[文書名] 内外情勢調査会2015年12月全国懇談会 安倍総理スピーチ
皆さん、こんにちは。安倍晋三でございます。
ただ今、司会の方からも御紹介いただきましたように、この内外情勢調査会にやってまいりますのも、3年連続となるわけです。
過去、中曽根総理、そして鈴木善幸総理という前例があったそうでありますが、この10数年においては大変珍しいことではないかと思います。なかなか3年連続というのは、まず総理大臣として3年連続やっておらなければならないわけでございまして、そもそも、現役の総理大臣を毎年呼んで、1時間も講演させる会合というのも、他にはないのではないかと思いますが、他ならぬ田崎さんからの御依頼がございまして、やってまいった次第です。また、昨年、この場で、全米オープン準優勝の錦織選手の言葉を借りて、「来年も、またここに戻ってきます」などと言ってしまいましたので、
「言ったことは、必ず実現する。」という安倍政権の基本姿勢でありますから、年の瀬ぎりぎりの駆け込みではありますが、今日12月14日、赤穂浪士の討ち入りさながらに、皆さんとの約束を果たすため、やってまいった次第です。
前回、皆さんの前でお話させていただいてから、1年余り。本当にたくさんのことがありました。
昨年は、9月19日にこの場に立っていたわけですけれども、わずか2か月後に、解散総選挙に打って出る。そんなことは、私自身も、あの時点では、まったく考えていなかった。
2012年の総選挙に引き続き、与党で3分の2を超える議席を頂くことができました。その結果、今年も、現役の総理大臣として、皆さんにお目にかかることができています。現役の総理大臣でなければ、なかなか呼んでいただけなかったのではないかなと思うところです。
1年で3度にわたる日中首脳会談。日中韓サミットも復活し、日韓首脳会談も行いました。こんな東アジア外交の急展開は、誰も予測していなかったのではないでしょうか。
隣国同士、様々な課題があります。先般の東アジアサミットでは、南シナ海をめぐって、海の平和と安全、航行の自由の確保、そして埋め立て行為など一方的な現状変更の自制が、正に主要なテーマとなりました。
大変緊張感の高い首脳会合となりましたが、議長声明には、南シナ海に関して、中国及びASEAN加盟国が、「行動に自制を働かせ、武力による威嚇又は武力の行使には訴えないこと」、そして「国際法にのっとって、紛争を平和的手段によって解決すべきこと」が、最終的に盛り込まれました。
他方で、李克強総理、そして、パリでは習近平主席と、短時間ではありましたが、立ち話をし、戦略的互恵関係を着実に発展させる意志を確認いたしました。
懸案があるからこそ、首脳同士がしっかりと対話することが重要である。その私の主張が、地球儀を俯瞰する外交を展開する中で、着実に浸透しつつあると感じています。
若干遡りますが、ゴールデンウィークには、米国の上下両院合同会議において、日本の総理大臣として初めての演説を行いました。
かつて戦火を交えた日米両国は、今や、自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値で結ばれた「揺るぎない同盟国」となり、その絆は、現在、かつてなく強固なものとなっています。
通常国会では、戦後最長となる延長を行い、平和安全法制を無事成立させることができました。
「戦争に巻き込まれる」といった無責任な批判が行われました。自民党は、今年、立党60年を迎えましたが、安全保障政策を論ずるたびに、同じようなレッテル貼りが繰り返されてきました。
しかし、日米安保条約の改定、PKO法の制定。自民党の先人たちは、そうした批判を恐れることなく、たじろぐことなく行動してきた。そうした責任ある行動が、戦後70年にわたって我が国の平和を守り続けてきた。そのことは、歴史が証明しています。
私たちもまた、先人たちにならい、切れ目のない対応を可能とすることで、抑止力を高め、国民の命と平和な暮らしを守リ抜く。その法的基盤を築くことができました。子や孫の世代のために、しっかりと責任を果たしていくことができた。そう確信しています。
8月には、戦後70年にあたって総理大臣談話を閣議決定いたしました。
3年前の政権発足以来、ことあるごとに、マスコミの皆さんから質問を受けてきたテーマですが、今や、この談話が話題にのぼることは、ほとんどありません。
私は、それが、何よりの「成果」であろうと考えております。
