データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日露ビジネス対話 安倍総理スピーチ

[場所] 
[年月日] 2016年12月16日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 尊敬するプーチン大統領、そして御列席の皆様、「日露ビジネス対話」の開催に当たり御挨拶を申し上げます。

 後世の人々は2016年を振り返り、日露両国の関係が飛躍的な発展の軌道に乗った一年であったと意義付けることでしょう。

 私は、5月のソチ、9月のウラジオストク、11月のペルーと、プーチン大統領と首脳会談を重ね、深い信頼関係を築いてきました。政治、経済、文化等、幅広い分野で多くの成果が結実する中、プーチン大統領の訪日は、日露関係を新たな高みに導く歴史的な出来事といえます。

 昨日は、私の地元、山口県長門市で平和条約締結問題を含め胸襟を開いた会談を行いました。本日、ここ東京で日露関係の展望について大統領と話し合えたことを大変嬉しく思います。

 先日の年次教書演説でプーチン大統領は、ロシアの東方政策は、長期的国益と地域の発展傾向を見据えたものと強調されました。ロシアがアジア太平洋と共に発展していく決意を表明した。私はこのように受け止めました。

 プーチン大統領、アジア太平洋はロシアに開かれています。大統領の決意に賛同し、心からロシアを歓迎いたします。ロシアの豊かな資源、高い技術、優れた人材は、地域の発展の力強いエンジンになり、ひいては地域の安定にも寄与するものと考えます。

 日本も更なる繁栄の道をロシアと共に歩みたい。その思いを込めたアイデアが、ソチで私から提案した8項目の「協力プラン」にほかなりません。

 この会場には、日本の経済界を代表する企業の皆さんが多数出席され、多くの方々が既にロシアとのビジネスに取り組んでいます。「協力プラン」に基づく多くのプロジェクトが、日露のビジネスの最前線で日夜進められています。

 その目に見える成果として、5月のソチから半年余りという短い期間に、60件を超えるプロジェクトが結実したことは、この「協力プラン」の力強さ、日露協力の可能性の大きさを物語っているといえるでしょう。

 健康寿命の伸長では、極東での外来リハビリセンター開設、子供の医療、心臓病やがんの予防等で協力していきます。ウラジオストクとヴォロネジをモデル都市として、活気あふれる生活環境と地域経済を支える都市づくりに協力していきます。

 「カイゼン」というグローバルに使われている言葉が象徴するとおり、日本企業との深い付き合いは、ロシアの製造業大国への近道です。セミナー、ミッション、食関連の共同イベントの開催を通じ、中小企業協力・交流を拡大します。12社のロシアの工場の生産性診断、約100名の企業人材育成によりロシアの産業多様化に協力します。来年はパートナー国として、エカテリンブルグにおける「イノプロム」を、皆様と一緒に成功させます。

 エネルギー分野では、サハリンや東シベリアで石油・天然ガスの上流開発やLNGプロジェクトが進展していきます。今後は、極東地域などで石油天然ガスの共同探査や開発を進めるとともに、LNGプロジェクトの拡張に向けた協力を行います。また、福島第一原発の廃炉に関する日露協力を行うとともに、風力発電やコジェネレーションの導入といった幅広い分野でプロジェクトを推進します。

 極東では、ハバロフスク及びヤクーツクの植物工場での生産拡大、石炭積出し港の整備等、日本企業のプロジェクトが進展しています。また、原子力、ICT・郵便、農水産業といった幅広い分野で先端技術に関する協力を進め、イノベーションを起こしていきます。

 人的交流の更なる活性化のために、査証緩和措置を決定し、JNTOモスクワ事務所を開設しました。将来の世代にわたる日露友好への投資として、青年交流と大学間交流を倍増し、スポーツ交流を3倍増します。

 今回、租税条約改正に向けた正式交渉の開始で合意しました。今後も、日露企業の声に耳を傾け、ビジネス環境の向上に努力しながら、8項目の「協力プラン」を推進してまいります。

 プーチン大統領、ロシアの企業の皆様。日本の強み、日本企業の強み。それは、どの国にあっても、地域社会への貢献を忘れず、地域と共に発展しようという姿勢であります。

 木材加工に関わりつつ、アムールトラの保護に貢献した企業があれば、海鳥が暮らす極東の海域保全に取り組んだ企業もあります。ロシアの6都市で「日本センター」が「カイゼン」講座や訪日研修、ビジネスマッチングに取り組んでいます。今回、この事業を更に強化します。

 現地の雇用、人材の育成、環境への配慮。このように、現地社会との調和の中で一緒に発展しようとする姿こそ、我が国の誇るべき伝統であり、単なるビジネスの関係を越えた、両国の信頼の礎にもなっていきます。

 ウラジーミル。私が目指すのは、互恵の原則に基づき、日露が「共に発展していく」関係です。先日発表された年次教書の中で、君は、我が国との関係の「質的前進」に強い期待を表明しました。

 全く同感です。幅広い分野で日露関係を大きく発展させ、両国国民の間に深い信頼関係を育み、強固な協力関係の下、共にアジア太平洋地域の繁栄をつくり上げ、地域の安定に貢献していきましょう。

 本日の会合では、「協力プラン」のテーマに沿った8つの分科会を含め、今後の日露関係を展望する有意義な議論が行われたと承知をしております。この会合が日露経済関係の、そして日露関係の更なる発展に大きく貢献されますことを期待いたしまして、私の御挨拶とさせていただきたいと思います。

 ありがとうございました。