データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典あいさつ

[場所] 
[年月日] 2017年8月9日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 本日、被爆七十二周年の長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典に当たり、原子爆弾の犠牲となられた数多くの方々の御霊(みたま)に対し、謹んで、哀悼の誠を捧(ささ)げます。

 そして、今なお被爆の後遺症に苦しんでおられる方々に、心からお見舞いを申し上げます。

 一発の原子爆弾により、一瞬にして、七万ともいわれる数多(あまた)の貴い命が失われたあの日から、七十二年がたちました。一命をとりとめた方々にも、耐え難い苦難の日々が強いられました。人々の夢や未来も、容赦なく奪われました。

 しかし、長崎の人々は、原子爆弾によって破壊された凄惨な廃墟(はいきょ)の中から立ち上がり、たゆまぬ努力によって、素晴らしい国際文化都市を築き上げられました。

 この地で起きた惨禍が二度と繰り返されてはならない。唯一の戦争被爆国として、「核兵器のない世界」の実現に向けた歩みを着実に前に進める努力を、絶え間なく積み重ねていくこと。それが、今を生きる私たちの責務です。

 真に「核兵器のない世界」を実現するためには、核兵器国と非核兵器国双方の参画が必要です。我が国は、非核三原則を堅持し、双方に働きかけを行うことを通じて、国際社会を主導していく決意です。

 そのため、あの悲惨な体験の「記憶」を、世代や国境を越えて、人類が共有する「記憶」として継承していかなければなりません。昨年、オバマ大統領が、現職の米国大統領として初めて、広島を訪れ、被爆の実相に触れ、核を保有する国々に対して、核兵器のない世界を追求する勇気を持とうと力強く呼びかけました。核を保有する国の人々を含め、長崎・広島を訪れる世界中の人々が、被爆の悲惨な実相に触れ、平和への思いを新たにする。若い世代が、被爆者の方々から伝えられた被爆体験を語り継ぐ。政府として、そうした取組をしっかりと推し進めてまいります。

 そして、昨年十二月、ここ長崎で開催された、核兵器廃絶に向けた国際会議での真摯な議論も踏まえながら、核兵器不拡散条約(NPT)発効五十周年となる二〇二〇年のNPT運用検討会議が意義あるものとなるよう、積極的に貢献してまいります。

 被爆者の方々に対しましては、保健、医療、福祉にわたる総合的な援護施策の充実を行ってまいりました。今後とも、被爆者の方々に寄り添いながら、援護施策を着実に推進してまいります。

 特に、原爆症の認定について、引き続き、一日も早く結果をお知らせできるよう、できる限り迅速な審査を行ってまいります。

 結びに、永遠の平和が祈られ続けている、ここ長崎市において、改めて、「核兵器のない世界」と恒久平和の実現に向けて力を尽くすことをお誓い申し上げるとともに、原子爆弾の犠牲となられた方々のご冥福と、ご遺族、被爆者の皆様、並びに、参列者、長崎市民の皆様のご平安を祈念いたしまして、私の挨拶といたします。

平成二十九年八月九日

内閣総理大臣・安倍晋三