これまで、歴史認識をめぐっては、国内で左右の激しい論争が繰り返されてきました。そのことが、この問題を政治問題、外交問題化する、一因となってまいりました。
しかし、日本国民の間で、実は一定の認識が共有されているのではないか。それらを、21世紀懇談会の有識者の皆さんの力を借りて浮かび上がらせ、談話の中に落とし込もうと考え努めてまいりました。
その結果、多くの国民の皆さんと共有できる談話を作成することができた。これからの、戦後80年、90年、更には100年に向けて、国民と共に目指すべき日本の姿を、しっかりと描くことができた、と考えています。
この1か月ほどは、軽減税率が、大変な議論となりましたが、谷垣幹事長に、しっかりとまとめていただきました。
国内にとどまることなく、北京に出かけてまでも、連日、井上幹事長と協議を続けていただきました。自民・公明両党が、それぞれの持ち味を活かしながら、真摯かつ誠実な議論を積み重ね、最善の結論が得られたと考えております。
そうこうしているうちに、あっという間に年の瀬。盛りだくさんの1年でありました。
この1年間の教訓は、一言で言えば、「来年も、何が起こるか分からない」ということです。伊勢志摩サミットもありますし、参議院選挙もあります。そうした中で、鬼が笑うような来年のことを、皆様の前で話すのは、止めた方がよい。これが教訓であります。
錦織選手は、ツアーファイナルに2年連続で出場するなど、今年も大活躍でしたが、その言葉を紹介するようなことは、また来年も田崎さんから年の瀬の忙しい最中に声がかかると困るので、今年は止めておきたい、と思いますが、しかし先ほど、司会の方から言われた新記録に挑戦すればという言葉も魅力的でした。
その錦織選手は、13歳からアメリカにテニス留学し、世界のトッププレイヤーたちに囲まれて、成長してきました。だから、世界の檜舞台でも物怖じしない。世界と対等に渡り合うのは、錦織選手にとって、特別なことではなく、日常のことです。
フィギュアスケートの羽生選手も、先月、世界最高の300点超えを成し遂げしました。その直後、「まだまだやれる」とインタビューで答えていましたが、本当にできるのかなと私も思っておりましたが、見事、有言実行。昨日、自らの世界最高得点を更に塗り替え、史上初のグランプリファイナル3連覇を達成しました。新しい世代は、大変たくましいと感じています。
もはや、まず国内でチャンピオンになってから世界へ、という考え方は、時代遅れ。最初から、世界の舞台に飛び込み、世界チャンピオンを目指す。そうした発想へと転換することで、日本は、更なる「可能性」を開花できるはずであります。
TPPは、その最初の大きな一歩であります。さらに、EUとのEPA、アジアの国々とのRCEPなど、日本がリードして、世界に大きな経済圏を創り上げていく。海外の活力を、日本の成長へと取り込んでまいります。
小さな「世界チャンピオン」と、先日、ヨーロッパで出会いました。
パリでのCOP21の後、ルクセンブルクを公式訪問しました。小国ながら、世界の金融センターであり、一人当たりGDPは世界一であります。
その晩さん会で、なんと日本から輸入した黒ニンニクが登場したのです。ベッテル首相からも紹介があり、メニュー表にも青森県産と明記されていました。
見た目はトリュフのように上品で、味は甘酸っぱい。あのニンニク特有の臭いは、まったくありません。2泊4日の強行軍で、正直へとへとでしたが、その最後に、遠いヨーロッパの地で、日本の食材に出会えたことに喜びを感じ、疲れも吹き飛ぶ思いでありました。
青森県は、ニンニク生産量日本一であります。しかし、生産して、そのまま売るだけでは、農家の手取りは増えません。
市場価格に左右されないよう、加工してから出荷する。販路を広げ、六次産業化で付加価値をもっとつける。そうした青森の農家の皆さんの情熱が、一気に世界へと羽ばたきました。
開発からわずか7年で全米制覇。アメリカではフルーツ感覚で、「健康や美容にも良い」と話題です。「Sweet&Mild」と書かれた、洒落たパッケージで、全米のスーパー400店舗で、年間12万袋を売りあげるヒット商品となりました。
さらに現在、アメリカにとどまらず、世界24か国以上で販路を開拓しています。そのたどり着いた先が、ルクセンブルク首相府の食卓でありました。
日本では、朝早く起きて、額に汗して草を引き、精魂込めて作物をこしらえる。その長い伝統があります。歴史に裏打ちされた、安全で、おいしい日本の農作物は、必ずや、世界のマーケットでも高く評価されるはずであります。
