[文書名] WAW!Tokyo 2015 公開フォーラム 安倍総理スピーチ
ようこそ、WAW!へ。ようこそ、日本へ。2回目となる今年のWAW!は、昨年を上回る約40ヶ国、8つの国際機関から約150名にお集まりいただいています。
アベノミクスはウィメノミクス。私はこの2年半、一貫して女性の活躍を推進してきました。この間、新たに約100万人の女性が労働市場に参加し、企業における女性の役員が約3割増えました。私の願いは国内にとどまりません。昨年の国連総会で申し上げたとおり、 21世紀を女性に対する人権侵害のない世紀にしていきます。UN Womenが「女性活躍をトップダウンで推進する10人の男性首脳のひとり」に私を選んでくださったことは大変光栄です。
日本の男性も変わり始めています。今回のWAW!にも御参加いただく三菱ケミカルホールディングスの小林会長、千葉銀行の佐久間頭取を始めとする男性経営者は、昨年来、女性が持てる力を最大限に発揮できるよう行動することを宣言し、その賛同の輪を広げる活動を続けています。
今年のWAW!のテーマは「WAW! for All」です。女性にとっても、男性にとっても暮らしやすい社会を、女性も男性も協力してつくろう、というメッセージです。
日本の最大の課題は少子高齢化による人口減少です。かつては、「女性の就業率が上がると出生率が下がる」という傾向が広くみられました。しかし、今日、女性活躍で先行する先進国では、女性の就業率と出生率が共に高くなっています。特に、北欧諸国は、女性活躍を掲げ、見事に経済成長と出生率向上の両立に成功しました。
日本もこれに続きたいところですが、最大の壁は、男性中心の長時間労働を是とする働き方文化です。男性が自ら、気づき、行動を起こさなければ、この悪習を断ち切ることはできません。まずは、限られた時間で効率的に働くことを評価する企業文化を広げ、夫も積極的に育休を取得し、家事や育児を夫婦で共に担う。それを日本で当たり前にしていきます。
そうなれば、男性も女性も、生産性の高い仕事と豊かな生活を無理なく両立できるようになり、個人としても、家庭においても、地域においても、より充実した人生を送れるようになるでしょう。女性活躍は男性の人生をも豊かにしてくれるのです。
そういう社会を実現するためには、企業も、社員が育休を取得しやすい職場環境を提供しなければなりません。政府の調達でも、ワーク・ライフ・バランスに取り組む企業を、より積極的に評価し、後押ししていきます。
男性の意識改革に加え、もっと多くの女性が組織のリーダーにならなければ、真の変革は起きません。まず隗より始めよ。今年度から、国家公務員採用における女性の割合を、政府全体で3割以上とする方針を決め、将来の幹部候補となる総合職については、34.3%と、前年度から一挙に10.4%ポイント上昇させて、この目標を達成しました。企業の役員に当たる指定職についても、私の就任から約1年半でほぼ倍増しました。
民間企業については、有価証券報告書に女性役員の比率を記載することを義務付けました。本日午前、女性活躍推進のための新たな法案が成立しました。来年4月から、女性の採用や登用の促進に関する数値目標を入れた自主的な行動計画を策定し、公表することを企業に義務付けます。国も地方自治体も行動計画を作ります。これは、女性を意思決定権のある地位につけていくための第一歩です。日本も新たなステージに歩みを進めたのです。既に、経団連は、昨年の夏に計画の公表を始めています。参加する企業数は、この1年で約10倍に広がりました。こうした動きを制度面からしっかりと支えます。
意思決定権のある地位への女性の登用を進めるうえで、女性自身も、そのような可能性があることを視野に入れながら研鑽を積む、そして周囲もそれを期待する環境が必要です。ここにおられるサーリーフ大統領は、アフリカ初の女性大統領。マリリン・ヒューソン氏は、男性中心のイメージがある防衛産業のロッキードマーチン社の生え抜き。ガラスの天井を破りトップにのぼり詰めました。女性が意思決定権のある地位に就く上で何が大切なのか、これからそのお話を伺えるのが楽しみです。
私は、女性が活躍する分野の広がりにも着目しています。人材の多様性がイノベーションを生む。このことに、日本でも多くの企業が気付き始めています。女性はもとより、多様な人材がそれぞれの強みや知見を活かすことで、新たなモノやサービスを市場に送り出していくのです。育児のため毎日16時に帰宅しながら、日本を代表する菓子メーカーで執行役員として数百億円規模の事業運営を任されている福山知子さん。ケニアで循環型無水トイレの普及拡大に尽力している山上遊さん。新薬開発を連続で成功させた希有な研究者であり、また、現在は、異才発掘のインキュベーターの久能祐子さん。社会に新たな価値を生み出している女性はどんどん増えています。
日本は、科学技術立国です。理工系分野でもっと女性が活躍できるのではないか。ところが、企業から、採用したくても、そもそも理工系を専攻している女子学生が少ないという声が聞かれます。
今年の夏、30社以上の企業が、女子中学生、高校生向けに、建設現場や工場で、理工系の仕事を体験するプログラムを実施しています。さらに政府としては、産学官の関係者が連携したネットワークを立ち上げ、女子学生が中高生の段階から、理工系分野に関心を持ち、充実したキャリアプランを描くことができるようにします。
女性による起業も後押しします。女性の起業は、新たな需要を開拓し、地方をも元気にします。女性による創業は、まだ、2割弱にとどまり、ここ10年以上減少が続いています。これをV字回復させます。そのため、女性向けの創業スクールを全国各地で実施するとともに、創業経験者、地域の中核企業や金融機関が連携して、女性の創業を後押しするネットワークを各地で支援していきます。
様々な状況におかれた人々に、寄り添うことを忘れてはいけません。母子家庭向けに、子育て、生活、就業などについて、支援を一層充実させるとともに、それを求める家庭に確実につながる仕組みを整えるため年末を目途に政策パッケージを策定します。
女性も男性も全ての人にとって暮らしやすい社会。そんな社会を日本にも、そして世界にもつくるため、私は努力を惜しみません。
一昨年の国連総会で、私は、「女性が輝く社会」の実現のために2015年までの3年間で30億ドルを超すODAを実施するとお約束し、着実に実行しています。今年2月には、日本のODAの理念を12年ぶりに見直し、女性参画の促進を原則の一つに加えました。今後3年間では、女性が経済的に自立し、自らの意志で自らの人生を決定できるよう、女性・女児の質の高い教育のため、420億円以上のODAを実施いたします。
UN Womenやバングーラ国連事務総長特別代表事務所をはじめとする国際機関への協力も惜しみません。実際、日本はこの2年でUN Womenへの拠出金を邦貨にして10倍に増やしました。明後日は、東京のUN Women日本事務所が開所式を迎えます。私も参加し、お祝い申し上げたいと思っています。
来年、日本はG7の議長国です。「伊勢・志摩サミット」でも、女性のアジェンダは強力に押し進めていきたいと考えています。今回のWAW!での成果を伊勢志摩サミットにもつなげていくつもりです。例えば、女性と、起業、自然科学・技術、教育を含むエンパワーメント、保健などは特にG7の文脈でも重視していきたいテーマです。
「なぜ女性の活躍を推進するのか」を問う時代は終わりました。今は「如何に実現するか」を議論するときです。女性が輝く社会の実現に向け、今日から2日間、議論を深めてまいりましょう。