データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] TICAD V開会式安倍内閣総理大臣オープニングスピーチ

[場所] パシフィコ横浜会議センター
[年月日] 2013年6月1日 8:30-9:45
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

 アフリカ各国首脳の皆様に、心より、歓迎の意をお伝えします。今日から3日間、皆様と一緒に、アフリカの開発を語り合えますことを、待ち望んでおりました。

 私はAU委員会、国連、世銀、UNDPの共催者を代表し、ここに、TICAD Vの開会を宣言いたします。

1. OAU/AU50周年を称える

 皆様、今年、TICADは20周年を、そしてOAU/AUは、ゴールデン・ジュビリー(創立50周年)を迎えました。平坦ではない道のりでしたが、よく、ここまで、歩んできたと思います。

 次々独立した、アフリカ諸国が、大きな期待をこめて、OAUを作ったのは、1963年です。

 日本が、東京五輪を開いたのは、その、翌年でした。エチオピアの、アベベ選手が、マラソン2連覇の偉業を成し遂げ、人々に、アフリカの力を教えました。

 そして、閉会式の日に、まさしく、時を同じくして、北ローデシアが、ザンビアとして独立したのです。

 新生ザンビアの国旗が、世界に向けて、初めて打ち振られたのは、皆さん、東京オリンピックの、閉会式においてだったのです。

 それから50年。開発計画の、挫折と、累積債務、貧困と、紛争、アパルトヘイトなど、アフリカは、数々の苦難を、乗り越えねばなりませんでした。

 しかし、わが日本は、アフリカの未来を信じ続けました。国際社会が、ポスト冷戦の状況下、アフリカを忘れかけた1990年代、日本のみは、アフリカの発展を信じ、TICADを始めたのです。

 TICADを通じて、一貫して、訴えたのが、「自助」と、「自立」の重要性です。そして、あくまで、「成長」を、重視する発想です。

 貧困は、成長によって克服できると考えることは、私たち日本人には、当初から、自明でした。それは、アフリカの潜在力を、疑わなかったからでもあります。

 自助・自立、成長重視。いまや力強い前進を続けるアフリカから、この2つを熱望する声が、澎湃と上がるのを見るにつけ、私は、TICADの行き方は、間違っていなかった、TICADが夢見た未来は、いまや実現しつつあるのだと、誇りをもって、宣言したいと思います。

 さあここで、OAU/AU50年の歩み、TICAD20年の道のりに、改めて、祝福を与えましょう。どうか、ご起立をください。そして、拍手を、ご一緒にお願いします。

 そして、かつて、アフリカ勃興を、世に知らしめる舞台となった東京オリンピックが、2020年に、再び開けますよう、皆様の、ご支持をお願いします。

 ここも、拍手を頂きたいところであります。

2. 3.2兆円の支援パッケージ

 いま、アフリカに必要なものは、民間の投資です。それを活かす、PPP、すなわち官民の連携です。

 これを、新たなリアリティとして認めると、アフリカ支援のやり方は、一新しなければなりません。どう、一新するのか。その答を、ご提示します。初めに、総額からです。

 今後5年間で、わが日本は、最大約3.2兆円、320億ドルの官・民の取組みによって、アフリカの成長を支援します。ODAは約1.4兆円、その他官・民による資金は約160億ドルです。また、最大20億ドルの、貿易保険を引き受けます。

 今回、準備のプロセスで、私たちは、いま最も力点を置くべき分野は何かを、アフリカ各国に聞きました。答えは、いつも同じでした。インフラ整備、産業人材、保健、農業です。そしていつも、鍵は、「人づくり」です。これは、日本が力を発揮したい分野です。

3. 6500億円のインフラ投資

 まずインフラ整備です。我が国は今後5年、約6500億円、65億ドルを投じます。

 これを、アフリカが自ら必要とし、自ら計画する、インフラ開発に充てます。まず、内陸部と、沿岸をつなぐ、「国際回廊」。そして、送電網の整備。これらを一気に、前へ進めます。

