[文書名] 第68回国連総会における安倍内閣総理大臣一般討論演説
ご列席の皆様、初めに、ジョン・アッシュ大使の、議長就任を、ご一緒にお祝いしましょう。
議長‐‐、
まずシリア情勢について、新たなプレッジを、述べようと思います。
化学兵器が使われたことは、私を含め、日本国民に、深い衝撃と、怒りを呼び起こしました。化学兵器は、二度と再び、使用されてはなりません。
シリアの化学兵器の廃棄に向けた国際社会の努力に、我が国は、徹底的な支持と、能うる限りの協力を表明します。
無辜の市民が犠牲となり続ける状況に、義憤を覚えざるを得ません。暴力の停止、政治対話の開始、劣悪な人道状況の改善を、喫緊の課題と考えます。いま、この瞬間にも、数を増す難民たち。その支援にも、我が国は、一層の努力を傾注します。
国内避難民に、あるいは、国境を越えて逃れる難民に、国際社会と連携し、手を差し伸べます。我が国NGOやボランティア組織が、彼らのため、昼夜兼行で働いていることを、私は誇りとします。
国際社会の助けが及びにくい、反体制勢力の支配地域に対しても、我が国は、支援を続けます。医療センターで働くスタッフに訓練を施し、持ち運びのできるX線装置など、医療器具を届けます。
行く手に厳しい冬を控え、難民たちの絶望が増すいま、シリアと、周辺国への人道支援として、我が政府は、新たに、6000万ドル相当を追加し、直ちに実施することを、表明したいと思います。
こうした支援を、今後、ジュネーブ2を始めとする、政治対話のプロセスと並行させ、国際社会の皆様と協力しつつ、進めていく決意です。
さて、議長とご列席の皆様、
私達の国とその首都東京は、7年後の2020年、オリンピック、パラリンピックを、ホストする栄誉に浴しました。
手にした僥倖に報いる私の責務とは、まずもって、日本経済を、強く建て直すこと、そのうえで、日本を、世界に対して善をなす・頼れる「力」とすることです。
私はここに、日本を今まで同様、いえ、世界はいよいよ悲劇に満ちているのですから、むしろこれまで以上に、平和と、安定の力としていくことを、お約束します。
それは国際社会との協調を柱としつつ、世界に繁栄と、平和をもたらすべく努めてきた我が国の、紛うかたなき実績、揺るぎのない評価を土台とし、新たに「積極的平和主義」の旗を掲げようとするものです。
世界のパワーバランスが急速に変化し、技術の革新が、新たな機会と、新種の脅威とをボーダーレスにもたらしつつある点からして、いかなる国といえども、今や一国のみでは、自らの平和と、安全を守ることなどかないません。
日本が、地域と世界の平和、そして安定のため、付加価値の創造者、ネットの貢献勢力として、世界から信頼を集めようとするゆえんです。
かかる状況下、国連が果たすべき役割の重要性は、いや増します。我が国が訴え続けて今日に至る、「人間の安全保障」の理念もまた、今まで以上に意味合いを増すでしょう。
人間の安全保障委員会(Commission on Human Security)が報告書を提出してから9年に亘る議論の積み重ねを経て、昨年9月、その共通理解に関する決議が、ここ国連総会で採択されました。先人達の英知も借りながら、更なる概念の普及と実践の積み重ねを進めていく決意です。
日本として、積極的平和主義の立場から、PKOを始め、国連の集団安全保障措置に対し、より一層積極的な参加ができるよう、私は図ってまいります。国連の活動にふさわしい人材を、我が国は、弛まず育てなくてはならないと考えます。
議長とご列席の皆様、
開かれた、海の安定に、国益を託す我が国なれば、海洋秩序の力による変更は、到底これを許すことができません。
宇宙、サイバースペースから、空、海に至る公共空間を、法と、規則の統(す)べる公共財として、よく保つこと。我が国に、多大の期待がかかる課題です。
原子爆弾の惨禍を知る我が国は、核軍縮と不拡散、ひいては核廃絶に、ひたすら貢献します。
北朝鮮の核・ミサイル開発は、許されざることです。同国にあり得べき他の大量破壊兵器についても、強い懸念を留保しています。北朝鮮は、国際社会の一致した声に耳を傾け、おのれの行動を改め、具体的一歩を踏み出すべきです。
北朝鮮には、拉致した日本国民を、残らず返してもらいます。自分が政権にいるうちに、私は、これを完全に解決する決意であり、また本問題の解決を抜きに、日朝の国交正常化はあり得ません。
イランの核問題については、同国新政権が具体的な行動をとることに期待し、我が国として、その解決に向け、引き続き役割を担う用意があります。
世界の平和、繁栄にとって要石となる中東地域において、我が国は、中東和平プロセスに対し及ぼしてきた、独自の貢献を続けましょう。
