。今度は6人の方に払ってもらうという改革もしようとしています。やっぱり中間層の重心がやや低めに落ちてきている時に、比較的高い所得層あるいは資産を持っている方に、そちらをサポートしてもらう改革も、今あわせて必要になってきているのではないかと思います。
私はですね、自分の哲学というのは、人類が獲得した価値というのは、命がけで獲得したのは「自由と平等」ですよね。場合によっては自由主義という右足を出さなければいけないときもあります。社会主義統制経済みたいなものが跋扈しているときは、自由主義という右足を出す時がある。だけども、格差の問題とかクローズアップされてきている時は、平等という左足を出さなければいけないときもあると思います。右足と左足を交互に出していくことが、私は政治の進歩だと思っております。
そういう意味では、今の時代の流れというのは、今申し上げたような税制改革というものをやり遂げていかなければいけないのではないかと思います。これらのことを一括して実現をするためには、国民の皆様の理解がなければいけません。特にこれからを担う若い世代に、ご理解をいただかなければなりません。そのための説明の機会を、これからもしっかりとっていきたいと思うんですが。というのは、今申し上げたようなことは、政府だけで考えていることだと、これ政府の「そろばん"勘定"」なんですね。問題は、もう一つ大事な感情があるんです。「国民"感情"。」
「そろばん勘定」と「国民感情」が噛み合ないと、この改革は進まないんです。その国民感情の中で一番大事なのは、まさに若い人達の感情なんです。今抱えている、この社会保障の問題を直視し、自分たちのこととして捉えていただけるかどうかなんです。それがまさに、これらの一体改革を成し遂げられるかどうかの、私は生命線であるというふうに思っています。
今日は短い時間だったので、十分にその意を尽くした説明を出来ていないかもしれませんけれども、ぜひこれからもこのテーマについては、自分たちのこととして関心を持っていただいて、ニュース報道にも接していただきたいと思いますし、皆さん同士の間でも大いに議論を深めていただければありがたいなというふうに思っております。
私の内閣は元々、大震災からの復旧復興、原発事故との戦い、経済の再生、やらなければいけない課題があります。だけど、今申し上げた税と社会保障、社会保障と税の一体改革は、これはもう待ったなしなんです。前から起こっていた危機、まさに失われた20年と言われてきた中で、冒頭の話になりますけれども、先送りしてきた、決断しないまま来た、そして大きな問題になってきたテーマなんです。これを放っておくと、雪だるまが下り坂を転がるように、大きな大きな玉になっていってしまって、持ち上げていくことはもう出来なくなってしまいます。そうならないためにも、私の政権の時に結論を出したいと思っております。
こんな話をしても、あまり拍手喝采を浴びることはありません。負担を求める話ですから、それはなかなか納得してもらえないんです。だけども本当に今生きている若い世代、将来の世代を慮った時に、「今さえ良ければいい」という政治をやっているわけにはいかないんですね。これからのことを考えた、未来を慮った政治をやらなければなりません。その流れを私は作り出していきたいと思っております。
慶応大学の皆様のご理解を、改めてお願いを申し上げて、私からのまずはプレゼンテーションとさせていただきます。どうもありがとうございました。