4. 「産業人材」3万人の育成

 次に、人材育成です。ここで重要なことは、ただ、やみくもに、職業訓練を強化しても、ジョブに、つながらないことです。

 本当に、労働市場の需要にあった、人材を作らなければなりません。「出口のある教育」を、提唱したいと思います。現地の企業、とりわけ、日本企業の、必要に応じた人材育成をめざします。

 さらに、一歩進めましょう。

 私は、アフリカの、有為の若者が、やがて、日本と、アフリカをつなぐビジネスの主役になるのを信じて疑いません。そのため、今日この場で、「安倍イニシアティブ・アフリカの若者のための、産業人材育成イニシアティブ」を、発表します。

 アフリカから、日本へ学びに来る若者のため、大学や、大学院での教育に加え、日本企業で、インターンとして働く機会を、同時に提供するものです。規模は、5年で1000人です。

このイニシアティブと合わせ、すでにJICAや、ハイダ(HIDA・海外産業人材育成協会)が実施している人材育成事業や、国費留学生制度なども活用し、今後5年で、3万人の、ジョブにつながる「産業人材」の育成に乗り出します。

 アフリカ現地では、我が国は、エチオピア、セネガルなど10カ所で、「人づくり拠点」をこしらえます。職業訓練のエキスパートを、そこに送り込みます。

 すでに、「トヨタ・ケニア・アカデミー」という、素晴らしい前例があります。

 トヨタはケニアに、広大なキャンパスを持つ、学校を作りました。この施設では、JICAとの協力により、自動車整備のみならず、建設機械、農業機械などの、技術者訓練を実施します。まさに、日本標準の、プロフェッショナル人材育成学校になります。

 加えてアフリカからは、行政官の皆さんを、日本へお呼びします。PPPを進めるのに必須の制度を、作り上げていただくためです。日本とアフリカの間とは、このように、いつも、双方向の関係となるでしょう。

5. UHCを「ジャパン・ブランド」に

 次に、保健です。日本では、少し健康を害しても、誰もが気楽に、病院へ行ける制度を、築きあげています。そんな、日本の制度と経験を、アフリカに生かしたいと思います。万人にとっての、保健医療、つまり、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ、UHCの推進です。

 ガーナに、いい例がありますからご紹介します。母と子の、いのちにとって欠かせない、栄養のお話です。

 話は、10年ほどさかのぼります。

 そのころから我が国は、ガーナで、小さな助産院を作る、協力事業を始めました。診察室の裏に、小さな居住空間があって、そこに、公的資格を認められた、助産士さんが常駐します。母体の健康を守ることと、出産時の、適切な対応をしてもらうためです。

 母親学級、というのも始めました。妊婦さんを集め、注意してほしいことを伝える、啓発活動です。JICAが送った女性隊員や、我が国のNGOが、営々と、こうしたことを続けてきておりました。

 そこに目をとめたのが、日本を代表する食品関連企業の1つ、味の素です。

 味の素は、創業百周年。さて新しい市場を拓き、世のためにもなる仕事はないかと、社内で公募をし、採用された事業が、ガーナで、離乳食サプリメントをつくることだったのです。

 いま、私の手元に、その離乳食サプリがあります。「KOKO Plus」(ココプラス)といいます。これがそうです。

 KOKOとは、ガーナ伝統の離乳食です。それに、栄養分をプラスすると、赤ちゃんの体重が増え、ガーナの親たちの顔が、自然にほころぶサプリです。

 すばらしいのは、これを現地の大学と一緒に開発したことです。これを広める仕事を、JICAのみならず、米国の、USAIDも、巻き込んだことです。

 民間と、政府、まさしくPPPで、日本の外交戦略として、UHCを進めたいのです。

 私は、「UHC」を、これから、「ジャパン・ブランド」にしてしまうつもりです。

6. 「アイカワ」を広めよう

 最後に、農業です。食料不足や、栄養の問題は、アフリカにとって、長年の課題です。各国とも、食糧増産に力を入れていますが、私たちの目指すところは、もう一歩先にあります。「食べるため」から、「稼ぐため」の農業に、変えていきたいのです。

