[文書名] 第7回太平洋・島サミットにおける安倍内閣総理大臣開会式基調演説
共同議長を務めていただくレメンゲサウ・パラオ共和国大統領、各国首脳・代表、御列席の皆様、PALM7(パーム・セブン)へようこそ。
私たちをつなぐ大洋が広大なあまり、互いの距離を嘆いた時は、遠い過去に去りました。いまや太平洋市民として、共通のアイデンティティを育(はぐく)み、寿(ことほ)ぐ時代です。
東京から米国サンディエゴまでは9000キロ、このほど私たちが喜びとともに国家の承認をしたニウエまでなら8000キロです。私たちは離れていません。近いのだという認識を、いつも新たにしようではありませんか。
太平洋は、人類に与えられた最大にして、最も貴重な共有財です。偉大な海を時に畏れ、常に敬う心を、私たちは分かち合います。それは我々の助け合いを促し、友情を支える土台です。未来へと導く、道しるべです。
かつて日本のさる詩人は「思いやる八重の汐々(しおじお)」と、太平洋の遥かな島から、日本の浜辺に流れ寄る椰子(やし)の実を歌いました。海がつなぐ私たちは、八重の汐々を越え互いを思いやる不断の営みのうちに、太平洋市民として、同じボートに乗る者としての、自覚を育てることができるのだと思います。
自然の猛威に立ち向かうため、災害からより良く立ち直るためにも、知恵と経験を持ち寄って、いつでも助け合う繋がりがなくてはなりません。民主主義を大切にし、一人一人の人権を重んじながら、法の前に平等を誓うコミュニティこそ、目的をよく成し遂げるでしょう。
私たちが持つべきは水平線のように水平で、かつ双方向の、力による威嚇や力の行使とは無縁の関係です。それが太平洋市民社会の秩序です。
約束を、堅固にしましょう。私たちは、私たちの大洋を、平和で豊かな海にして、そこに住まう一人一人に、確かな未来をもたらす場にするのだという約束です。
皆様方の国々は、斃れた兵士の遺骨を尋ねて訪れる日本人を、いつも温かく迎えてくれました。70年、常に平和を重んじ孜々(しし)として刻んだ日本の歩みは、皆様がその証人になってくれることも私たちは知っています。
祖国への帰還を待つあまたの魂が、太平洋の島々にまだ留まっています。遺骨探索の私たちの旅に、これからも力を貸してください。これまでの70年の歩みの上に、国際協調主義にもとづきながら、世界に平和をもたらす積極的な働き手となろうとする私たちの誓いが、これまで同様、皆様に温容をもって迎えられますことを、私は信じています。
ガダルカナルが、金の採掘で有名になったことは、私たちを嬉しい驚きで包みます。しかし発展と、自然との調和に格闘する島となったことは、私たちを厳粛な思いへと誘います。ソロモン諸島の悩みは、太平洋の我々に共通の苦悩だからです。
わが政府はお約束として、気候変動と災害に負けない強靭な力を育(はぐく)むため、皆様方に向こう3年、PALM8(パーム・エイト)の年までに、550億円以上の支援を致します。専門知識と技能を育てる一助となるよう、人材の交流・育成を双方向で進めます。規模は約4,000人となるでしょう。「緑の気候基金(GCF)」を太平洋島嶼国が十全に活用できるよう、努力を重ねることをお約束します。
皆様には、日本の漁労活動に格別の配慮をお願いしたいと思いますが、皆様自身の警備力、資源保存の能力を高める力添えは、日本が担うべき責務であると思っています。
無数の島々が、それぞれに育んできた文化と自然の多様性を財産として将来世代に残すには、どんな成長の経路を選ぶといいのでしょうか。
To Do Listは、短くありません。これからの会議でお話できると思います。ひとつ、日本はいま、国連の改革に向け気運を盛り上げようとしています。皆様には、ご理解と、ご協力を頂戴したいと願っています。
何よりも、私たちは頻繁に会う必要があります。海のもたらす可能性と、課題とを共有する我々は、あらゆる機会をとらえて会合を重ねましょう。本年も、秋、国連総会の機会に、島嶼国首脳のみなさんとお会いできるのを楽しみにしています。
「福島いわきから太平洋への誓い・共に創る豊かな未来」を、私たちはPALM7の標語にしました。
4年前、当地が災害に襲われた時、皆様が寄せてくださった厚意に感謝するためです。復興のため、被災地の人々が払ってきた懸命な努力を、皆様にぜひ見ていただきたかったからでもあります。
北西太平洋の島国・日本の、地震と津波、原発事故を耐え、力強く甦りつつあるいわきから、太平洋のすべての友人に、ひとつの誓いを送ります。
太平洋市民社会を、強靱で、可能性に富むコミュニティにしていくため、日本は力を惜しみません。そこに信頼と、友情を育て、太平洋を平和と繁栄の海にしていくため、海の友人すべての人々と、力を合わせていきたいと思います。会議の、成功を信じ、結語と致します。
有難うございました。