[文書名] ジャパン・サミット2015 安倍内閣総理大臣基調講演
ドミニク・ジーグラーさん、アントン・ラ・グアルディアさん、そしてアンドリュー・ステイプルズさん、そしてクリス・クレーグさん、お集まりの皆様。昨年に引き続きまして、このジャパン・サミットで、皆様にお話できることを、大変光栄に思います。
前回、お会いしてから、本当に様々なことがありました。
年末に「アベノミクス」を争点にして、解散総選挙に打って出る。そんなことは、1年前、夢にも思っていませんでした。
幸いにも、私たちの連立与党は、衆議院の3分の2を上回る、たくさんの議席を再び獲得することができました。ですので、今日は、「元」総理大臣ではなく、「現職」の総理大臣として、この場に参加することができました。
何よりも大きかったのは、私が進めている「アベノミクス」に対し、国民から、強い信任を得ることができたことであります。
ですから、これまで以上に成長戦略を加速します。長い間、日本の成長を阻んできた堅い岩盤のような規制や制度、慣習を、一気に突き破る。
私は、年明けからスタートした国会を「改革断行国会」と名付け、様々な改革法案を提出しています。
「意外だ」という顔の方がこの会場にもたくさんおられますが、「日本では、経済よりも安全保障の議論ばかりに明け暮れているのではないか」、今そう思った方は、日本のマスコミのニュースをよく御覧になっている方だと思います。日本への関心を持ってくださっていることに、感謝申し上げます。
しかし皆さん。ここで、一つの言葉を思い出してください。
「便りのないのは、良い知らせ(no news is good news)」。
東証上場企業の純利益は、史上初めて、20兆円を超えました。企業の雇用意欲は、23年ぶりの高さになっています。今年の春も昨年に続き、2%を超える賃上げが実現しました。
昨年、消費税が3%も上がりましたので、一時は、景気も落ち込みました。御心配をおかけしたかもしれません。しかし、企業が利益をあげ、それが雇用や賃金に回る。経済の好循環が、いよいよ回り始めました。足元では、年率換算で、名目9%を超える高成長が実現しています。
昨年度の税収は、当初予算より4兆円近く増えて54兆円。21年ぶりの高水準となりました。今年度は、プライマリーバランスの赤字半減目標を達成する予算を組むことができました。2020年度の財政健全化目標の達成に向けた具体的な計画も、先月、取りまとめました。
ここまで言えば、もうお分かりいただけるでしょう。
もはや、経済政策は争点にならない。野党の身になって考えれば、議論すればするほど安倍政権のアピールになってしまう。メリットがないのです。
ですから、国会の審議は経済面においては順調に進んでいます。60年独占が守られてきた電力やガスの市場を自由化する、エネルギー市場改革法案は、既に成立しました。医療保険制度の改革法案も、成立しました。60年ぶりの農協改革も、衆議院を無事通過して、参議院に舞台を移しています。
2年半前、私が放った「三本の矢」は国会で大論争となり、連日、マスコミでも報じられました。ですから、私がクラーク・ケントさながらに、偉大なエコノミスト誌の表紙も飾ることができたという訳であります。最近は、残念ながら御無沙汰しています。
ただ、「便りがないのは、良い知らせ」。アベノミクスは、むしろ、そのスピードをどんどん増しています。そのことを、本日は、御理解頂きたいと思います。
先月から、コーポレート・ガバナンス・コードが、2000社を超える上場企業に、適用されるようになりました。独立社外取締役を選任する企業は、この2年で、ほぼ倍増しました。
今や、191の機関投資家が、スチュワードシップ・コードを受け入れています。投資家の側からも、持続的な成長と収益性の強化を求めていく。このスチュワードシップ・コードは、エコノミスト誌の母国、英国に倣ったものであります。
内向きな発想、事なかれ主義の消極的な経営は、もう許さない。コーポレート・ガバナンスを強化することで、日本の経営者のマインドを変えていかなければなりません。 世界に目を向け、果敢に、激しい国際競争の荒波に打って出る。そうしたマインドを、この日本に根付かせることが、私の成長戦略の基本哲学であります。
この2年半で就業者は100万人増えましたが、嬉しいことにその大半、90万人以上が女性であります。上場企業の女性役員は、昔の6倍のペースで増えつつあります。
女性、さらには外国人材なくして、もはや、グローバルな舞台で戦うことはできません。多様で柔軟な働き方を可能とし、労働の質を高めていくことも必要でしょう。ITやロボット、新たな技術もどんどん活用していきます。
建設機械で世界第二位のコマツ。先日訪れた、その最新工場では、最新のエネルギー技術を積極的に導入することで、わずか5年間で、電力コストの9割カットに成功しました。ネット・ゼロ・エネルギー工場は、早晩、実現するでしょう。
製造現場の無人化を牽引してきた産業用ロボット。この分野で世界トップを走り続ける、ファナックの工場では、そうしたロボットを製造するラインにも人影はほとんどありません。もはや、ロボットが、ロボットをつくる時代です。
生産性革命によって、未来を切り拓く。これが、先週決定した新たな成長戦略のキーワードです。
春に訪米した際、MITや、シリコンバレーを訪れました。