 ここで私は、1人、ゲストを紹介します。相川次郎さん。どうぞご起立ください。

 若い時、青年海外協力隊隊員として、タンザニアで、農業指導に携わって以来、相川さんは、ずっと、アフリカ農業に関わってきました。

 ケニアで、2500人という農民の所得を、なんと倍増させたのは、ここにいる、この相川さんです。

 アフリカの女性を強くせずして、アフリカの農業は強くならず、アフリカの農業を強くせずして、アフリカは、堅固になりません。

 そんな信念をもつ相川さんがしたことは、農業に携わるアフリカの女性たちに、消費市場が、何を求めているか、自分たちの目で確かめ、何をつくれば売れるのか、常に考える発想を、身につけてもらうことでした。

 「作っても売れない」悩みは、「売れるものを作る」ことで、解消できます。村の、小さな市場(いちば)へ行って、何が売れ筋なのかを、女性たち自身に確かめてもらい、付加価値の高い、園芸品を、効率よくつくる方法です。

 それを、農民自身に考えさせるやり方は、いまでは「SHEP」(シェップ)と名がついて、我が国が、これから、10カ国で推進していく雛形になりました。

 私は、「SHEP」もいいですが、いっそ「アイカワ」と呼び直してはいかがかと、ご提案致します。

 相川さん、私は承知しています。相川さんは、自分1人がやったのではない、ケニア政府の人たち始め、たくさんの人に支えられたからだと、そう思っておいででしょう。でも、アフリカで働くことを、自分自身の喜びとするたくさんの日本人の代表として、お立ちいただきました。有難うございます。どうぞご着席ください。

7. 発展の基礎を作る平和と安定

 いまさら申すまでもなく、アフリカ発展にとって、すべての基礎をなすのが、アフリカの、平和と安定です。

 日本は今後一層、アフリカの、平和構築に、力を注ぎます。

 すでに、ジブチでは、海賊対策のために、そして南スーダンでは、国家建設の一助となるために、自衛隊の諸君が、本日も、奮闘しています。また、平和の定着支援や、開発・人道支援を強化し、平和の土壌を育みます。

 我が国が先頭を切って進めてきた「人間の安全保障」の取り組みに、今後とも力を緩めないのは言うまでもありません。

8. 結語・真のパートナーシップ

 最後に、日本は、終始一貫、アフリカとの、「真のパートナーシップ」を目指してきたことを述べようと思います。

 それは、ともに考えること、ともに働くことでした。

 ビジネスマンであれ、JOCVの若者であれ、アフリカで日本人は、まるで、日本の工場現場で、機械油を浴びにでも行くかのように、貧困や、困難の現場へ入っていくことを、喜びとしてきました。

 彼らが肉体で示した勤勉さ、清廉さ、規律や、礼節は、やがて揺るぎのない信頼を、アフリカの人々から、勝ち得るに至ったのです。

 アフリカで現在活動中の、734人に上る、青年海外協力隊の皆さん、なかでも、399名に上る、女性の隊員諸君、そしてNGOの皆さんに、私は、感謝と、激励を伝えたいと思います。この人たちこそは、わが外交の、王冠の宝石です。

 日本とアフリカは、いまや、「よきパートナー」であることさえ超え、より多く、「コ・マネジャー(共同経営者)」です。

 「コリーグ(同僚)」であって、「コ・ワーカー(仕事仲間)」なのです。互いに成長し合い、それによって、世界を成長させる仲間になりました。

 最後に、申し上げます。パートナーシップのさらなる強化へ向け、次回、5年後のTICADを、アフリカで開くべしとする声が、上がっているのだと聞いています。しかし私は、5年後まで到底待てません。

 できる限り早く、アフリカの地を踏むつもりであると、皆様の前で、申し上げたいと思います。

 より一層、ダイナミックなアフリカへ向け、ハンド・イン・ハンド、手に手を、携えて、いっしょに駆け抜けよう。アフリカの未来は、明るく、日本とパートナーシップを組むアフリカは、もっと明るいのである。

 このことを確かめ合って、終わりにします。有難うございました。

 ここで、私と共同で、議長を務めて頂く、アフリカ連合議長の、ハイレマリアム・エチオピア連邦民主共和国首相をご紹介いたします。それでは、ハイレマリアム共同議長、基調演説をお願いいたします。

(了)