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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第51回自衛隊高級幹部会同 安倍内閣総理大臣訓示

[場所] 
[年月日] 2017年9月11日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 本日、我が国の防衛の中枢を担う幹部諸君と一堂に会するに当たり、自衛隊の最高指揮官たる内閣総理大臣として、一言申し上げたいと思います。

 九州北部豪雨の現場で、濁流に漬かりながら、人命救助や行方不明者の捜索に当たる諸君。豪雨が続く被災地では、避難される方々に寄り添い、心の支えとなりました。

 灼熱(しゃくねつ)のアデン湾、南スーダンで世界の平和と安全のため、黙々と汗を流す諸君。自衛隊の諸君の、高い使命感に裏打ちされた懸命な姿が、私だけでなく、多くの国民の瞼(まぶた)に浮かびます。

 北朝鮮による、我が国上空を飛び越えるミサイル発射や核実験という暴挙。

 自衛隊は、発射直後から落下まで、ミサイルの動きを、切れ目なく完全に探知・追尾していました。速やかな放射能調査により、国民の安全を確認しました。北朝鮮がミサイル発射の検討を表明した時には、即座にPAC-3部隊とイージス艦を展開させました。県民の安心につながった。迅速な対応に感謝する。島根、広島、愛媛、高知の知事からの言葉です。国民の負託に全力で応え、与えられた任務を全力で全うする隊員諸君。国民から信頼を勝ち得ている自衛隊員は、私の誇りであります。

 同時に、我々は、信頼に応える責任の重みを、噛(か)み締めなければならない。南スーダンの日報問題をめぐっては、国民の皆様から大きな不信を招く結果となりました。最高指揮官として、国民の皆様に、おわびを申し上げたいと思います。

 真に国民のための自衛隊たれ。自衛隊創設以来のこのすばらしい理念を、今一度、しっかりと胸に刻み、国民の負託に応えていく。最高指揮官たる私自身が、先頭に立って、皆さんと共に全力を傾けたいと思います。

 かつて、東西冷戦構造の下では、脱脅威論、すなわち、目の前の脅威に直接対抗しない、という考え方が、我が国の防衛政策の中核でありました。しかし、厳しさを増す我が国の安全保障環境を前に、我々は、目の前の現実に、真正面から向き合わねばなりません。

 安全保障政策を立て直す。この信念から、10年前、国の防衛という国家の最も基本的な権能を担う組織の、在るべき姿として、防衛省を設置しました。二次政権発足後、国益を長期的視点から見定め、我が国の安全を確保していくため、我が国初となる国家安全保障戦略を策定し、その司令塔として国家安全保障会議を設置しました。積極的平和主義の下、防衛装備移転三原則を策定し、さらに、限定的な集団的自衛権の行使を含む平和安全法制を制定、及び、新たな防衛協力ガイドラインを日米で合意しました。我が国を取り巻く安全保障環境の現実を直視するとき、これらの政策は、全く間違っていなかった。私はそう確信します。

 北朝鮮による、我が国上空を飛び越えるミサイル発射や核実験という暴挙。相次ぐ国籍不明機による領空接近。真正面から向き合い、こうした枠組みの下で、万全の対応をとらなければなりません。

 安全保障政策の根幹となるのは、自らが行う努力であります。自らの手で、自らを守る気概なき国を、誰も守ってくれるはずがありません。同時に、地域の平和と安定なくして、我が国の平和もあり得ません。

 我が国自身の防衛力を強化し、自らが果たし得る役割の拡大を図っていく。小野寺大臣には、防衛大綱の見直しと、次期中期防衛力整備計画の検討を指示しました。これまでの考え方を、所与のものとすることはできません。将来の在るべき防衛力の姿に思いを致し、これからの時代にも妥当性があるのかどうか、不断の検討を行っていくことが必要です。自衛隊が向き合う現実を、一番よく知るのは、今日、この場にいる諸君であります。現場からの忌憚(きたん)のない意見を積極的に提示してもらいたい。諸君の貢献に期待しています。

 国民の安全を守り、地域の安定を維持するためには、日米同盟の強化が不可欠です。助け合うことのできる同盟は、その絆を強くする。平和安全法制と新ガイドラインの下、日米の絆は、かつてない強固なものとなっています。北朝鮮が挑発行為を繰り返す中、その脅威を抑止しなければならない。今年、日本海で米空母2隻と史上初となる日米共同訓練を行いました。戦略爆撃機との共同訓練も重ねています。我々は、米国と共に防衛態勢と能力の向上を図るべく、具体的な行動をとっていかなければなりません。

 普遍的価値と戦略的利益を共有する国々との協力の強化も極めて重要です。今年、史上初めて、日本、米国、英国、フランスの4か国による共同訓練を行いました。インドと米国との3か国の共同訓練「マラバール」も、今後、恒常的に実施していきます。連携強化のインフラであるACSA(物品役務相互提供協定)についても、今年、豪州、英国との協定を締結し、フランスと締結交渉を開始しました。今後とも、戦略的な国際防衛協力を積極的に推進してもらいたいと思います。

 昨年、この場で、適者生存という言葉を紹介しました。生存競争において、勝ち残ることができるのは、最も力がある者ではありません。その環境に最も適応した者。すなわち、環境の変化に柔軟かつ迅速に対応できた者であります。

 その一例として、自衛隊が新たな時代に適応できるかどうかの試金石は、女性活躍であると申し上げました。残念ながら、昨年、この場に女性の将官の姿はありませんでした。

 今年は、近藤奈津枝さんが列席している。大変、うれしく思います。

 男性中心の働き方文化の改革。改革は、これで終わりではありません。

 新たな時代に適応する。自衛隊は、ここ数年、大きな組織改革、制度改革を積み重ねてきました。これらの真価を発揮させるには、より一層、一体的かつ機動的な組織文化へと、変革を遂げていく必要がある。

 国民目線を忘れず、全体を俯瞰(ふかん)しながら、柔軟に事に当たる。諸君の行動の一つ一つが、変革につながります。新たな組織と制度に、しっかりと魂を入れていってほしいと思います。

 そして、最高指揮官たる内閣総理大臣と、防衛省、自衛隊が、一体となって、事に当たることができるよう、常に心を砕いてほしい。そう思っています。

 「只今がその時、その時が只今なり」

 江戸時代の武士、山本常朝(じょうちょう)の「葉隠(はがくれ)」に記された言葉です。常日頃から、備えを万全とするために、不断に自己を磨く。

 国際情勢は、一層複雑化し、私たちが望むと望まざるとに関わらず、激変を続けています。昨日までの平和は、明日からの平和を保障するものではありません。

 こうした状況の変化を、しっかりと見定めながら、あらゆる事態に備え、国民の命と平和な暮らしを守る。この崇高な任務に対し、いかなる困難にもひるまず、強い使命感を持って、たゆまぬ努力を続けていただきたい。

 国民の生命・財産、領土・領海・領空を断固として守り抜く。最高指揮官である私を含め、一人一人が、国民の負託に応えるため、全力を尽くしていかねばなりません。諸君と共に改めてそのことを誓いたいと思います。

 私と日本国民は、常に、諸君を始め全国25万人の自衛隊と共にあります。その自信と誇りを胸に、日本と世界の平和と安定のため、ますます精励されることを切に望み、私の訓示といたします。

平成29年9月11日

自衛隊最高指揮官

内閣総理大臣   安倍晋三