今世紀における成長エンジンとなるのが必定のアフリカ諸国に対して、我が国は、自らの経験を踏まえた協力を続けます。すなわち人材の育成を主眼とし、オーナーシップを涵養しつつ、持続可能な成長を図ろうとするものです。
去る6月、我が政府は、アフリカ各国首脳、国際機関の代表を日本へ招き、開発に関わる会議「TICAD V」を開きました。
席上、アフリカ各国代表が、民間投資を切望すると、異口同音に述べたことに、私はいたく感銘を受けました。
アフリカに対する投資フローは、今や、援助のフローを凌駕しました。援助とは、投資を招く触媒としてこそ、戦略的に活かされるべきであるとの声、また声を聞きました。
TICADプロセスの20年が見守り、かつ、盛り立ててきた議論の進化です。TICAD Vは、アフリカが歩んだ道のりをことほぐとともに、日本が、彼らとともに夢を紡ぐ、変わらぬパートナーだった事実を、確かめ合う場となりました。
議長、ならびに列席のみなさま、
日本外交の進路は、自らの力を強くしつつ、これら、世界史的課題に、骨惜しみせず取り組むところに開かれると、私は信じて疑いません。
まったく、「骨惜しみをしない」こととは、日本の振る舞い‐‐外交であれ何であれ‐‐を基調づける、通奏低音に違いないと思います。
かような意思と、力、実績をもつ国として、安全保障理事会の現状が、かれこれ70年前の現実を映す姿のまま凍結され、今日に及んでいる事実を、はなはだ遺憾に思います。
安保理は、遅滞なく改革されなくてはならず、我が国は、常任理事国となる意欲にいささかも変わるところがないことを申し添えます。
議長、そしてご列席の皆様、
すべては、日本の地力を、その経済を、再び強くするところに始まります。日本の成長は、世界にとって利得。その衰退は、すべての人にとっての損失です。
ではいかにして、日本は成長を図るのか。ここで、成長の要因となり、成果ともなるのが、改めていうまでもなく、女性の力の活用にほかなりません。
世に、ウィメノミクスという主張があります。女性の社会進出を促せば促すだけ、成長率は高くなるという知見です。
女性にとって働きやすい環境をこしらえ、女性の労働機会、活動の場を充実させることは、今や日本にとって、選択の対象となりません。まさしく、焦眉の課題です。
「女性が輝く社会をつくる」‐‐。そう言って、私は、国内の仕組みを変えようと、取り組んでいます。ただしこれは、ただ単に、国内の課題に留まりません。日本外交を導く糸ともなることを、今から述べようと思います。
私はまず、国際社会を主導する一員となるための貢献を、4点にわたって述べてみます。
第一に日本は、UNウィメンの活動を尊重し、有力貢献国の一つとして、誇りある存在になることを目指し、関係国際機関との連携を図っていきます。
第二に、志を同じくする諸国と同様、我が国も、女性・平和・安全保障に関する「行動計画」を、草の根で働く人々との協力によりつつ、策定するつもりです。
第三に我が国は、UNウィメンはもとより、国際刑事裁判所、また、「紛争下の性的暴力に関する国連事務総長特別代表」であるバングーラ(Zainab Hawa Bangura)さんのオフィスとの、密な協力を図ります。
憤激すべきは、21世紀の今なお、武力紛争のもと、女性に対する性的暴力がやまない現実です。犯罪を予防し、不幸にも被害を受けた人たちを、物心両面で支えるため、我が国は、努力を惜しみません。
第四に我が国は、自然災害において、ともすれば弱者となる女性に配慮する決議を、次回・「国連婦人の地位委員会」に、再度提出します。2年前、大災害を経験した我が国が、万感を込める決議に、賛同を得たいと願っています。
議長と、ご参集の皆様、
ここから私は、3人の個人に託し、「女性が輝く社会」の実現に向けた、我が国の開発思想と、なすべき課題を明らかにしたいと思います。
日本人の女性と、バングラデシュの女性を1人ずつ、3人目として、アフガニスタンの女性を紹介します。
佐藤都喜子(ときこ)さんは、母子保健の改善を、15年以上、ヨルダンの片田舎で担った、JICAの専門家でした。
村人が当初投げた不審の眼差しにひるむことなく、佐藤さんはどこででも、誰とでも、話をしました。芸能の力を借りて説得するなど、工夫に余念のなかった佐藤さんを、村落コミュニティはやがて受け入れます。
「子どもの数を決めるのは、夫であって、妻ではない」。そんな伝来の発想は、佐藤さんの粘りによって、女性の健康を重んじるものへ、徐々に変わっていったのです。
