[文書名] 第四十七回自衛隊高級幹部会同野田内閣総理大臣訓示
本日ここに、「国を守る」という重い責任をその双肩に担う幹部諸君を前に、直接に話をする機会を持つことができ、誠に喜ばしく思います。
まず初めに、最高指揮官たる内閣総理大臣として、日頃から、国を守る気概を胸に秘め、常に緊張感を持って職務にあたっている諸君に深甚なる敬意と感謝を表したいと思います。
今、我が国を取り巻く安全保障環境は、かつてなく不透明さを増していることは、皆さんに敢えて申し上げるまでもありません。
人工衛星と称するミサイルを発射するとともに、核開発を行う北朝鮮。軍事力を増強し、周辺海域で活発な活動を続ける中国。同じく極東地域での活動を活発化させるロシア。世界全体を見渡せば、テロリズムの脅威や大量破壊兵器の拡散といった事態も看過できません。
こうした状況は、我々にとって、何を意味しているのでしょうか。
それは、自衛隊の負うべき「責任」と、自衛隊に託される「期待」が、かつてなく大きくなっている、ということであります。
自衛隊の負うべき責任。それは、我が国の独立と平和を守り、国民の生命・財産を守る、ということです。そのために、有事に備える、ということです。
東日本大震災にあたって随所で「想定外」という言葉が語られました。しかし、皆さんは国家の安全を守る最後の拠り所です。国防に「想定外」という言葉は許されません。
我が国の周辺環境の冷徹な分析。「動的防衛力」を裏付ける各種装備や体制の充実。日米同盟の深化・発展をはじめとする、各国との信頼関係の増進。国際的な平和協力活動による世界への貢献。そして、日々の警戒監視と、たゆまぬ自己鍛練。
そうした自衛隊の持てる能力を最大限に発揮する努力を尽くし、日々の備えに万全を期していかねばなりません。
その大きな責任をそれぞれの司(つかさ)で担っているのが、ここに集う幹部諸君であります。その責任の重さを、改めて肝に銘じていただきたいと思います。
そして同時に、皆さんは、部下の隊員を統率する責任も負っています。組織や部隊を動かし、究極的には、部下の命さえも預かる立場にあります。リーダーたる皆さんに何よりも求められるのは、部下との厚い信頼の絆で結ばれることです。
「やってみせ 言って聞かせて させてみせ 褒めてやらねば 人は動かじ」 ―― かつて山本五十六が遺した言葉と言われますが、その言葉には続きがあります。
「やっている 姿を感謝で見守って 信頼せねば 人は実らず」
リーダーは毅然とした態度で、やるべきことを率先垂範する。そして、感謝と信頼の心で部下と結び合う。このことは是非とも、心に留めておいていただきたいと思います。
自衛隊の負っている責任の大きさは、国民から託される期待と信頼の大きさの裏返しです。
戦後67年、自衛隊の在り方を巡っては様々な議論がありました。その推移を幹部諸君はこれまで肌で感じてきたはずです。しかし、今、多くの国民が自衛隊とその活動ぶりに大きな信頼を寄せるに至っています。これは、諸君のこれまでのひたむきな努力と実践が実を結んだ結果でもあります。
私は、国民の自衛隊への期待と信頼を確かなものとするには、「国民に寄り添う」という真摯な姿勢が不可欠であると考えています。
東日本大震災での諸君らの活躍は、実に目覚ましいものがありました。10万人規模の災害派遣は実に整然と展開され、極限的な状況のもとでも、被災者に対する思いやりを失わず、さらには亡くなられた人に対しても礼を失わないものでした。
災害の多い日本において、これからもどこかで災害派遣を求められるでしょう。その際には、常に被災者の心に寄り添う支援に努めて欲しいと思います。
一方で、先日、防衛省の関係部署が、当局の捜査を受けたことは、本当に残念です。一部の者の行為が、自衛隊全体への信頼を傷つけかねないことを肝に銘じ、一層の規律の保持に取り組んで欲しいと思います。
国民の心に寄り添い、その大きな期待に応え、果たすべき責任を毅然として果たしていく。
そうした国家の「守護神」であってほしい。日本国の「誇り」を体現する存在であってほしい。
そして、誰からも愛され、頼られる自衛隊であり続けてほしい。
そうした私の心の奥底から湧き上がる、自衛隊と幹部諸君に対する感謝と期待と信頼の念を改めて申し上げて、私からの幹部諸君への訓示といたします。
平成24年9月11日
内閣総理大臣 野田佳彦