農産物輸出の世界第二位は、日本よりもはるかに国土の小さいオランダです。トマトなど青果物では国内消費の3倍、チーズなど乳製品では国内消費の2倍近い農産物を輸出しています。日本にもできないはずは、ありません。
「攻めの農政」という旗を安倍内閣が掲げて以来、日本の農産物輸出は、2年連続で過去最高を更新し、昨年は6000億円を超えました。今年は、10月時点で既に6000億円を突破。昨年を20%以上、上回る勢いで、このままいけば、7000億円を超えそうです。1兆円を目指すと言った時にはそんなのは絶対に無理だと皆さんから言われましたが、1兆円目標に向かって、着実に増加を続けています。必ず達成することができると私は確信しています。
今こそ、自信を持って、「農政新時代」を切り拓く時です。若者やがんばっている皆さんが夢や希望を持てる農業へと、改革を進めていく。その起爆剤が、TPPであります。
GDP3100兆円に及ぶ、自由で、フェアなマーケットが生まれる。TPPの下では、農産物の地理的表示など、農業者の皆さんの手間暇が真っ当に評価されるためのルールが共有されます。
この機に、ブランド化を進めて、付加価値を高める。一気に大規模化を進め、国際競争力をつける。さらには、世界に販路を開拓する。税制改正、補正予算、さらには来年度予算。あらゆる政策を総動員して、世界へと挑む農業者の皆さんを力強く後押ししたいと考えています。
オープンな世界へと飛び込むことは、全国津々浦々、個性あふれる地方にとって、大きなチャンスです。
今年もまた、日本人のノーベル賞受賞に、日本が沸きました。先週、大村先生、梶田先生のお2人が、受賞式に参加する姿を拝見しましたが、同じ日本人として、大変誇りに思います。
実は、お2人とも、地方大学の出身。大村先生は山梨大学、梶田先生は埼玉大学の御出身であります。
ノーベル賞受賞者には、実は、地方大学の出身者が多い。これは、日本の特徴です。東大や京大といった、いわゆる旧帝大だけでなく、地方の大学からも、世界トップクラスの研究者が次々と生まれています。
地方こそが、日本の底力の源泉である。そのことを、正に示す例だと思います。地方の元気なくして、日本の成長なし。「地方創生」は、正に成長戦略のど真ん中であります。
アベノミクスの3年間で、有効求人倍率は23年ぶりの高さになっていますが、その効果は、東京や大阪など大都市圏だけでなく、地方にも広く波及しています。
青森、秋田、徳島、高知、福岡、熊本、そして沖縄の7つの県では、過去最高となっています。中でも、高知県では、50年以上前の統計開始以来、初めて1.0倍になりました。もし、この場に、高知県出身の方がいらっしゃれば、喜びを分かち合いたいと思います。高知県にとっては、正に歴史的な出来事であり、その日は、県庁で、祝杯を挙げたそうであります。
地方には、それぞれ、特色ある産物、豊かな自然、多彩な伝統・文化があります。こうした世界に誇るべき資産を、しっかりと活かして、元気で、豊かな地方を取り戻す。「地方創生」は、安倍内閣における最重要課題であります。
安倍内閣が発足して、ビザの緩和などを進め、たった2年で、日本を訪れる外国人観光客は、800万人から1300万人へと増えました。今年は更に増え、1900万人を上回り、2000万人目標に手が届くところまできました。
20年前は年間3兆円を超える赤字を出していた観光収支も、昨年度、55年ぶりに黒字に転じました。年間2500億円の黒字は、当然、過去最高記録ですが、更に今年度は、既に上半期の6か月だけで、6000億円を超える黒字となっています。大幅に記録を更新することは間違いありません。
今、ほとんどの方が、中国人観光客の「爆買い」を思い浮かべたかもしれませんが、それだけではありません。
先日、二階総務会長のおひざ元、和歌山県の、高野山に出かけたところ、ケーブルカーで流れた案内が、日本語の後、まずフランス語、そして英語と続くのです。実際、ヨーロッパやアメリカ、オーストラリアなどからの観光客が多い、という話でありました。
初めて日本を訪れる方は、どうしても、東京や京都、大阪といった場所に行きがちです。中国などから来る方は、こういう方が多いかもしれません。
しかし、二度、三度と、リピーターになって下さる方々は、ミシュランガイドを片手に、高野山など日本を深く感じられる場所に出かけようと思ってくださる。次なる目標は、年間3000万人の高みであります。観光立国をどんどん進めることは、確実に、地方創生につながっていくと思います。
