[文書名] STSフォーラム2014年年次総会における安倍総理スピーチ
御丁寧に御紹介いただき、ありがとうございます。皆さんとお会いできるのは私にとって最大の喜びであり、お話しできますことは、たいへん名誉なことです。総理として、こちらに参りますのは3回目になります。在任中は、欠かさず参ったということであります。一つには、尾身会長を、それからイノベーションを前へ進める皆さんを、尊敬しているからであります。そして、日本がさらに成長していくため、世界が難題と取り組むためにも、イノベーションが鍵を握っているからです。
私を名誉会長に御指名いただきましたが、大変うれしく、また名誉なことに思います。この肩書には、オノラリーとありますから、きっと任期はないのでしょう。
私の世代の日本人には、ジュール・ヴェルヌを読んだ人がたくさんいます。あの、フランスSFの父であります。
彼の作品、「神秘の島」に、こんな一節がありました。「水素と酸素からなる水が、いつか燃料になるだろう」というのです。
ヴェルヌがこれを書いたのは、1874年の昔でした。大変な、先見の明の持ち主だったというよりほかはありません。
時は過ぎ、2009年のことです。ここ、私の国では、燃料電池が世界に先駆けて商用化されました。アポロ11号から40年、日本が、国家プロジェクトとして燃料電池の開発を始めてから28年、ジュール・ヴェルヌの夢を実現するプロダクトが生まれたのです。
ただし、クルマに使うのはまだまだでした。
燃料電池で走るクルマは、商業ベースに乗らなかったのです。どうしてか。そこをお話しましょう。
理由は、技術的難問もさることながら、あまりに多くの規制があって、燃料電池車が、実際売れるようにするのが困難になっていたからでした。いったい、どんな規制なんだと、聞かないでください。説明しようとすると何時間もかかりますから。
でも、一つ、数字をお話しすることはできます。撤廃すると決めた規制の数です。私自身驚いたのですが、25もありました。皆さん、この数は、来年、ゼロになります。
その結果、世界では日本で初めて、燃料電池車と、水素ステーションが、商業的に実用化されることになりました。来年の初めには、クルマのディーラーショップに、燃料電池車が並んでいるはずです。
「いったい、いくらかかるんだ」と、お尋ねの方もあろうかと思いますが、御心配には及びません。これからは、全ての省庁は、一つの例外もなく、燃料電池車を導入します。個人の方が購入された場合、コストを安くできる仕組みも使えるようにします。
Hのお話、水素のHについての話は、ここまでとします。まったくもって、ジュール・ヴェルヌの先見の明たるや、確かでした。彼の夢は、日本で、実現しつつあります。
次はi、iPS細胞のiのお話です。iPS細胞というのは、山中教授が開発した万能細胞の一種のことです。
皆様、つとに御存知かもしれませんが、それでも私は、皆様にお伝えできるのを嬉しく思います。iPS細胞技術は、とうとう、実用の段階に入りました。最近日本で、一つ、手術が実施されました。これが、世界初の網膜再生手術、iPS細胞技術を用いた手術だったのであります。
続いて、ロボット技術のことを、また、何時間かかけてお話しすることもできるのですが、やめておきましょう。一つ申し上げますと、イノベーションは、私の政策において、核心中の核心です。
日本には、立ち向かうべき、たくさんの問題があります。社会は高齢化していますし、人口は伸びていません。私の国は、ある意味、最先進国なのです。ここにいらっしゃる全ての皆様が、遅かれ早かれ直面する課題群に、真っ先に取り組んでいる、それが日本です。
ですから、ロボットをもっと使えば良いのではないでしょうか。例えば、お年を召した方の介護のために、農業や、サービス産業を効率化するために、はたまた、災害リスクを低くするために、であります。水素社会を推し進め、果実を得るのです。再生医療を早く前進させるのです。
イノベーションこそが鍵を握っているのです。日本を、イノベーションが持つ力により、こうした課題を解決に導き、世界をもっと、より良いものにするよう貢献できるフロントランナーにしたいというのが、私の強い念願です。イノベーションは、私の政策において、核心中の核心なのであります。
最後になりましたが、大切なことを一つ。ここで発表申し上げられることを嬉しく思いますが、東京で来週、第1回の「イノベーション・フォー・クールアース・フォーラム」が開催されます。昨年、ここ、STSフォーラムにおきまして、提案申し上げたものです。エネルギーと環境くらい、世界中から叡智を集めなくてはならない分野はありません。第1回の集まりが、大きな弾みを創り出して、私たちが、未来を持続可能なものにできるよう、そのよすがとなってくれることを、期待しないではいられません。
ここで終わりにします。どうもありがとうございました。