データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日・インド・イノベーション・セミナー安倍総理挨拶

[場所] タージパレスホテル
[年月日] 2015年12月11日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 アープ ローゴーン セ ミルカル ムジェ バホット クシー フイー(私は、皆様にお会いできて、大変嬉しく思います)

 昨年に続き今年も、私のインド訪問の際に、イノベーションやビジネスに関するセミナーが開かれ、こうして皆様にお話しする機会をいただき、大変嬉しく思います。

 私は、就任以来、インドとの関係を特別に重視しております。アジアの二大民主主義国である日本とインドの関係は、世界で最も可能性を秘めた二国間関係です。

 強いインドは日本のためになり、強い日本はインドのためになる。そして強い日印関係は、アジア、ひいては世界の平和と繁栄のためになる。私はそう確信しています。

 私の就任以来の3年間で、日本経済は復活を遂げました。名目GDPは28兆円増え、企業収益は過去最高、そして失業率は20年ぶりの低さです。今年の賃上げは、過去17年間で最高の上げ幅でした。

 しかし、人口が減っていけば持続的成長は見込めない。そこで、「人口一億人」の維持をめざし、少子高齢化の克服に乗り出すことにいたしました。

 一億人といっても、数だけではありません。一億人の一人ひとりが潜在力を発揮し、希望を叶えられるようにする。未来に投資し、人々の創造性を解き放ち、イノベーションを促進する。一人ひとりを大切にすることが、究極の成長戦略だと確信しています。日本は、成長と分配の好循環を通じて、「戦後最大の名目GDP600兆円」を実現します。

 インドの経済界の皆様には、是非、再生した日本をその目で確かめていただき、そして、日本に投資していただきたい。モディ首相に倣って申し上げれば、”Come,invest in Japan!”であります。

 そのモディ首相は、”Make in India,” ”Digital India,” ”Skill India,”そして”Clean India”と、多彩な政策を次々と打ち出しています。そこに共通するのは、インドの経済を高度化させる、それを支える人々を大切にする、という考え方であります。

 それは、私の経済政策と考え方が一致します。

 人を大切にすることは、正に、日本企業の経営理念の根本です。従業員を大切にすることが、お客様を大切にすることに通じる。

 高度成長の過程で、公害も産業事故も経験した日本の産業界は、血のにじむような努力を経て、環境負荷が低く、信頼性が高く、経済性にも優れた製品を開発してきました。使う人々を大切にする製品であります。

 日本の協力でデリーで始まったメトロ事業は、今やインド主要都市に広がり、快適で便利な通勤手段をもたらしました。自動車が減り、デリーの空気もきれいになることでしょう。

 インドに日本の技術による新幹線が走るようになれば、広大なインドの都市間の距離を縮め、人の流れを大きく変え、新たなビジネスが生まれることでしょう。

 環境に優しい日本の高効率石炭火力発電技術が普及すれば、大気汚染が減り、インドの皆様の生活がより健康的で快適になることでしょう。

 日本は、「質の高いインフラパートナーシップ」を推進していきます。新たに、インドに進出する日本企業が活動しやすくするための事業向けに金融の特別枠を設定し、総額1.5兆円規模のビジネス機会を創出します。

 多くの日本人は、ゼロを発明したインド文明、そして、今日のインドの人々の高い数理能力に敬意を抱いています。そのインドと科学技術協力協定が締結されて、今年で30年が経ちました。

 経済の発展は、しばしば壁に突き当たります。「先進国病」、「中所得国の罠」。いずれも、克服の鍵は、イノベーションによる生産性の向上です。

 日本とインドで更なるイノベーションの種を植え、育て、花を咲かせていきましょう。科学技術分野における日本とインドの協力は、両国だけではなく、世界中の課題の解決に資することでしょう。

 本日のセミナーが契機となり、日本とインドが連携して世界をリードしていくことを祈念して、私の御挨拶とさせていただきたいと思います。御静聴ありがとうございました。ダンニャワード(ありがとうございました)。