[文書名] 金融を中心とするビジネス関係者との対話 安倍総理スピーチ
マイケル・ブルームバーグCEO、心温まる御紹介を頂き、ありがとうございます。
「夢見る者たちの街」。
ブルームバーグ市長(当時)の言葉です。夢を持つ人にとって、NYほど、チャンスにあふれた街はない。私も、そう思います。
かつて、「鉄」の営業のため、NYを訪れた一人の若者が、35年を経て、総理大臣となり、「日本経済」をアピールするため、再び、この街を訪れた。そのような、私個人のストーリーを申し上げたい訳ではありません。
あらゆるものに「可能性」を見出す、ベンチャー精神あふれる、本日お集まりの皆さんのような方々が、たくさんいらっしゃる。そのことが、13時間の時差で朝の会議は眠いというリスクをおかしてまでも、年に一度はNYにやってこようと、私に思わせるのです。
3年前、私が政権に就く直前。15年続いたデフレによって、誰も、日本に見向きをしなかった時代のことです。それでも、ここにおられる、イェスパー・コールさんは、日本経済の「可能性」は、「過小評価されている」と、すでに見抜いておられました。
あれから3年。そうした「可能性」を開花させるため、アベノミクスに全力投球してまいりました。
大胆な金融緩和によって、物価は反転し、2年連続で上昇しています。日本銀行の調査でも、家計では、将来的に物価は毎年2%上昇するだろうと考えるようになっています。日本に長らく巣食っていた、デフレマインドは、一掃されました。
この機に、日本政府も、日本企業も、昔ながらの体質、内向きなマインドを、一気にチェンジしなければなりません。
60年ぶりの農協改革、医療制度改革、電力市場の完全自由化。いずれも、先の国会で、改革法案が成立しました。岩盤のように固い規制を、私自身がドリルの刃になって、打ち抜いていく。安倍内閣の改革は、どんどん進んでいます。
中でも、私の改革リストのトップアジェンダは、コーポレートガバナンスの改革である。繰り返し、そう申し上げてきました。
本年6月から、コーポレートガバナンスコードが、2000社を超える上場企業に、適用されるようになりました。独立社外取締役を選任する企業は、この2年間で倍増しました。今や、ほぼすべての大手機関投資家が、スチュワードシップ・コードを受け入れています。
形式だけでなく、実効的にガバナンスを機能させることが重要です。CEOなど経営者の選定プロセスの透明化、株式持ち合いの解消に向けて、チェックする仕組みを新たにつくります。政府と東京証券取引所が協力して、今後も、機動的に改革を進めてまいります。
すでに日本企業はその「可能性」を開花させつつあります。昨年度の経常利益は、5000億ドルを上回り、過去最高となりました。日本企業のROEは、3年前と比べて、50%以上、上昇しました。
デフレマインドが払しょくされた今、1兆2千億ドルを運用する世界最大の年金基金であるGPIFについて、ポートフォリオの見直しとそれに相応しいプロフェッショナルな組織へと改革を進めています。先般、国連の責任投資原則にも署名するなど、グローバルな資本市場において、世界最大の年金に相応しい積極的な役割を果たしてまいります。
攻めの経営に転じた、日本の経営者の目線は、今、海外へと向いています。昨年度、海外企業とのM&Aは700億ドル近くにのぼり、過去最高水準となりました。
グローバルな舞台で活躍したいと願う企業を、政府も、力強く後押ししていきます。
TPPは、必ず妥結させる。私の決意は揺らぎません。世界に向けて質の高いインフラを展開していく努力も惜しみません。法人実効税率も、数年で20%台にまで引き下げる。国際的に遜色のない水準へと、法人税改革を進めます。
さて、ブルームバーグCEOも、独立した30年以上前は、他の起業家と同様に、大変苦しい時代を経験されたそうであります。
しかし、来る日も来る日も、プレゼントのコーヒーを買って、メリル・リンチのオフィスに通う。将来ブルームバーグ社の顧客になりうる人たちと、コーヒーをきっかけにして、人的ネットワークを広げ、情報ニーズを探る。そのような持続的な努力が、これだけの大会社へと成長する原動力となったと考えます。
「継続こそ力」であります。
一昨年の参議院選挙、そして昨年末の衆議院総選挙において、自由民主党は大勝し、日本国民は、「アベノミクスを続けよ」と、大いなる力を私に与えてくれました。
更に今月、自由民主党の党員も、私の更なる3年間の総裁任期を支持してくれました。この機に、私は、アベノミクスの第二ステージをスタートさせる考えです。
安定した政治基盤のもと、これからも「経済最優先」。今後とも、日銀と協力し、経済を強い成長軌道に乗せる。賃上げを通じた消費を拡大し、経済の好循環を回し続けるため、あらゆる手段を講じます。
そして、いよいよ本腰を入れて、日本が抱える構造的な課題、少子化の問題に、真正面から立ち向かうことといたします。
50年後においても、人口1億人を維持する。その明確な国家目標を、私は、史上初めて、掲げました。出生率を引き上げるため、幼児教育の無償化、多子世帯への重点的な支援など、これまでにない大胆な子育て支援を次々と実施します。
女性の労働力は、この3年ほどで90万人以上増えました。金融界の皆さんは、日本女性といえば「ミセス・ワタナベ」。専業主婦のイメージが強いかもしれません。しかし、私のワイフ「ミセス・アベ」は、飲食店の経営者。私が今NYにいることはおそらく知らないぐらい、仕事に忙しい女性です。OECDのデータによれば、日本女性の労働参加率は、ごく最近、アメリカを上回るようになりました。
元気で、意欲にあふれ、そして何よりも、豊かな経験と知恵を持っている、高齢者の労働力も、まだまだ活用の余地があります。
アベノミクスの下では、もはや、日本にとって、人口は制約要因とならない。日本には、様々な「可能性」が満ち溢れていることを、御理解頂きたいと思います。
「日本は新たな黄金時代の入口に立っている。」
3年前、日本のカンバックを見事に予言した、イェスパー・コールさんは、昨年、このように語って、5年から10年先の日本を見据えて、新たな予言をしてくれました。
ありがとうございます。それを実現するのが私の仕事です。あらゆる政治資源を投入してやり抜く決意です。1にも、2にも、3にも、私にとって最大のチャレンジは、経済、経済、経済であります。
皆さんの投資を待っています。そして、共に、新たな黄金時代を謳歌しようではありませんか。
本日は、御清聴ありがとうございました。