そのためにも、日本の地方と地方を、新幹線を始めとした交通網で、しっかりとつないでいく。正に「地方創生回廊」を完備する必要があるでしょう。
外国人の皆さんにとっても、アクセスしやすい、一つの大きな経済圏へと統合していくことが重要であると考えています。この辺の具体化は、また次なる機会にお話させていただきたいと思います。
「失敗してもうダメだと思うようでは、ダメだ。」むしろ、「失敗したから良かった、これは絶対に役に立つと思いながら、続けていくことが大事。」
これは、ノーベル賞を受賞した、大村先生の言葉です。地道な研究活動の重要性を説いておられるのですが、これは、すべてに共通することではないでしょうか。
私自身、一度、総理大臣の職を辞し、国民の皆様にご迷惑をおかけしました。しかし、その失敗経験が、今の政権運営に大いに役に立っています。
地方創生にも、模範解答はありません。地方ごとの特色をどう生かすか、その方法は千差万別です。試行錯誤も必要でしょう。そうした思いで、今回、自由度の高い交付金を、新たに創設することといたしました。
それぞれの地方が、自らの意欲で、それぞれの計画に基づいて、地方創生を進めていく。熱意ある地方の創意工夫を、政府は、力強く応援したいと考えています。
さらに、これまでの「ふるさと納税」に加え、新たに企業版のふるさと納税制度も創設します。
民間の力も大いに活かしながら、ダイナミックに地方創生を進めていく。地方の皆さんには、是非この機に、情熱を持って、地方に眠る「可能性」を活かしてほしい。大いにチャレンジしてもらいたいと思います。
地方に限らず、日本は、様々な「可能性」に満ち溢れています。
昨日、インドから帰国しましたが、「日印新時代」の幕開けを告げる、歴史的な訪問となりました。原子力協定の原則合意や、安全保障分野での協力強化に加えて、今回、日本の新幹線技術の採用が決定されました。
12億人もの人々が、一気に豊かになる。インドでは、急速にインフラ整備が進んでいます。日本の新幹線の高い輸送能力、安全性、そして信頼性は、そのニーズにしっかり応えるものであります。
モディ首相の就任以来、機会を見つけて首脳会談を行い、首脳同士の信頼関係を深めながら、私自身、積極的に働きかけてきました。そうした経済外交が、また一つ、大きな実を結んだことは、大変うれしいことであります。
この3年間で、私が訪問した国は、すでに63の国と地域に及びます。その多くで、経済ミッションとして、経済界の皆さんに御同行いただいてきました。
その際には、ほぼ必ず、相手国の首脳と直接会う機会をつくるように心がけています。日本では想像しにくいですが、首脳のリーダーシップが強い国では、首脳とのツーショット写真は、あたかも水戸黄門の印籠のようなもの。それをオフィスの部屋に飾っておくことが、現地ビジネスをやる上で、極めて有効です。
念のため申し上げますが、日本では、私とのツーショット写真があっても、あまり御利益はありません。
現地で行う投資フォーラムには、できるだけ首脳にも参加していただき、メイド・イン・ジャパンの良さを、経済界の皆さんから、直接アピールする機会もつくっています。
オープンな世界で、日本の「可能性」を大きく開花させる。そのために、今後も、私が先頭に立って、積極的なトップセールスを展開していくと考えであります。
日本は、これからも、技術のトップランナーであり続けなければなりません。日本から、どんどん新しいイノベーションを起こし続けることが必要です。
その鍵を握るのは、中小・小規模企業であります。
ドラマの「下町ロケット」が大人気です。ロケットが見事に飛んだ日は、視聴率も20%を飛び越えたそうであります。いよいよクライマックスを迎えます。
阿部寛さんが演じる、下町の中小企業・佃製作所の社長は、技術では妥協しない。自社の技術に強い自信と誇りを持っています。従業員を信じ、力を合わせて、いかなる困難も乗り越える。ものづくり大国を引っ張ってきた、日本の中小企業の姿そのものであります。
毎年春に、「理想の上司」ランキングが発表されますが、おそらく阿部さんは、来年、上位に入るに違いないでしょう。同じ苗字でも、私の方は、残念ながら、ランクインは難しいと思います。新聞紙上で、時折、「一強」などと批判されますが、そんなことより、一度は「理想の上司」と書かれてみたいものです。
