データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] COP21首脳会合における安倍総理大臣スピーチ

[場所] 
[年月日] 2015年11月30日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

(はじめに)

 まず、先般パリで発生したテロ事件に関し、犠牲者の方々に心より哀悼の意を表します。テロに屈せずCOP21を開催したオランド大統領、フランス政府及びフランス国民の皆様に敬意と連帯の意を表します。

 今、私たちは、国や文化の違いがあっても、連帯することで、大きな課題を克服することができる、ということを示さなければなりません。

(パリ合意の意義)

 今から18年前、地球温暖化対策の重要な一歩となる京都議定書が採択されました。しかし、その後も、地球の平均温度は徐々に上昇しつつあります。異常気象に伴う大雨や、干魃による災害が世界各地で頻発し、美しい島々は水没の危機にさらされています。この地球は、我々人類のかけがえのないふるさとです。子供や孫の世代に無事に引き渡さなければならない。今こそ、先進国、途上国が共に参画する新たな枠組みを築くべき時です。

(国際枠組みに関する建設的提案)

 今の各国の約束草案だけでは、2℃目標達成は困難であると指摘されています。パリ合意には、長期目標の設定や、削減目標の見直しに関する共通プロセスの創設を盛り込みたいと考えます。

 日本は、先に提出した志の高い(ambitious)約束草案や適応計画を着実に実施していきます。

(日本による貢献策:「美しい星への行動(ACE)2.0」(途上国への対応促進、イノベーション))

 日本は、「美しい星への行動 2.0」、略して「ACE(エース) 2.0」を発表しました。2013年の「ACE(エース)」で示した気候変動対策への日本の取り組みを一段と強化したものです。

 第一に、途上国への対応促進です。気候変動の悪影響に苦しむ途上国、脆弱国の窮状は見過ごすことができません。2020年に、現在の1.3倍、官民あわせて年間約1兆3千億円の気候変動対策の事業が、途上国で実施されるようにします。これまでの関係国や国際機関の努力に、今回の日本による増額分が加わる。これにより、年間1000億ドルという、COP15での約束を達成する道筋がつくと考えます。

 温室効果ガスの排出を削減しながら、この地球上の人々の暮らしを豊かにする。地球の中心部にある地熱エネルギーを取り出し、アフリカにクリーンな電気を届ける。電力網が張り巡らされていない地域に、太陽光で光を灯す。日本の都市の経験を、急速に人口が集中しつつあるアジアの新興都市に伝える。太平洋島嶼国の人々が、台風の接近前に余裕を持って避難できるよう、早期警戒のための設備やノウハウを提供する。これらは、日本企業が長年取り組み、腕を磨いてきた分野です。必ず皆様のお役に立ちます。

 日本は、緑の気候基金(GCF)に15億ドルを拠出しています。その資金が一刻も早く途上国支援に活かされてほしい。来年の25億ドル分の支援について、案件形成から関わることで、その速やかな実行を確保します。

 第二に、イノベーションです。気候変動対策と経済成長を両立させる鍵は、革新的技術の開発です。CO2フリー社会に向けた水素の製造・貯蔵・輸送技術。電気自動車の走行距離を現在の5倍にする次世代蓄電池。来春までに、「エネルギー・環境イノベーション戦略」をまとめます。集中すべき有望分野を特定し、研究開発を強化していきます。

 有志国連合「ミッション・イノベーション」は、日本がこれまで一貫して取り組んできたことと軌を一にするものであり、賛同します。

 先進的な低炭素技術の多くは、途上国にとってなかなか投資回収を見込みにくいものです。

 日本は、二国間クレジット制度などを駆使することで、途上国の負担を下げながら、画期的な低炭素技術を普及させていきます。

(おわりに)

 私たち世界の首脳は、パリで起きたテロに屈することなく、ここに集まりました。今こそ新たな枠組みへの合意を成し遂げ、国際社会の連帯を示そうではありませんか。