データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] STSフォーラム第14回年次総会における安倍総理スピーチ

[場所] 
[年月日] 2017年10月1日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 尾身理事長、ゲストの方々と御列席の皆様、再びお招きくださったことに感謝申し上げます。

 これで5回連続して皆様の総会に参加させていただきました。そしてここを去ります都度、我々の未来というものを、更に楽観できるという思いに至るわけであります。

 科学と技術が成し得るものを信じるところ、私には、大きなものがあります。我々が抱える構造的な問題など、その中には、解決のため科学技術を伸ばさざるを得ない、また、その発展から便益を得るのでなければならない、というものがあります。事情はそのように言わば明瞭です。

 例えばの話として、農業です。我が国では農業に従事する方々が高齢化し、またその数が減っております。しかし、農業にもポジティブな面がある。見てみるといたしますと、一つ良い例がロボット技術でありまして、それで何ができるかです。

 去る8月のこと、北海道のとある農場で、トラクターが4台仲良く並んで走っておりました。どこにでもある物と違った。4台はお互いに話し合っておりました。と申しますのは、4台のトラクターは始終通信をし合って動きを合わせていたのであります。すなわち、自動の、運転手のいらないトラクターなのでありました。お互いに連携し合っておりまして、動作は正確です。誤差はたったの1インチかそれくらい。やがて日本版のGPSとつながりますと精度は更に向上するというお話です。今ちょっとどんなふうに動くのかビデオを御覧いただきましょう。

 ロボット・トラクターなら天候に関わらず、昼ばかりか夜でも、持ち主が眠っている時でさえ働くことができます。これなどは、技術のおかげで我々の農業が今よりもっと有望なものになり得るという証拠としては、ささやかなものです。いずれにせよ、農業従事者が高齢化する、心配だ、とは、おなりになる必要がありません。

 次にお話ししますのは、オープン・イノベーションについてです。オープン・イノベーションというもの、推し進めようといたしますと、鍵になるのは規制の緩和です。

 正にたった今始まりつつありますのが、自動走行車の大規模な実験です。場所は東京の近くで、主として公道が使われます。トヨタ自動車を始め、日本の自動車会社、自動車部品メーカーはもちろん参加しますが、そればかりではありません。BMW、VW、メルセデス・ベンツ、ボッシュ、それにコンチネンタルもやって来て実験に加わるのです。ドイツの大企業が加わったことで、実験は、オープン・イノベーションを追求する試みとして、一つの典型となるに至りました。どこか、よそで育った知識、それを組み合わせて新しい何かをつくるというのが、オープン・イノベーションの要諦です。また、ダイナミックでインタラクティブな走行用の地図を開発しようといたしますと、オープン・イノベーションは鍵を握ります。

 それにしても、一つ実験があるといっても、どうしてドイツの会社が日本に来るというのでしょうか。実は日本では、自動走行にまつわる規制が、よそのどの国よりもイノベーターたちに優しくできている。それが一因で、ドイツの企業が日本にやって来ているのです。もう一度申し上げてもいいですか。日本ほどイノベーターにとって優しい規制を持つ国は、他にはどこにもありません。

 日本では、警察庁が公道で自動運転車の試験をしようという人のためにガイドラインを発表しました。これが、もう1年以上前のことです。このガイドラインというのが、いつ、どこでも、許可証なしに運転してよいということになっている。繰り返すに値すると思いますが、いついかなるときでも許可なしに、です。必要なときはハンドルを握り直せるようになっていること、という条件はあるのですが、それだけです。

 私は各省を後押しいたしてまいりました。新しい技術にキャッチアップできるように規制を変えてほしいと、そう言ってきたわけであります。

 もう一つ、良い例になりますのが医薬品産業です。我が政府が規制を変えまして、新薬を開発して上市するのに掛かる時間は、ここ日本の場合、他のどの国にも全く引けをとりません。新薬を試験してみたいと言って、わざわざカリフォルニアから日本に来る人たちがいるくらいなのですが、むべなるかな、なのであります。

 科学、技術が、長足の進歩を遂げつつある時代であります。私は、日本をイノベーションの揺籃(ようらん)にして、日本人、ドイツ人、どの国のどんな方でも、共に働いて新しい何かをいつもつくり出すという、そういう国にしないといけない。そう決意をしております。

 ありがとうございました。