冗談はさておき、小説だけでなく、実際の世界においても、先月、商用衛星の打ち上げに初めて成功しましたH2Aロケットは、まさしく「下町ロケット」。1000社を超える下請け企業の技術の結晶であります。
宇宙ビジネスの世界はこれまで、アメリカ、ヨーロッパ、ロシアといった強豪によって占められてきました。衛星打ち上げを発注する顧客から見れば、赤道から遠く離れた日本には、地理的な不利もあります。
この差を、日本はイノベーションで埋めました。2段目のロケットを改良し、これまでよりも3万㎞以上高いところまで運ぶことで、衛星の寿命を大きく延ばすことを可能とした。そのことが、今回の成功につながりました。
宇宙空間で2段目のロケットを噴射するためには、過酷な温度変化のもとでも、配管のつなぎ目から水素燃料が漏れないようにすることが必要です。表面の凹凸を1ミクロン以下に加工する技術は、従業員80名ほどの鉄工所の女性社員の皆さんが、手磨きによって実現しています。3200度もの高温に耐える合金を加工し、ミクロン単位の燃料噴射の穴をあけるのは、従業員50名ほどの町工場です。
まさに「ワールド・クラス」の技を持つ、中小・小規模企業が、日本には、きら星のごとく存在します。
こうした皆さんに、TPPを契機に、海外へと大きく飛躍してもらいたい。中小・小規模企業の海外展開を、一層、力強く支援してまいります。国際競争力を高めるため、生産性を向上させていく。そのための投資も、新たに立法措置を行って、税や予算を駆使して支援する考えであります。
その宇宙から、半年間にわたる国際宇宙ステーションでの活動を終えて、先週、油井さんが地球へと戻ってきました。
小学校の卒業文集に、「火星に行く」という夢を綴った少年は、一度は夢をあきらめ、自衛隊のパイロットとなりました。しかし、宇宙への夢を追い続ける空軍パイロットの姿を描いた映画「ライトスタッフ」を見て、一念発起。40歳を超えてから、チャレンジし、夢を叶えました。
まさに、私たち「中年の星」であります。今日は、私も含めて、「中年」というには、いささか年齢が高めの方々が、少し多いような気もしますが、「夢」を追い求めるのに、年齢は関係ありません。
「家族の支えがないと、ここまでたどり着けなかった。」、「一生懸命働いていた父は目標であり、父を誇りに思う。」と、レタス農家を営むお父さんへの感謝を語る油井さんの姿は、大変清々しいものでありました。しかし、何よりも、本人が「目標」を失うことなく、その「目標」に向かって努力を重ねたことが、これだけの偉業につながったのだと思います。
日本経済も同じことであります。
高度成長は、もはや、過去のものとなり、急速な少子高齢化が、大きな構造的課題として、のしかかっています。しかし、チャレンジを始めるのに、「遅すぎる」ということはありません。
アベノミクスの3年間によって、日本経済は復活を遂げました。
名目GDPは28兆円増えました。企業収益は過去最高となり、失業率は20年ぶりの低さです。多くの業種で2年連続のベースアップが実現し、今年は、平均で、昨年を上回る、過去17年間で最高の賃上げが実施されました。
中小企業の倒産件数は、政権交代前と比べて2割も減り、昨年は、24年ぶりに1万件を下回りました。今年は更に、昨年よりも1割近く減っています。
この20年近く、日本は、長いデフレに苦しんできました。しかし、経済の好循環によって、私たちは、「もはやデフレではない」という状況をつくることができました。
今こそ、大きな「目標」を高く掲げ、そこに向かって、新たなチャレンジをスタートさせるべき時です。
安倍内閣は、この秋、新しい挑戦をスタートしました。「一億総活躍」への挑戦です。少子高齢化という構造的な課題に、真正面からチャレンジしてまいります。
「戦後最大のGDP600兆円」、「希望出生率1.8」、「介護離職ゼロ」という、3つの明確な「目標」、「的」を掲げて、新しい三本の矢を放ちます。
一見すると、新・三本の矢は、これまでの「経済政策」の矢に、出生率と社会保障という2本の「社会政策」の矢が加わったように見えますが、三本すべてが、実は、アベノミクスの「経済政策」であります。
少子高齢化に歯止めをかけなければ、日本経済の持続的な成長は望めません。高齢者も若者も、女性も男性も、難病や障害のある方も、誰もが活躍できる社会をつくることができれば、新たなアイデアが生まれ、イノベーションを起こすことができる。つまり、第二の矢と第三の矢があって、初めて、第一の矢が成り立ちます。
