[文書名] 故大田昌秀元沖縄県知事県民葬 内閣総理大臣 追悼の辞
故大田昌秀氏の沖縄県民葬に当たり、政府を代表し、ここに謹んで哀悼の意を表し、心から御冥福をお祈り申し上げます。
本日、かくも多くの県民の皆さんが各地から集い、大田元知事をしのんでおられる姿に接し、大田元知事が残された足跡の大きさを改めて実感しております。
大田元知事は、御自身も最も苛烈な地上戦であった沖縄戦を経験され、沖縄の平和、そして世界の平和を追求することに、その生涯を捧げられました。
「何よりも平和を大事にし、共生を志向する沖縄の心を世界中に広める」
1995年、県知事時代に建立された「平和の礎(いしじ)」の除幕式で、大田元知事が行われた宣言の中で述べられた言葉です。国籍や軍人、民間人の区別なく沖縄戦の全ての戦没者の名を刻んだ「平和の礎」は、平和祈念の象徴として、訪れる人々の心に平和と共生を訴える場となりました。
沖縄県知事の8年間は、「平和・共生・自立」を柱に、激動の時代に沖縄の基地問題と振興策に精力的に取り組まれました。
特に、沖縄の基地負担軽減については、県知事としての立場にとどまらず、戦争の体験者として、また平和を追究する学者として、そして誰よりも沖縄を愛する一人の人として、確固たる決意と熱意を持って取り組まれました。日米両政府による普天間飛行場の全面返還合意や、沖縄に関する特別行動委員会の最終取りまとめは、歴史的な出来事でありました。
大田元知事の沖縄県民を思う真摯な姿勢と基地問題解決への強い信念の上に成し得たものであったと拝察しております。
大田元知事は、沖縄振興においても多大なる功績を残されました。沖縄都市モノレールや港湾などのインフラ整備を始め、沖縄の発展に欠かせない重要な生活・産業基盤の整備に次々と着手され、現在、県民生活の基盤となっています。沖縄政策協議会の一員として、沖縄をめぐる様々な課題について、政府とともに議論し、県民の思いを切々と伝えられました。
「沖縄の苦しみを軽くしたい」
「二度と悲劇を繰り返させてはならない」
大田元知事の思いは、参議院議員時代、そして政界引退後も変わることはありませんでした。常に沖縄県民を思いやり、沖縄の平和追求へ生涯を捧げられた大田元知事の姿や信念は、人々の胸に永遠に生き続けると信じます。
「戦争の惨禍を決して繰り返さない」という決然たる誓いを貫き、万人が心豊かに暮らせる世の中を実現する。そのことに不断の努力を重ねていくことを、改めてお誓い申し上げます。大田元知事が心を砕かれていた沖縄の基地負担の軽減についても、政府として、引き続き全力を尽くしてまいります。
本土復帰から45年を迎えた現在、大田元知事の築かれた沖縄振興の礎の上に、沖縄は、その優位性、潜在力を存分に活かし、飛躍的な発展を遂げつつあります。政府として、沖縄の振興を前に進め、沖縄の明るい未来の構築にできるだけ貢献していくことをお誓いいたします。
沖縄の発展と平和の実現に御尽力された大田元知事の遺徳をしのびつつ、改めて、心より御冥福をお祈りし、追悼の辞といたします。
平成二十九年七月二十六日
内閣総理大臣 安倍晋三