[文書名] 沖縄全戦没者追悼式 総理あいさつ
平成二十四年 沖縄 全戦没者追悼式が挙行されるに当たり、戦没者の御霊に対し、謹んで哀悼の誠を捧げます。
人間が犯してきた罪深い戦争の中でも、ひときわ苛烈で凄惨な戦闘だったと言われる沖縄戦から、六十七年目となる初夏を迎えました。
鎮魂の思いを語るに当たり、あの悲惨な日々を心に思い描くことから始めなければなりません。紺碧の海と空を黒々と埋め尽くした軍艦や爆撃機から、昼夜を問わず轟き続ける閃光と爆音。幾万の住民が戦火の只中に投げ出され、多くの尊い命が奪われていきました。
戦争という人間自らが引き起こす災禍において、いかに人間の尊厳が踏みにじられてしまうのか。人間が人間らしさを失ってしまうのか。そうしたことを思い知らされる、筆舌に尽くしがたい出来事の数々が起こりました。私たち日本人は、美しい沖縄の大地に刻まれた悲惨な歴史を決して忘れてはなりません。
終戦から六十七年、沖縄の本土復帰から四十年を経ました。この間、沖縄の皆様は、たゆみない努力を重ね、数多の困難を乗り越えて、力強い発展を実現してこられました。
沖縄の苦難の歴史に思いを馳せるとき、私は、大田実中将の最期の言葉を思い起こさずにはいられません。
「沖縄県民斯く戦えり。県民に対し、後世特別の御高配を賜らんことを。」と結ばれた電信文に込められた、祈りにも似た悲痛な願いです。
そして、私たちは、常に問い返さなければなりません。
沖縄の皆様の抱く思いを、全ての日本人で分かち合おうとする格別の努力を尽くしてきているだろうか、と。
戦争の惨禍を二度と繰り返さないために、国の安全保障に万全を期すことは、国政を預かる者の務めです。その責務は、わずかなりとも疎かにすることはできません。
他方、現在も沖縄に米軍基地が集中し、県民の皆様に長年にわたり多大な御負担をおかけしている事実は、慙愧に堪えません。基地負担の早期軽減に全力を尽くし、具体的に目に見える形で進展させることを改めてお誓いします。
今日の我が国の平和と繁栄は、戦没者の犠牲の上に築かれています。祖国の未来を次の世代に託さざるを得なかった戦没者の悲痛な思いを受け継ぎ、我が国は、不戦の誓いを堅持いたします。そして、国際社会の一員として、国際平和の実現を不断に追求してまいります。
この地に眠る御霊の御冥福と、御遺族の方々の御多幸を心からお祈り申し上げ、私のあいさつといたします。
平成二十四年六月二十三日
内閣総理大臣 野田佳彦