他方で、子育て支援を行うにも、社会保障を充実するにも、財源が必要です。そのためには、経済を成長させなければなりません。第一の矢による成長の果実なくして、第二の矢と第三の矢は放つことができません。
成長によって、分配が可能となり、分配によって、持続的な成長が可能となる。成長と分配の好循環を生み出すことが、一億総活躍社会が目指す社会像であります。
つまり、新・三本の矢は、三つすべてが揃っていないと意味がない。まさに毛利元就の「三矢の教え」さながらに、三本あわせて「究極の成長戦略」となるものであります。
今年の税収は、56兆円を超えて、24年ぶりの高さとなる見込みです。安倍政権が発足してから、12兆円以上税収が増えました。
このアベノミクスの果実を活かして、「一億総活躍」社会に向かって、TPP対策などと併せ、歳出規模3.5兆円の補正予算を編成します。ロケットスタートで、一気呵成に政策を実行します。
「希望出生率1.8」の実現を目指し、待機児童ゼロを確実に実施する。そのために、2017年度末までに50万人分の保育の受け皿を用意します。さらに、「介護離職ゼロ」を目指し、2020年代初頭までに50万人分の介護施設を整備していきます。
同時に、保育や介護に携わる人材を確保する。しっかりと数値目標を掲げ、政策を総動員します。
保育士や介護福祉士を志す方々には、返還が免除される奨学金制度を拡充します。さらに、一旦仕事から離れた方でも、「もう一度復職しよう」という方がいれば、再就職のための準備金を、新たに用意します。あらゆる手立てを講じることで、今後、保育について9万人、介護について25万人の人材を確保してまいります。
大家族で支え合うライフスタイルも、選択肢として提案していきたい。三世代の「同居」や、徒歩圏内で暮らす「近居」を促す、新しい措置を講じます。二世帯住宅を建設する際、その費用を一部補助します。賃貸住宅では、三世代が近居する場合の割引を、大幅に拡充したいと考えています。
例えば、皆さんも御存じのマンガ「サザエさん」を思い浮かべて下さい。親と娘夫婦が同居する「マスオさん」スタイルです。当然「嫁・姑問題」は起きません。マスオさんも、義理の両親から大切にされ、居心地は悪くない。タラちゃんも、大家族に囲まれ、のびのびと成長できます。もっとも漫画の中では、いつまでたっても、3歳のままではありますが。
時代はめぐり、核家族化が叫ばれて久しいですが、現代においても、そういう選択肢があってもいいのではないでしょうか。
「一億総活躍」を実現するためには、高齢者の皆さんに、その知恵や経験を、思う存分、社会で発揮してもらう。そのことが、極めて重要です。「介護離職ゼロ」という目標の実現も、介護施設や人材の充実だけでは限界があります。
いつまでも元気で、「生涯現役社会」をつくる。高齢者世帯が、しっかりと自立できる環境をつくることが必要です。
しかし、現実には、高齢者世帯の可処分所得は、この3年間、減少の一途を辿っています。かつて、デフレにも関わらず、年金額を高いまま据え置きました。将来に負担を先送りしないため、その「特例水準」の解消を、この3年かけて進めてきましたが、その結果、年金額は伸びませんでした。
併せて、消費税が5%から8%へと上がった結果、高齢者世帯の消費はかなり冷え込んでしまいました。
GDPの6割を占めるのは、国内消費です。勤労者世帯では、2年連続の賃上げによって、今年度の上半期、3年前と比べて、可処分所得が平均3万円以上増加し、それが消費へとつながる、「経済の好循環」がようやく生まれつつあります。同時に、高齢者世帯の消費も、しっかりと下支えしていかなければ、「GDP600兆円」の実現は望めません。
税・社会保障一体改革では、消費税を10%に引き上げた時に、低年金の皆さんに、月5000円の福祉給付金を上乗せすることとしています。本来なら、今年から支給されていたはずです。しかし、昨年、2017年4月まで10%への引き上げを延期することとなったため、この福祉給付金の支給についても、先延ばしとなってしまいました。
昨年の総選挙の時、一部の野党やマスコミから「支給すべき」との指摘があり、私から、「経済を成長させていけば、税収は上振れしていく。その果実は、しっかりと社会保障の分野に投入していきたい。」と申し上げました。