皆様も知るとおり、HIV/AIDS、マラリア、結核との戦いを世界的規模で図る「世界基金」を始めるに際し、私の国日本は、リード役を務めました。基金の増資を図る、来るべき第4次会合でも、ふさわしい貢献をするつもりです。
けれどもポストMDGsにおいては、個別疾病を超え、フォーカスを広げるべきでありましょう。
個人をその総体として捉える発想によってこそ、より高い、健康のニーズを満たせると考えた私達は、TICAD Vを機に「UHC、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」を推進することにしました。
アフリカ地域の保健対策に、5億ドルを準備し、保健医療者12万人の育成を打ち出して、目下、励んでいるところです。
万人に、医療を‐‐。「UHC」の3文字に血を通わせる人は、具体的には佐藤さんのような、現地へ入って骨身を惜しまない人たちであるに違いありません。
さて二番目に紹介したいのは、ニルファ・ヤスミン(Nilufa Yeasmin)。バングラデシュの若い女性で、2児の母です。「ポリグル・レディー」の肩書があります。
日本ではありふれた、とある食材(納豆)から生まれたメイド・イン・ジャパンの水質浄化剤に、「ポリグル」という商品があります。汚れた水に、入れるだけ。余分な物質を吸着して沈殿し、水を透明にするのがポリグルです。
最初に正しい使い方を教える必要があり、販売員兼インストラクターになるのが、ニルファさんたち「ポリグル・レディー」というわけです。
お分かりでしょう、いわゆるBOPビジネスとして、女性の力に期待する特徴をもっています。ニルファさんは、夫の収入と合わせ、子どもを上の学校へやることができるようになりました。
幼い頃抱いた「いつかお医者さんに」という夢を、貧しさからあきらめた彼女はいま、「水のお医者さんになった」と、誇らしげに言うのだそうです。「自分への誇り」という、最も貴い財産を、ニルファさんは手にしたのだとは言えないでしょうか。
我が政府は、1人でも多くの、ニルファさんを生みたいと思います。ポリグルを作るのは、ごく小さな日本企業です。そんな会社や、団体が持ち込むアイデアを、実現する仕組みを充実させていきます。
議長、お集まりの皆様、
最後にもう一人、紹介したい女性がいます。けれどもこのアフガニスタン女性は、もうこの地上にはいません。イスラム・ビビ。今年の7月4日、凶弾に倒れました。享年、37歳。3人の子どもが残りました。
アフガニスタン警察の、誇り高き女性警察官。それがビビでした。9年勤めて重責をになったビビは、選挙監視のため、投票所を警護しました。自分に続く、若い女性警官の教育に尽くしました。
道遠し、の思いに駆られます。しかし、ひるんでいてはなりません。
我が国は、「アフガニスタンのための、法と秩序の信託基金」を通じ、同国警察力の向上に、また、女性警官の育成に、終始意を砕いた国のひとつでした。アフガニスタンにおける女性警官の数は、ようやく1800人に達しますが、到底足りません。第二、第三のビビを生まないため、支援を続けねばならない。私は、決意を新たにしています。
議長と、ご参集の皆様、
バングラデシュのニルファさんを実例として、強調したかったのは、女性の社会進出を進めることと、その、能力開発の必要性でした。
我が政府はこれを第一の施策とし、アフリカで新規事業を始めるなど、創意に満ちた努力を続けます。
佐藤都喜子という、ヨルダンで活躍した日本人女性が身をもって訴えたのは、母子保健の重要性でした。MDGsにおいて、達成に遅れが目立つ分野です。
私の政府は第二の重点施策として、女性を対象とする保健医療分野の取り組みに、力を加えます。
最後に、悲しいイスラム・ビビの実例を通じて私が言いたかったのは、平和と安全保障の分野における、女性の参画と、その保護の重要性でした。
紛争の予防と解決、平和構築に至る全段階で、女性の参画を確保するとともに、紛争下、危険にさらされる女性の権利、身体を守る対策に、努めてまいるつもりです。
以上3つの柱を立てる我が政府は、そのため今後3年、30億ドルを超すODAを実施することを、ここで明らかにしようと思います。
議長、ご参集の皆様、結びに申します。
先に紹介した「ウィメノミクス」のひそみにならうなら、女性の力を育てることに焦点を合わせる私達の開発思想は、世界に平和と、厚生を、より多くもたらすことでしょう。
日本の内でも、紛争下の地域、貧困に悩む国々でも、「女性が輝く社会」をもたらしたいと、私は念じます。楽観視など、してはおりません。しかし私は、そのため骨身を惜しまない人々が、私の国、日本に、決して少なくないことを知っているのです。
皆さんと、ともに働こうと、準備を怠らない人々です。
ご清聴有難うございました。