エネルギーを生み出すガラス。ソーシャルネットワークサービスの更なる進化。ビッグデータ、人工知能を活用した新たなビジネス。どんどん湧き出る、奇想天外なアイデアの数々に、衝撃を受けました。
とにかくスピードが速い。日本が持続的に成長していくためには、このスピードに追い付いていかなければなりません。
日本にも、きらりと光る技術やアイデアを持った、中堅・中小企業は、たくさんあります。こうした企業の存在が、日本のものづくりを長らく支えてきました。
しかし、「日本チャンピオン」で満足しないでほしいと願います。今後5年間で200社を選りすぐり、シリコンバレーに派遣する、新たなプロジェクトをスタートしました。世界の強豪選手たちと切磋琢磨しながら、目指すは「世界チャンピオン」。そのベンチャー精神を、思う存分、発揮してほしいと思います。
世界トップレベルの企業にも、どんどん日本に来てもらいたいと思います。
その効果は、単に日本に雇用が生まれる、というだけにとどまりません。日本企業にとっても、素晴らしい刺激となる。そう信じているからであります。
少し前までは、外国企業の方々に、「アジアのどこに投資しますか?」と聞けば、「中国だ」という答えが一番多かった。しかし、直近の調査では、R&D拠点を置くならば「日本だ」という回答が、トップになりました。来春には、りんごのトレードマークが、日本にやってきます。アップル社が、アジアで初めての研究開発拠点を、横浜でオープンします。
私が政権をとってから、海外から日本への投資は、10倍以上に増えました。しかし、まだまだ足りません。
企業実証特例、国家戦略特区、規制改革。道具はそろっています。制度的な壁があるなら、いくらでも取り除きます。日本に思い切った投資をしてくださった外国企業には、相談相手となる副大臣をつけることとしました。政治のリーダーシップの下、スピード感を持って対応しますので、どうか御安心をいただきたいと思います。
国籍に関係なく、誰から見ても日本が魅力的な投資先となる。「世界で一番ビジネスがしやすい国」でなければ、日本企業といえども、国内投資を増やすことはできない。グローバルな競争は、激しさを増しています。
法人実効税率をこの4月から2.5%引き下げました。1年後には引き下げ幅を最低でも3.3%、できれば更なる上乗せを目指します。数年で20%台にまで引き下げ、国際的に遜色のない水準へと法人税改革を進めてまいります。
そして、日本はオープンな世界へと、大きく、窓を広げてまいります。世界に自由でフェアで、ダイナミックな経済圏をつくりあげ、日本は、そのハブとなる決意です。
TPP交渉は、米国のTPA法案が成立したことで、ゴールテープに手が届くところまでやってきました。交渉はしかし、最後の1インチが、もっとも大変である。そのことは、百も承知でありますが、日本と米国がリーダーシップを発揮をして、早期妥結を目指したいと思っています。
EUとのEPA交渉も、年内合意を目指して交渉を加速することで合意しています。RCEPについても、早期の合意に向けて、日本は、大きな役割を果たしていく決意であります。
グローバル化が進み相互依存が深まる中では、世界的な経済・金融システムの安定を目指し、各国がより緊密に手を携えていくことが必要です。今後とも、G7諸国やアジア諸国と連携しながら、日本として、出来る限りの努力をしてまいります。
今般のギリシャ問題についても、関係者間の協議を見守りつつ、G7諸国とも緊密に連携し、ユーロ圏の経済の安定に協力してまいります。
ただし経済成長は、国家が生み出すものではありません。模造品や海賊版が先進技術を排除する、悪貨が良貨を駆逐するようなマーケットからは、イノベーションは生まれません。
より良い製品やサービスが、適正に評価される。この真っ当な経済のメカニズムのもと、民間の自由な競争が行われる。そこからしか、持続的な成長を期待することはできません。
いかなる国の恣意的な思惑によっても左右されない、フェアで、持続可能なマーケットを目指して、日本は、リーダーシップを発揮します。
最後まで、フェアプレー。女子サッカーのワールドカップで、我らが「なでしこジャパン」は、本当によく頑張ってくれました。
世界に誇るエコノミスト誌もイングランド生まれでありますが、近代サッカーの「生みの親」でもある、強豪・イングランドに、決勝戦へと送りだしていただきましたが、誠に残念な結果でありました。
しかし、4点差をつけられても、緊張の糸が切れることがなく2点を取り戻す。最後まで決して諦めない姿は、私たち日本人に、大きな勇気を与えてくれたと思います。 試合の後の澤選手の言葉が印象的でありました。
「悔いなく、やりきった、と思っています。」誠に清々しい姿に、私も、背筋が伸びる思いがしました。
世界の檜舞台で、自らの実力を出し切る。これは、並大抵なことではありません。それを見事に実践し、準優勝という、素晴らしい結果を残してくれた、なでしこジャパンの23人を、私は、本当に誇りに思います。
そして、日本経済もまた、まだまだ、大きな実力を秘めている。私は、そう確信しています。後は、それを遺憾なく出し切ることが出来るかどうか。
最後までフェアプレー。最後まで決して諦めない。私も、「悔いなく、やりきった」と言えるぐらい、成長戦略の実行に、全力を尽くしていく決意であります。
ありがとうございました。