そのお約束のとおり、アベノミクスの果実を使って編成する今回の補正予算では、消費税8%の負担に苦しむ、低所得の高齢者の皆さんにも、しっかり目配りをしていく。予定されていた福祉給付金の半額ではありますが、年間3万円、一月あたりに換算すれば月2500円を、前倒しで、来年、支給させて頂きます。
中長期的には、年金だけでなく、意欲ある高齢者の皆さんに、多様な就業機会を提供していくことで、更なる自立を促し、経済の好循環を生み出していきます。
勤労者世帯では、今年、連合の調査で、平均2.2%の賃上げが実現しましたが、先日の官民対話で、榊原・経団連会長から、来年は、「今年を上回る賃上げ」を呼びかけたい、という力強いお話をいただきました。
中小企業への支援を拡充しながら、最低賃金についても、政府として、1000円を目指して、年率3%を目途に引き上げていく、という新たな目標を掲げました。
これらがうまく重なっていけば、内需を押し上げ、国内消費をしっかりと伸ばしていくことができるはずです。
加えて、今年の7月8月9月、企業の設備投資は、前年同期比で、11%以上伸びました。実質成長率を、マイナス0.8%からプラス1.0%にまで、ひっくり返すほどの力強さです。榊原会長からは、さらに、3年後までに、経済界全体で「設備投資が10兆円増える」と言っていただきました。
政府としても、法人税改革を断行し、来年度、一気に20%台へと引き下げることを決断しました。さらには、中小企業の設備投資を拡大するため、固定資産税の大胆な減税にも踏み切ります。投資の収益率を高めることで、国内への投資を力強く後押ししてまいります。
こうした取組を進めることができれば、デフレから脱却する中において、名目3%成長を実現していくことができる。2020年頃に、GDP600兆円を達成することは、十分に可能であると考えています。
しかし、もう既に「大風呂敷だ」とか、「実現できない」とか、「一億総活躍」については、マスコミや野党から、批判の大合唱です。20年近いデフレによって、日本の隅々にまで、いかにデフレマインドが蔓延してしまったかを、象徴しているものだと思います。
でも、私、批判を受けると、結構燃えるタイプであります。
先日、昭和の名横綱、北の湖親方がお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りしたいと思います。
現役時代、本当に強かった。勝った後の敗者への冷たい態度から、「憎らしいほど強い」なんて言われていました。当時、子どもが嫌いなものとして、「江川・ピーマン・北の湖」なんて言葉もありました。
しかし、それには理由があったようです。敗者に手を差しのべるのは、同情をかけられたように見える。それは相手に失礼だと考え、あえて冷たい態度をとっていたそうであります。
憎まれ役で、観客から「負けろ」なんてヤジを投げかけられると、闘志がメラメラと燃える。親方は、そういうタイプでありました。しかし、引退間際になると、今度は、観客から「頑張れ」と言われるようになった。そうなると逆に、親方は、自分が情けなく感じて、相撲への意欲が薄らいでいったそうです。
政治家も同じだと思うんです。マスコミや野党の皆さんから、「頑張れ」なんて言われたら、調子が狂ってしまいます。むしろ、批判を受ければ受けるほど、「やってやろう」と闘志が湧いてきます。
まさに「自ら反(かえり)みて縮(なお)くんば千万人と雖(いえど)も吾行かん」の心境です。
少子高齢化の課題から、目を背けることはできません。放置していれば他人が解決してくれる、というわけでもありません。
誰もが活躍できる一億総活躍社会をつくる。これは、「できるか、できないか」ではありません。やるしかないんです。
先日、あのポーズで有名な五郎丸選手が言ってました。
「強豪・南アフリカに、自分も『勝てる』とは思っていなかった。」
「しかし、エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチだけは、『南アフリカに勝てる』と言い続けて、絶対にぶれなかった。」
「そうしている内に、1週間前になって、自分も『勝てる』と思えるようになった。」と。
私は、絶対にぶれません。
一億総活躍社会は、必ずや実現できる。その強い意志を持って、内閣の総力を挙げて取り組んでいく覚悟であります。そして、今はまだ懐疑的かもしれない、皆さんにも、「きっと実現できる」と思ってもらえるようになるまで、やり続けてまいります。
御清聴ありがとうございました。